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044-3-9_ヴィース(挿絵あり)

 談話室では、男爵とローラ夫人、そして、イリハが待っていた。イリハがポンポンと、隣の椅子の座面を叩いたので、そこに腰掛けることにした。ヴィースは背後で腕を組み、仁王立ちだ。男爵は一度ヴィースに視線をむけた後、昨日の夜中に起こった何者かによる屋敷侵入事件についての話を始めた。


「昨晩は、ご苦労だったな、エリア。それで、あれからどうなった?」


 男爵は、特に心配している様子もなく、その後の経過を尋ねた。


「うん。あの後、直ぐ、僕の部屋にウィル・オ・ウィスプという使者がやってきたよ」


 男爵にそう返事をすると、男爵は、興味を示すように大きく頷いて、身を乗り出した。


「ほう、ウィル・オ・ウィスプか。聞いたことないが、妖精の類か? その者は何んと?」


 みんな興味津々な顔をして僕を見る。


「ウィル・オ・ウィスプは、小さな女の子のような姿をしていたよ。その子は、ゆらゆらと青白くゆらめいているだけで、悪さをするような存在ではなかったんだ。メイドの子を驚かすつもりは無かったと言って、謝っていたよ」


 男爵が言った。


「そうか。まぁ、大事にならんで良かったが、それにしても、エリアに会いに来たのだろう? そのウィル・オ・ウィスプとやらの目的は何だったのだ?」


男爵は腕組みをして、椅子に深く座り直した。


「そうだね。ウィル・オ・ウィスプは、僕の部屋に入ってくると、レピ湖の主が呼んでいるから、一緒に湖まで来て欲しいって言ったんだよ。理由を聞いても話が噛み合わなくてね。仕方なく、彼女に案内されて湖まで行ったんだ。そしたら、大きな首長竜が現れてさ。それが彼、ヴィースと言うんだけど……」


 そう言って、ヴィースの方を向いた。すると、みんなの視線がヴィースに集まった。彼は、自分に向けられた視線を受けるように、ざっと周囲を見渡した。ヴィースは、キリッとした眉毛に、涼しい目をしている。まつ毛が長く、唇は薄く、鼻筋が通っていて、肌も綺麗だ。顔が小さく、女性の衣装を着せれば、女に見えるような美形だ。ヴィースの視線を受けたメイドたちは、手を口に当てたりして、ソワソワとしだした。ローラ夫人も、両手で口元を押えている。イリハはポカンと口が開いていた。イケメンのオーラはやっぱり凄い。一人で女の子全員の視線を集めている。


 ヴィースめ! 羨ましい! 今度転生するときは、絶対、イケメンだっ! 


 でも、こういう存在って、エネルギーの塊みたいなもんだろうから、性別なんて無いんじゃないのかな? 良く知らないけど。


 ヴィースは我関せずで、澄ました態度に戻った。女の子たちの反応は置いておいて、男爵がこっちを見ているから、話を続けることにしよう。 


「その時、ヴィースはね、『今のレピ湖には、水の精霊ウィンディーネが不在だ』と言ったんだ。どうやら、昨日の昼間に、湖畔でイリハと話をしていた会話を湖の存在が聞いていて、精霊の不在を僕に伝えようとしたみたいだよ。それで、僕が呼び出されたんだ。だから、精霊のイニシエーションはできないんだって。ねっ、ヴィース?」


 ヴィースに視線を向けると、ヴィースが頷いた。


 少し、話を脚色しているけど問題ないよね。女神に挨拶するためにヴィースが僕に使いを出したなんて言ったら、話が逸れてしまいそうだし。


 男爵は再びヴィースに視線を向けて聞いた。


「すると、ヴィースは首長竜の化身なのか。どうして彼も一緒に来ている?」


 男爵が、うまい具合に話を振ってくれたね。モートンが話を通しておいてくれたのかな?


