041-3-6_一の眷属
湖にきて驚くことばかりだったけれど、いろいろ分かったし、帰って男爵に伝えるべきことを伝えるとしよう。そして、「それじゃ」と言って屋敷に帰ろうとした。すると、水竜が人型に戻った。
「私はこれより、女神さまと常に供にあります」
「そうだね。眷属だし必要な時には呼びにくるよ。あぁ、そうそう召喚魔法も出来そうだから、もう少し練習して、いつでも呼び出せるようにするよ」
改めて、「じゃ、石の事は、何か分かったらまた来るよ」と言って転移しようとした。すると、水竜がまた言った。
「では、お供いたします」
「ん? どういう意味? 僕についてくるの?」
女神さまと供にあるってそういう意味で言っているんだ。しかし、そんなことをすれば、湖の主がまた居なくなるんじゃないの?
そう言おうとしたとき、湖がまた、豪快に盛り上がり、大きな音を立てて、首長竜が五体ほど頭を出した。
「うぉっ! 大迫力!」
現れた首長竜は、どの個体も淡く青い光を纏っている。さらに、その中の一頭は、水竜が首長竜だったときと同じくらいの大きさだ。
「首長竜って、こんなにたくさんいたんだ! しかも、みんな大きいっ!」
水竜が言った。
「この者たちは、女神様の眷属になったことで身体が大きく進化しております」
へぇ~、身体が大きくなることも進化なんだ……。
さらに彼は、「湖の秩序は彼らに任せておけば良いでしょう」と言った。
「確かに、強そうで頼もしいけど……」
それにしても、何で水竜は僕についてくるんだ? いくら、一の眷属と言っても、湖の存在には違いないよね。それとも、彼が、レムリアさんの言ってたガーディアンなの?
そういえば、彼は、女神の剣になる者って言っていた。こういう存在が側にいれば、何かと安心ではあるんだろうけど。
女神の剣……か。
着いてくることをダメだと断ることも、何だか違う気がするし、考えていても仕方ない。それに、剣というなら、常に身に着けておくべき物だし。それなら、彼がついてくるのはよしとして、ただ、彼を連れて帰るとなると、みんなになんて説明すればいいのやら。男爵に、本当のことを言ったらどんな反応するんだろうね。
今考えても仕方ない。屋敷の者にどう説明するかは後回しにして、とりあえず戻るとするか。
「それじゃ、みんな、後のことはよろしくね」
首長竜達にそう言って、転移魔法を発動した。最初に案内してくれたウィルは見かけなかったけれど、自分の棲みかに帰ったのだろう。
そうして、ようやく自分の部屋へと転移した。
「やれやれ、やっと戻ってきたな」
時間はもう朝の四時だ。一緒に来た彼は、直立不動でそこにいる。
そうだっ!
彼を見ていると、彼に、ここにいてもらうためのいい方法が閃いた。
彼を男爵家で執事見習いとして雇ってもらうとしよう。彼は、忠誠心が熱そうだから、うってつけじゃないかな? それなら、まずは名前だね。
「さっき、自分のことをヴィシャップと言ったけど、それは君の名前なの?」
彼にそう聞いてみると、彼は、ヴィシャップというのは名称で、名前では無いと言った。そして、彼は、水竜ヴィシャップについて説明した。
「水竜は、何種か存在いたしますが、その中でもヴィシャップは様々な種類の毒を生成し……」
彼によると、水竜ヴィシャップは、あらゆる水魔法に加えて、毒攻撃を得意とするようだ。体内で生成する毒は多様な種類におよび、血液は猛毒でもあるという。そして、その血液が塗りつけられた剣でかすり傷でも負えば、人間ごときは、たちまち死に至るほどの恐ろしい効果であるということだ。
「マジで?」
なんて恐ろしい奴を眷属にしてしまったんだ。彼を連れて歩くことは、猛毒兵器を持ち歩いてるようなもんだ。とんでもない。とりあえず毒攻撃は封印してもらうことにしよう。そうでないと、町が一瞬で全滅なんてこともありえそうだ。そんな恐ろしい事、勘弁してほしい。
まぁ、何にしても名前だな。
「君に名前を付けてもいいかな? その方が便利だしね」
「名をいただけるとは、大変光栄でございます」
そう言って、彼は、丁寧にお辞儀をした。
