048-3-13_手紙に記された心配事
イリハと一緒に、午後のティータイムを過ごしていると、また、男爵から、談話室に来るように声がかかった。ヴィースは部屋に戻り、イリハは、グレマンさんと約束があるからと言って庭に向かったので、談話室には一人で向かうことにした。
談話室に行くと、男爵とローラ夫人が椅子に座っていた。そして、執事のモートンとアリサが脇に控えている。
席に着くと、男爵が話し始めた。
「エリア、度々すまんな。少し、相談があってな」
男爵は、そう言って一つ息を吐いた。
「息子から手紙が来たことは、イリハから聞いておると思うが、ワシの方へも手紙が届いておってな。エリアに、その内容について、話しておきたいのだが……」
「あぁ、レイナード、えっと、お兄様からの手紙の事なら、今朝、イリハに見せてもらったよ。でも、僕に話しておきたいなんて、何かあったの?」
男爵が続けた。
「まぁ、そうなのだ。ただ、手紙の話をする前に、エリアには、まず、レイナードのことを話しておこう……」
そう言って、男爵が、レイナードの話を始めた。
「息子のレイナードは、親のワシらが言うのもなんだが、優秀な息子だ。今は休学をしておるが、息子は王立学園で励んでおる……」
男爵は、息子の自慢をする風ではなく、淡々と話を進めた。男爵の話によると、レイナードは、決して親の欲目としてではなく、他人から見ても、逸材の魔法剣士であるようだ。彼は、水の精霊ウィンディーネと契約し、中級魔法まで使える水系魔法術師のようだ。しかも、剣の腕前は、王宮騎士団の幹部クラスに匹敵する実力を持っているらしい。そして、レイナードは、学園を卒業後、魔法剣士として王宮騎士団に入団することが決まっているとのことだ。魔法が使えるだけで優秀とされるのに、中級魔法まで使えるレイナードは、当然、王宮騎士団からもスカウトされる。彼は、将来の王宮騎士団を率いる幹部候補生であるらしい。
レイナードって、エリートなんだね。
男爵は話を続けた。
「息子は、戦闘の実力もさることながら、級友からの信望も厚い。息子が正式に王級騎士団に入れば、ワシは、家督を息子に譲ろうと考えている……」
男爵も、頼もしい息子が跡を継いでくれたら安心だろう。
親は、やっぱり息子に後を継いで欲しいはずだよ。僕の場合は、父さんから直接言われたわけじゃなかったけど、父さんだったら喜ぶかなっていう思いが、無かったわけではないからね。
男爵の話は続く。
「ただ、心配は、息子がまだ若く、経験が少ないことだ。家督を譲ること自体は、息子が十五歳と言えば決して早すぎるものではないのだが、まぁ、親は子どもへの心配が尽きんもんでな。そこで、エリア、昨日、イリハのことを目にかけてやって欲しいと言ったばかりではあるが、レイナードへも力を貸してやってもらえないだろうか?」
男爵はそう言って、レイナードからの手紙を見せた。レイナードが男爵に宛てた手紙には、ローズ家事件で失踪していたローズ男爵の長女、ライラ・メリアル・ローズのことが書いてあった。男爵によると、ローズ家事件とは、ローズ男爵領でクライナ第二王女が魔獣に襲われたうえ、大怪我を負った事件のことだという……。
今から二年前。クライナ王妃と第二王女の一行が、レピ湖で静養した後、王都クライナに帰る途中、ローズ男爵領を通過する際に魔獣に襲われるという事件が起きた。不幸なことに、第二王女が負傷し護衛の者が数名亡くなっているらしい。このことにより、ローズ男爵は警備責任を追及され、莫大な補償金を支払うことになった。ところが、その年、ローズ男爵領では、これまでにないほどの小麦の不作の年で、ローズ男爵には、補償金を支払うためのお金を用意することができず、また、借入に応じる者も無かったということだった。そのため、ローズ男爵夫妻は投獄され、それ以来、ローズ家の領地は王宮の管理になっているらしい。そして、ローズ男爵夫妻は、今も、獄中に捕らえられたままのようだ。
ローズ男爵の一人娘であるライラ・メリアル・ローズは、家督を継ぐ権利を持っているため、男爵夫妻と一緒に捕らえられ、連行された。しかし、どういう訳か、彼女は、その時から行方が分からなくなっているのだった。レイナードの手紙には、そのライラ・メリアル・ローズの居場所が判明したと書いていたようだ。
男爵は言った。
「レイナードの手紙には、具体的にライラ・メリアル・ローズが何処にいるのかは書かれておらなんだが、レイナードとライラ嬢とは王立学園で一緒だったのだ。息子は彼女のことを気にかけておる。恐らくレイナードは、多少の危険を冒してでも、彼女を助けようとするだろう……」
しかし、男爵は、この件について懸念していることがあると言った。それは、昨日、男爵が話していたクライナ王国貴族の派閥争いの件だ。ローズ男爵は、レムリア派を牽引する侯爵とのパイプが特に太く、ローズ男爵自身もレムリア派の中心的な役割を果たしていたらしい。
男爵は、難しい顔をして言った。
「ローズ家事件が、派閥争いに関係があるかは分からんが、イリハの件と言い、どうも胸騒ぎがしてならん。今は慎重であるべき時だが、しかし、息子は、人一倍正義感が強い。恐らく、ライラ・メリアル・ローズを助けようと行動を起こすことだろう。ワシの考えすぎかもしれんが、ライラ嬢の居場所が判明した情報が、どのように息子にもたらされたのかも気になるところだ。陰謀に巻き込まれんとも限らん」
男爵の言いたいことは分かる。昨日、男爵は、イリハの病気が、アトラス派貴族の連中による、意図的な仕業の可能性があると話していたけれど、さらに、男爵は、レイナードが知ることとなったライラ・メリアル・ローズの居場所情報についても、アトラス派の陰謀である可能性を危惧しているのだ。話を聞けば、確かに、男爵の言う通りかもしれない。男爵がアルバスを離れている今だからこそ、効果が高い作戦だと言えるからだ。
「なるほどね。僕もそう思うよ」
そう言うと、ローラ夫人が、男爵の言葉が切れるのを待っていたかのように、話し始めた。
「あの……エリアさん。私どもはどれほどエリアさんに感謝をしているかわかりません。このようなお話をすべきでは無いと思いながら、エリアさんには包み隠さずお伝えする必要があると思い、告白するのですが……。実は、イリハの病気のことで、私は、自らの命と引き換えにイリハの命をお救いくださるよう、女神様に願を掛けておりました......」
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