「実は、ヴィースが気になる話をするんだよ。これなんだけど、ちょっと見てくれる? これ、何かわかるかな?」


 そう言って、六角柱の黒い石を取り出し、男爵に渡した。男爵はその石を手に取り、じっくりと眺めると、少し顔を顰めながら呟くように言った。


「この石……どこかで……」


 男爵は石に注意を向けて、何かを思い出そうとしているようだけれど、とりあえず説明を続けた。


「ヴィースから聞いたんだけど、この魔石のせいで、今、レピ湖の魔獣が狂暴化しているらしいんだ。このままだと、レピ湖の魔獣が暴れ出すかもしれないんだって。それに、もしかしたら、水の精霊ウィンディーネが居なくなったことにも関係しているかもしれないんだよね」


 そして、ヴィースがここにいる目的は、石の調査の協力依頼と、その代わりに、屋敷の用心棒を務めたいと申し出ることだと言った。すると、今まで口を閉じていたヴィースが、タイミングが来たとばかりに自己紹介をした。


「私は、エリア様の、一の眷属であり、水竜ヴィシャップのヴィースだ。よろしくお願いする」


 それまで、石を見ながらヴィースの挨拶を聞いていた男爵だけど、突然、ピタリと動きが止まってしまった。そして、石は、男爵の手からすべり落ちると、床をコロコロと転がった。いつもなら、側にいるメイドの誰かが、直ぐに石を拾いにくるはずなのに、彼女たちは、立ち尽くしているみたいで、男爵と同じように動きが止まっている。


 あれ? どうしたのみんな? ヴィースがなんかマズイこと言った? 


 男爵はしばし黙考し、再び目を開け、作り笑いを浮かべながら言った。


「いやぁ、ワシも最近耳が悪くなったようだ。エリアよ、ヴィースは首長竜なのだろう? 今、彼は水竜と言ったような気がしたが、ワシの気のせいだな?」


 男爵が頭を掻きながら石を拾い上げた。


 おや? 何だか空気がマズくない? これ、正直に答えちゃうとダメな感じかな? 


「あれ? どうなんだろう? 首長竜じゃないのかな〜」


 こんなことなら、ヴィースとちゃんと口裏合わせとくんだったよ。


 男爵は、石をテーブルの上に置いたかと思うと、僕を諭すように、竜の説明を加えて言った。


「あのな、エリア。竜種はこの世界に殆ど姿を現さんし、ワシも見たことがない。万が一姿を現そうものなら軍隊を出動させて対処しなければならんだろうが、それでも、追い払うことができれば重畳。さもなくば、町など一瞬で滅びてしまうだろう、と歴史書には書いてあったように思うのだが。だからなぁ、エリア。首長竜を水竜などと間違ってはいかんよ。まぁ、首長竜と水竜は、似た様な姿をしておるだろうし、無理もないがな。ハッハッハッ!」


 男爵がまた笑った。ローラ夫人も笑った。執事のモートン、メイドたちを始め、そこにいる他の使用人もみんな笑った。


 いや、今、本人が言っちゃったけどね。


 誰も彼もワザとらしい笑いで、みんな、顔を引きつらせているようだ。そして、談話室が歪な笑いで満たされていく。その中で、アリサだけは澄ました顔をしていた。イリハは話についてこれてないようで、大人たちの様子をキョロキョロと見ている。


 すると、ヴィースが言った。


「私は、水竜ヴィシャップである」


 なっ……!  


 みんなの笑いが止まってしまった。


 今、空気読むとこだよっ! ど、どうするんだよこの空気っ!


 確かに僕のリサーチが不足していたと思うけどね、でも、水竜がそんな大変な存在だなんて知らなかったし。


 もう、ここはボケに回って開き直るしかない。


「ハハハー、ごめんねみんな、やっぱヴィースって水竜みたいだねー。驚かしちゃったかなー」


 すると、モートンが小走りで僕のところへ飛ぶようにやってきた。そして、彼は、小声で僕に言った。


「エ、エリア様、ここは一旦ご休憩を入れていただいて、男爵様とお二人でお話なさってください!」


「そ、そうだね、そのほうが良さそうだね」


ーーーー

挿絵(By みてみん)

ヴィースめ! 羨ましい! 今度転生するときは、絶対、イケメンだっ! 

AI生成画像


「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


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