「そうだね……。水竜ヴィシャップか。う〜ん、それなら、ヴィースっていうのはどう? かっこいいんじゃない?」
「はい。ありがとうございます。私は水竜ヴィシャップのヴィース。改めて、エリア様の剣となり全霊を捧げてまいります」
そう言って、ヴィースが真面目な顔をして答えた。彼に喜んでもらえたようだ。それなら、僕のことも、名前で呼んでもらおう。
「僕のことは、エリアって呼んでね」
「はい、エリア様」
彼は、かしこまって返事をした。後は、ヴィースが人間社会になじめるかどうかだ。人間の言葉を話すくらいだから、これまでも、多少、人間との交流はあったかもしれない。
まぁ、眷属契約の仕方も優しかったしね。
しばらくは、彼と一緒に行動することにしよう。ただし、屋敷内で生活するにはいろいろと説明が必要になる。僕の専任執事になってもらう訳にもいかないのだから、男爵家を中心に、みんなに配慮して行動してもらわないといけない。
とにかく、男爵への説明をどうするか考えないと……。
とは言うものの、もう朝だけど、眠気に勝てず眠ることにした。ヴィースも椅子に座って目を閉じている。
ヴィースは寝てるんだろうか? 僕も眠いよ。おやすみなさい。
ーーーー。
目が覚めたら、もう昼になっていた。気が付くとヴィースは既に起きて直立不動でそこにいる。大剣は背負ったままだ。
寝坊しちゃったかな。
身体を起こしベッドから降りようとしたとき、ノックが鳴った。
「アリサだ!」
ど、どうしよう? 彼女にヴィースの事を何て言おう?
どう説明すればいいか考えずに寝てしまった。彼をうまいこと男爵家の一員に受け入れてもらうために、執事見習いにするって考えたんだけど、どうやったらそうできるのか、全くノ―アイデアだ。
二度目のノックが鳴った。
仕方ない。開き直ってアリサに相談しょう。
「い、今、開けるよ」
ノックに返事をしてドアを開けると、アリサが立っていた。
「ア、アリサ、ごきげんよう」
アリサは微笑みながら、ドアを閉めた。
「何ですか、変なこと言っ……!?」
アリサが、言葉を飲み込んだ。彼女の顔に緊張が走るっ!
「えっ! 誰っ、あなたっ!?」
「いやっ、アリサ、あの、僕の話を聞いてくれない?」
アリサは、ドアに背を押しつけ、少し身体を低くし、左手でドアノブを掴んだままヴィースから目を離さない。しかし、ヴィースの方は、相変わらず澄ましていて、何かを話そうとする様子もない。するとアリサは、さらに上体を低くし、ヴィースを警戒しながら僕のところまで移動した。そして、僕を、背中から抱き寄せた。僕を連れて逃げる隙を伺っているようだ。アリサは、冷静さを失わず、危険に対応しようとする。
アリサは凄いね。感心するよ。
でも、いつまでもこの状況を見守っている訳にもいかない。アリサの腕をポンポンと叩き、こちらに注意を向けさせた。
「アリサ、ちょっと説明させてくれない?」
そういうと、アリサはヴィースをチラ見して警戒しつつ、僕を振り向かせると、しゃがんで僕の肩を支えながら言った。
「エリア様、彼は……。なにかご事情がおありなのですか?」
アリサは聡明な女性だ。感も鋭い。僕の落ち着いた態度やヴィースの澄ました顔を見て、彼女は、ヴィースが危険ではないということを、一瞬で悟ったようだ。それに、この間、イリハの治療をした時も、何者かも分からない僕の事を抱きしめてくれた。今も、彼女は、身体を張って僕を助けようとしてくれていたのだ。
アリサなら、本当の僕のことを受け入れてくれるかもしれない……。
彼女には、嘘をついてごまかさず、包み隠さずに話してみよう。それで、もし、アリサが、僕やヴィースを拒んだのなら、それも仕方ない。その時はこの屋敷を出ていけばいいだけのことだ。
「面白いかも!」
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「この後どうなるのっ……!」
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