060-4-9_お祈りの少女(挿絵あり)
その子は、数本の蝋燭に照らされながら床に跪きお祈りをしていた。周囲にはその子ども以外、誰もいないようで、教会の中は、し~ん、として静まり返っている。その子は、僕たちを気にもせずに祈り続けていた。お祈りの邪魔にならないように、ヴィースと二人で後方の長椅子に座っていると、間もなくお祈りが終わった。
その子はゆっくりと立ち上がり、数本の蝋燭の内、一本の蝋燭を燭台に移すと、後の蝋燭の火を手で煽って消し、こちらに向かって歩き始めた。
女の子だね。僕やイリハと同じくらいかな?
女の子の明かりは蝋燭の火だけだから、こちらが見えないようだ。彼女は自分の足元を見ながら、真っすぐに通路を進んできた。まだ、僕たちには気づいていない。そして、蝋燭の火が僕たちに届く位置まで近づいた。その時。
「あぁぁぁーーーーっ!」
突然、女の子が叫んだ! 彼女はきっと、蝋燭の明かりに、突然、人が映ったもんだから、ものすごく驚いたに違いない。女の子は床に転び、蝋燭を落としてしまった。落ちた衝撃で蝋燭は消えてしまい、辺りは真っ暗になって何も見えない。
「ヴィース、明るくできる?」
すると、直ぐにヴィースが魔法で光を作り、教会の中は、蛍光灯を灯したかのように、たちどころに明るくなった。女の子の様子を見ると、彼女は、通路の床に四つん這いになっていて、蝋燭を手探りで探そうとしていた。そして、彼女はその姿勢のままヴィースと目が合うと、怯えたようにのけ反った。彼女の驚きの眼差しは、僕の方にも向けられている。
「ごめんね、驚かしちゃって」
そう言って女の子の前に近づくと、またのけ反って、後退りしようとする。そんな彼女を観察すると、やはり僕と同じ歳くらいに見える。彼女の髪は肩までで色はオレンジ色、瞳はブラウンで、目尻の下がった優しい顔をしている。そして、ハイネックの白いインナーに茶色いワンピースを来ていた。少し瘦せているように見えるけれど、体格は、標準的な範囲かもしれない。
そうやって彼女を見ていると、それまで怯えていた女の子が、僕の銀のチョーカーに気が付いてそれを指さして言った。
「どぅーれぇーうぃーでぇすぅかぁ?」
あっ、この子、もしかして、耳が聞こえないんだね。
僕は、自分の耳を触って指でバツ印を作り、その子を指さした。すると、女の子は口をつぐんで下を向いた。
しまった!
今のジェスチャーで、彼女を傷つけたかもしれない。
ところが、女の子は僕に近寄ると両手で僕の首輪をそっと触り、心配そうな顔をして言った。
「いぃーだぁーくなぁーいぃーでぇすぅかぁ?」
何んと、彼女はそう言って、僕のことを気づかってくれたのだった。
この子、優しい!
「大丈夫さ」
彼女には聞こえないだろうけど、そう言って女の子の両手を取り、ニッコリと笑って、彼女の目を見つめた。すると、そのつもりは無かったのだけれど、自然と、彼女の記憶が頭の中に流れてきたっ!
ほんの少しの静かな時間が過ぎる。そして……。
あ~、そうなのか……。
どうやら、この子は、生まれた時から耳が聞こえないようだ。そして、今、彼女は両親とは暮らしていないようである。
何か事情があるみたいだね。
段々と、この子のことが気になってきた。さらに、女の子の目を見つめる。今度は意図的に彼女の記憶を読む。すると、彼女がさっき何を祈っていたのかを知ることができた。
この子は、両親の無事を祈っていたんだね。この子の両親はどこへ行ったんだろう?
気になりだしたら止まらなくなってきた。でも、彼女がイメージしている顕在的な記憶は、今の内容くらいだから、これ以上、記憶を読み取ることができない。
それなら、筆談をしてみたらどうかな?
彼女の掌に、「君の名前は?」と書いてみる。しかし、女の子は首を横に振った。
「ダメか」
文字を習ったことがないのだろうか。ただ、こういう世界ではそれほど珍しいことではないだろう。
それにしても困ったな。
そんな僕の様子を見ていたヴィースが言った。
「女神の祝福をなさっては?」
「女神の祝福? でもあれは、眷属の契約でしょ? いや、イリハやアリサともキスはしたけど……」
そう言えば、イリハの場合は彼女の身体が回復したのだ。もしかしたら、女神の祝福をすれば、この子の耳が聞こえるようになるかもしれないのか? でも、女の子の意思を確認せずに勝手にしていいもんだろうか?
やはり、それは違う気がする。
どうしようかと考えていた時、突然、祭壇の方からボンヤリと光る何かが飛びだした。それは、小さな光の粒を後方に散りばめながら、こちらに向かって飛んできた。目の前に来たそれをよく見ると、透き通った羽がある。
妖精だ!
「へぇ~、初めて見たよ」
それは、大人の掌くらいの大きさの小さな妖精だった。その妖精は僕たちの周りをぐるりと一周すると、女の子の肩に止まり、そこに座った。
その様子を見てヴィースが言った。
「エインセルか?」
「そうよ」
その妖精が答えた。
「エインセル?」
よく見ると小さな女の子だ。彼女は、ひらひらとした緑色のドレスを着ている。
「エインセルって、君、なんの妖精?」
妖精にそう聞いてみると、その妖精は呆れたように言った。
「あらっ、女神様のくせしてそんなことも知らないの?」
「あははっ、ゴメン、まだこの世界でそんなに長くないからね」
なんだか言い訳みたいになっちゃったな。
すると、ヴィースが説明をした。
「エインセルは子ども好きな妖精です。特に、何か特徴があるわけではありません」
それを聞いたエインセルは、頬を膨らませた。
「何よそれっ! 馬鹿にしてっ! 変な竜っ! ちゃんと見なさいよ。ほらっ、こんなに綺麗なドレス着てるのよっ!」
確かにヴィースはデリカシー無さすぎだね。
そして、妖精は女の子の耳元で何かをささやいた。すると、彼女が驚いたような顔をして、僕とヴィースを代わる代わる見る。
「あの、今、彼女になんて言ったの?」
エインセルにそう聞くと、彼女はぶっきらぼうに言った。
「あなたたちの事よ。何も知らない女神様と変な竜って言っただけ!」
「ホントにっ!?」
エインセルは女の子と話せるんだ!
「あのさ、彼女の名前は何て言うのか知ってる?」
「知ってるけど、言っちゃダメ」
エインセルはそう言って、女の子の肩からサッと飛び、彼女の顔の前でホバリングした。女の子はニコニコしながらエインセルを見ている。
そうか、さっき名前を聞いた時、首を振ったのはそういうことなんだな。
女の子は、何かの事情があって名前を言わないのかもしれない。それなら……。
「この子は、両親の無事を祈っているようだったけど、両親はどこにいるのか事情知らない?」
そう聞いてみると、エインセルが教えてくれた。
「王様の兵隊さんにつれて行かれたって言ってるわ」
「王様の?」
もしかしてこの子……。
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……何も知らない女神様と変な竜って言っただけ!
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