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042-3-7_アリサ

 そこまで腹を決めると話もしやすい。アリサに、僕の秘密を全部話してみよう。


 落ち着いた動作でベッドに座ると、目の前で、床に両ひざをついて座っているアリサに、話し始めた。


「アリサ、どこから話せばいいのか分からないけど、聞いてほしい。本当の僕の事を……」


 そして、彼女に説明した。


 まずは、地球という別の世界の話。そして前世の事。実は中身が二十五歳独身童貞男だということ。さらに、一度死んで、女神の加護を授かり、この身体に転生したこと。僕には、これから女性性を活性化させるために女の子としての体験を重ねていく必要があるっていう事を……。

 きっと、彼女は、驚いているに違いない。なにせ、突拍子もないような話なんだから。いくらこの世界が魔法の世界だと言っても、別世界の話なんて直ぐには受け入れられないはずだ。しかし、アリサは、黙って僕の話を聞いていた。時々小さく頷きながら、真剣な眼差しでじっと僕の目を見て、静かに耳を傾けてくれた。ところが、この世界に転生してからどうしていたのかを話した時だった……。


「その時、僕は、奴隷商の荷馬車で気が付いたんだ。奴隷になってね……」


 すると、突然、アリサは目を見開き、右手で口を押さえると、前屈みになって床に左手を着いたっ!


「ううっ!」


 彼女は、少し嗚咽しかけたが、ハンカチを取り出して口に当て、なんとかそれを抑えた。そして、自分が落ち着くのを待った。


「ア、アリサ……?」


 アリサは、やっと一呼吸置いて言葉を口にした。


「申し訳……ございません……」


 しかし、彼女はそれ以上言葉が出ない。アリサは、膝に手を置いて、ハンカチをギュッと握りしめている。


 何か思い詰めてるの? 


 アリサの様子を見ていると、彼女の両目から、大粒の涙が溢れ出してきた。そして、唇を噛み、肩を震わせながら、声を出さずに泣き出した。


 アリサ……。


 しばらくして、彼女は、呼吸を落ち着かせると、ハンカチで鼻を抑え、ようやく、言葉を口にした。


「エ、エリア様。エリア様は……エリア様です……」


 彼女の声は振るえていた。アリサは、そう言うと、膝立ちの姿勢で僕に近づき、そっと抱き寄せてくれた。アリサの胸は柔らかくいい匂いがする。彼女は、声を絞り出すように言った。


「どこにも……行かないで……ください……」


 アリサは優しく抱きしめてくれた。彼女の鼓動が伝わってくる。もしかすると、僕の話が、彼女を、何か不安にさせてしまったのかもしれない。その後、アリサは、抱き寄せる力を緩めて僕から離れると、横座りの姿勢で床に座り込んだ。そして、彼女は、床の一点を見つめながら、話し始めた。


「エリア様、私の話を……聞いていただいてもよろしいでしょうか?」


 アリサの話? 


「もちろんだよ」


 ただ、アリサの話も軽いものではなさそうだ。しっかり受け止める覚悟をしないといけない。


「アリサ。さっき、アリサがしてくれていたように、僕もちゃんとアリサを見てるよ。話してくれる?」


 そう言うと、アリサはゆっくりと話し始めた。


「私は……」


 彼女は、視線を下に落とした。


「……奴隷の子として生まれました」


 奴隷の子……そう……だったのか……。


「……ご承知のように、奴隷の子は生まれた時から奴隷です……。私は、主の所有物として五歳までを生まれたお屋敷で過ごしましたが、母は、私を産んで直ぐに奴隷商に売られ、私も、五歳を過ぎると奴隷商に売られました……。その後は奴隷メイドとして生きてきたのです……」


 彼女もまた、包み隠さずこれまでの人生を語ってくれた。彼女の人生は、言葉に尽くせない程壮絶だった。


 アリサは、生まれた屋敷での記憶はおぼろげだったけれど、五歳の時には既に、主の役に立たないと生きる価値がないという強迫観念が彼女を支配していたようだ。その後、彼女は売られる度に、そこの主の命令に従順になり、或いは、尊宅し、主の役に立つために生きてきたという。

