056-4-5_レピ湖のお宝
ようやく話が落ち着いたので、さっき言いかけた報酬のことも言っておこう。
「それから、報酬のことだけど、これも湖からいただくことにして王宮に請求なんてしないから大丈夫さ」
そう言って、水の魔石を一つ取り出して見せた。すると、男爵が身を乗り出してきた。
「ほう、水の魔石か。珍しい。大変貴重なものだ。それを何処で? そうか、レピ湖だな」
男爵の言葉を聞いて、バイドンが、また、驚いている。
「まさか、それを報酬に? レピ湖でも滅多に見つかるものではありませんよ!」
彼は、呆れているのか、レピ湖から、水の魔石をいただくという話を、まともに信じていないようだ。興味深々の男爵と、呆れ顔のバイドンの二人に僕のプランの概略を説明した。あくまで表向きのプランだけど。まぁ、説明は簡単だ。魔法を使って、湖底から魔石を一切合切引き上げると言った。その際、水の魔石が含まれるだろうから、それを報酬の代わりにするという話だ。バイドンはあんな顔しているけれど、ヴィースの話ならたくさんあるということだし、多く回収できれば、王宮にも何割か納税するつもりなのだ。後の使い道は男爵と相談すればいい。
これなら、誰も損はしないし、みんなウィンウィンだね。
しかし、男爵は、口元を上げて悪い顔をした。
「バイドン、良かったな。上手くいけば、町は無事だし、王宮騎士団の責任問題は回避できる。いや、それどころか、事前に危機を回避した隊長の株が上がるぞ。ハッハッハッ!」
そして、男爵は口元を、さらに、にやけさせながら続けた。
「しかし、バイドン、これには大きな経費も必要だ。なにせ、レピ湖は深さが五百キュビト以上あると聞くからな。それにクライナ王国最大の湖なのだから、途方もない作業だぞ。いくら魔法を使うとは言え、本当は魔石の回収などするよりも、付近を立ち入り禁止区域にするほうが現実的な対応であろう。しかし、そうなれば、魔石の不法投棄が止まらんだろうし、ますます魔獣が狂暴化し、そのうち、レピ湖は魔獣の巣窟になり、周囲は人が近づくこともできんようになる」
「た、確かに。湖底から魔石を回収するなど、私には想像も出来ないような作業ではありますね。例え魔法を使用するとしても、かなり長期間の作業となることが見込まれます」
「そうであろう? ところが、エリアは、殊勝にも王国からの報酬は要らんと言うておる。まぁ、作業の間、湖の警戒は怠る事が出来んが、王宮騎士団の関わりはその程度の事だ。それでだが、バイドン、人口魔石の回収に必要な作業により湖から引き上げられた人口魔石以外のものは、全てボズウィック家に帰属するという事でどうだろう?」
マジか!
しかし、バイドンは恐縮しているようだ。
「本当にそんな程度でよろしいのでしょうか? 信じ難いですが、もし、エリア様に王宮の方で報酬も用意せずに魔石を回収できるなら、それくらいは当然の事です。私も王宮騎士団として今のお話を書面にしたため、男爵様と覚書を取り交わすことにいたしましょう。そして……」
さらに、バイドンは、レイブン侯爵家の者として、ボズウィック男爵に感謝したいと言った上で、改めて僕に謝罪をした。
「エリア様、先程は非情に失礼な態度を取ってしまい、深くお詫びいたします。そして、エリア様の治療術に感服いたしました。改めてこのお礼をさせてください」
「もう気にしなくてもいいよ」
まぁ、治療のお礼は貰ってあげてもいいけどね。ハグチューならいらないけど。
バイドンの謝罪を聞いていた男爵は、わざとらしく椅子に掛け直して咳払いを一つすると、バイドンに真っ直ぐ視線を向けた。
「君がレピの隊長であるがゆえに、このボズウィック家はレピの王宮騎士団に協力を惜しまない」
男爵がそう言うと、バイドンはビシッと姿勢を正し直して敬礼した。そして、彼は、深々とお辞儀をして、部屋を出ていった。
男爵は人たらしだね。バイドンが感謝までして行っちゃったよ。
バイドンが出て行ったのを見届け、男爵がにんまりと笑った。
「エリア、ワシにも一口乗らせてもらえるか?」
「水の魔石を見せた時から、もうその気だったんでしょ? もちろん最初から男爵様には相談するつもりだったけど、王宮に税金くらいは払わなきゃと考えていたのに、ボズウィック家の総取りなんて、男爵様には負けるよ。それにバイドンさんのあの様子なら、ボズウィック家が協力するんじゃなくて、レピの王宮騎士団が、こちらになんでも協力しそうだよ」
「そうか? ワッハッハッハッハッ!」
男爵は、そうやって大笑いした後、顔をニンマリとさせた。
「これなら誰も損はせんだろう? ところでエリア、水の魔石がどれくらいの価値なのか知っておるのか?」
「どれくらいになるの?」
そう男爵に聞くと、男爵は得意げに説明してくれた。男爵の説明では、魔石は非情に汎用性が高く、生活に使用できるのは当然で、製造業などの他、宝飾品、さらには武器としても利用されているとの事だ。特に、魔法の杖に加工すれば、魔術師でなくても、訓練さえすれば誰でも魔法使いになれる、そういう代物だということである。そのため、天然魔石は価格が高く、それ一個がクライナ王国金貨十枚で取引されているらしい。金貨は一枚あれば一般庶民が一か月暮らせる値打ちがある。もちろん、それほどの価値があるのは天然魔石だけであるらしい。
なるほど。ということは、前世の感覚でいうと、金貨一枚で二十万円くらいだろうか?
そうなると、天然魔石一つが……。
「に、二百万!?」
思わず声に出てしまった。
「二百万?」
男爵が反応しかけたが、適当にごまかしてやり過ごした。そして、男爵は、魔石の価値を言ったところで、今度は、回収量の見込みを尋ねてきた、
「どうだ、エリア。魔石の価値は? それで、どれほどの量が湖底に眠っていると見込んでおる?」
「まだ分からないけど、ヴィースの話ではたくさん落ちているらしいよ」
ヴィースが本当にそう言っていたし、精霊が嘘も言わないでしょ。すると、今度は、男爵がレピ湖にまつわる伝説を話してくれた。
「フッフッフッ。宝探しだな。おぉ、そうだ、宝探しと言えば、レピ湖には面白い言い伝えがあってな……」
それは、遥か昔、この世が滅び行く時代に、この付近を治める王国の王族たちが自分たちの財産を後世に残そうと、レピ湖の底に金銀財宝を沈めたという話だった。そして、その時、財宝を水の精霊に守護してもらうため、近くの美しい村娘が、水の精霊への生贄として人柱にされたという悲しい話が残っているのだという。今でも、レピ湖で稀に見つかる水の魔石は、その村娘の涙だと言い伝えられているそうだ。
男爵が話を続けた。
「トレジャーハンターたちが何人もお宝さがしに挑んでおるが、王族の財宝を見つけた物はおらん。まぁ、これはおとぎ話だがな。ワッハッハッハッ!」
男爵が子どものように大笑いしている。
「楽しそうだね、男爵様」
そして、談話室も笑いに包まれていった。深刻な陰謀の話が、男爵のお陰で宝探しの話に変わってしまった。
古代王家の財宝か……。ロマンだね。僕も楽しみだ!
ところで、男爵がさっき言ったキュビトについて聞くと、長さの単位で、一キュビトは大体五十センチ程のようだった。レピ湖の水深は二百五十メートル以上ということになるようだ。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
と思ったら
下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。
面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当に励みになります。
重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。