 

 彼女は、何人かの主人の元を転々とした後、とある商人に使えることになった。その商人は、奴隷メイドに対しての扱いが厳しく、自分に従わない奴隷は、次々と蛮族の国に送り込むような悪辣な性格だったらしい。アリサは、自分が見切られてしまう事を恐れて主に命令されるまま、一生懸命尽くしたそうだ。その主人は、アリサの従順な態度を気に入り、彼女を常に側に置くようになった。ところが、程なくして新しい娘奴隷がやってくると、主人の関心が彼女に向くことがなくなり、そして、その主は、あっさりと彼女を捨てたのだった。

 その頃のアリサは、主人への依存から、どんな要求でも自分に求められることに対しては受け入れるようになっていたらしい。それが、アリサの唯一の生きる目的となっていたからだ。しかし、それも簡単に裏切られてしまった。その時、彼女は、極度の喪失感に襲われたという。


 そして、彼女は、ボズウィック男爵家にやって来ることになった。男爵家に来ると、彼女は、隷属魔法を解呪され、主人への特別な奉仕を求められることがなくなった。その代わりに、メイドの仕事を一から叩き込まれていったそうだ。そうした中で、主人への依存から少しづつ抜け出してこられたと、アリサは言った。


「……私は、男爵様に大変な恩義を感じております。しかし、エリア様にお会いするまで、この世界を呪う気持ちは消えることがありませんでした。……自分は生きていていいのかと、自分には生きる価値が無いのではと、今でもそう思う時があるのです……。もしも、イリハ様がいらっしゃらなくなっていたら……私は、今、こうして、生きていなかったかも……しれません。それが、あのような御業を見せられて、女神様のお慈悲を感じずにはいられませんでした……ううっ……。こ、この世界には、まだ、救いがあるのかもしれない……。そう思えたのでございます。エリア様、私は、エリア様に生きる希望をいただきました。私の汚れたこの身体を、私の、価値のない命を、もしも、そのお慈悲にすがらせていただけるのなら……。私は……まだ……生きていられる……。ううっ……。だから……だから……あなた様のお側にいさせてくださいっ!」


 アリサ……。


 彼女は、床に泣き崩れた。


「ごめんね、アリサ、辛いことを話させてしまったね」


 今は、彼女に、ただ優しくしてあげたい。彼女の側に跪き、彼女の頭を胸に抱いてあげた。僕は、アリサのことを全部受け止める。心配いらないよ。アリサは決して汚れてはいないし価値が無いなんて、そんなことあるわけない。だけど、今は、彼女から出た言葉に否定の言葉で返したくはない。


「アリサ、安心して。僕は、アリサとずっと一緒だよ」


 彼女の耳元でそう言った。彼女は、まだ、肩を震わせている。


 そうだ、アリサに、ヒーリングをしてあげよう。マリーナにしてあげた魔法だ。少しは気持ちが楽になるだろう。


 この魔法は身体の細胞や器官、内臓を活性化させる。いわゆる若返りの魔法だ。


 健全な精神は健全な身体に宿るからね。


 手をアリサの背中に翳しヒーリング魔法を発動した。


「デア・オラティオ!」


 緑の柔らかい光がアリサを包み込む……。


 アリサはそれに気づき上体を起こした。そして、しばらく目を閉じてその光に満たされた。その後、ゆっくりと光が彼女の中に浸透していく。そうして、ヒーリング魔法が完了した。すると、アリサは、身体の変化に気付いたのか、自分の腕を裏返しながら見つめている。もちろん、皸、ひび割れ、肌荒れ、全部治ってるはずだ。さらに、良くない細胞や脂肪も除去されているから、多少、身体のラインも変化しているかも。


 まぁ、アリサがこの魔法効果を一番実感するのは、自室で姿見を見た時だろう。


「頑張ったね、アリサ、もう大丈夫だよ」


 そう言って、アリサをハグしてあげた。すると、アリサは、また僕をギュッと抱きしめた。そして、彼女は、そのまましばらく声を出して泣き続けた……。

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


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