038-3-3_水の遺跡(挿絵あり)
確か、レムリアさんは、彼女と念話ができる円錐形の塔が古代の遺跡に存在すると言っていた。古代の遺跡に行っても手がかりがあるかどうか分からないけれど、女神の痕跡くらいは残っているかもしれない。
あっ、そうだ!
首長竜は古代遺跡について何か知ってるだろうか?
「首長竜さん、円錐の形をした塔を見たことないかな? 遺跡のようなところにあるようなんだけど」
すると、首長竜が湖底にあると言った。
おおっ! レピ湖の底に遺跡があるのか? 冒険の匂いがする! きっと、そこは、人間には、おいそれと行けないところだろう。選ばれた者しか入れない遺跡、何てね。ワクワク! 今から行ってみよう。謎の湖底遺跡探索だっ!
首長竜に、そこまで連れて行ってもらえないかとお願いすると、首長竜は、快く承諾してくれた。そして、首長竜は、背中まで湖面に浮上し、こちらに頭を近づけてきた。一旦、首長竜の頭に乗ると、首長竜は、自分の背中の方に頭を付けて静止した。
背中に移れってことだね。
首長竜の背中はヌルっとしていて滑りそうだけど、浮遊魔法を応用して背中に張り付く。そして、魔力で身体を保護し潜水の準備が整った。
「いいよ!」
そう言って合図を送ると、首長竜は巨体をゆっくりと動かし、潜り始めた。水中では、魔力保護のおかげで、湖の水は僕に触れることなく、逆に僕を避けているように流れ、全く水の抵抗がない。だから、呼吸も難なくすることができて、服も濡れずに水圧も気にすることがない。水の中でも全然平気だ。
ホント、魔法はイメージ次第だね。
首長竜は、水中ではとても俊敏な動きで下降、旋回し、どんどん水深を下げていった。長い首を前方に伸ばし、魚のように素早く泳ぐ。首長竜の背中に掴まっていると、無音の真っ暗な中を闇雲に進んでいるようにも思えるけれど、魔力感知でソナーのように周辺の様子を把握しているので、閉塞感や圧迫感を感じることは無い。
魔力感知も手馴れてきたね。
しばらくすると、先の方に、ひと際目立つ青白い光が見え始めた。
あれは!?
首長竜はその光に向かって真っすぐ進む。
段々、光が強くなってくきたぞ。
そして、ようやく光の正面までやってきた。
うわぁ! 明るい! 光の正体はこれだったのか!
よく見ると、光っているのは尖った大岩だ。その大岩は周囲を照らし、ひと際異様な存在感を示している。岩の大きさは、直径が十メートル、高さが三十メートルを超えそうなほど大きく、砂地の底からタケノコが生えているように湖底から突き出ていた。その岩が発する青い光は透明感があり、じっと見ていると意識が吸い込まれそうになる。ハっとして我に返ると、首長竜が念話で話しかけてきた。
「こぉこぉがぁ、いーりーぐーちぃですぅ」
そう言うと、首長竜は岩に向かってゆっくりと前進した。
この光が遺跡への入口か。
青い光に近づくと、身体ごと吸い込まれそうな感覚になる。首長竜はそのまま進み、完全に光に包まれると、目の前が真っ白になった。岩にぶつかる気配などはなく進んでいく。次の瞬間……。
あれっ! 一瞬、気が遠くなったような気がしたけど……。
気が付くと、昼間の陽の光に満ちた空間に、四つん這いになっていた。眩しくて薄目を開けていると段々目が慣れてきて、周辺の様子を確認することができた。
ここは……レムリアさんと会った場所に似てるけど……。
確かに、あのときと同じようなテラスだ。背後にはよく似たガゼボもある。しかし、そこから見える庭園の様子は、レムリアさんと会った庭園とは随分と違っていた。ここの庭園は、大理石のような白い石畳が一面に敷き詰められており、その石畳の床を、幅三十センチほどの水路が碁盤の目のようになって、縦横整然と通されていた。そして、その水路を、心地よい音を立てて透明な水が流れている。水路の脇にはところどころ小さな植栽があり、白色や青色の花が咲いていて、テラスから階段を下ったところには、直径十メートルほどもある丸い噴水が対になって設置されていた。それぞれの噴水の中央には、等身大と見られる女性の石像が、一方は水瓶を頭の上に両手で持ち上げ、もう一方は肩の上に水瓶を抱える姿で据えられている。そして、それぞれの水瓶からは、水が滔々と噴水の池に注がれていた。
水の遺跡といった雰囲気だな。
清浄な雰囲気はレムリアさんの庭園によく似ている。しかし、一番の驚きは、周囲が全て滝なのだ。
凄い迫力っ!
滝は、水しぶきの白煙を上げながら大迫力で、轟音を響かせている。しかし、滝の上部は霞がかかっていて見えず、滝がどれほどの高さなのか想像すらできない。
随分と高い滝だな。空にでも繋がっているみたいだ……。
景色に見とれていると、背後で人の気配がした。振り返ると、若い男がガゼボの手前に立っている。
「だ、誰……?」
するとその男は言った。
「首長竜です」
「えぇぇぇーーーっ! 嘘? 人間型に変身できるんだ。それに……」
なんだこの美形は、イケメン過ぎるだろっ!
慌てて立ち上がり、彼の姿をまじまじと見る。彼は背が高く、百八十センチくらいはありそうだ。黒髪も長く背中まであり、光沢があって美しい。瞳は黒く、目は切れ長で涼しい目をしていて、とても理知的な印象だ。服装は、日本の平安時代の武官のような装束で、足元を絞った白い袴に、腋が開いている浅葱色の束帯を羽織っており、背筋をピシッと伸ばして立っていた。そして、一番目を引くのが背中に背負っている一物だ。
「その、大剣……。君、剣士なの?」
「ええ、多少、使える程度ですが」
彼の背中の大剣は、黒い大きな鞘に納まっているので刀身が見えないが、幅が三十センチほどあり、異様な太さをしている。柄は細い握りに緑色の丸い柄頭が付いていて、彼の頭から上に十センチは出っ張っている長さだ。
見るからに重量がありそうな剣だけど……。
首長竜で剣士でもある存在なのか。それにしても、迫力のある剣だ。
そんな事を考えていると彼が言った。
「この大剣は破山剣と言います。私は、ウィンディーネ様の剣でございました」
剣に注意が向いていたからか、彼が大剣の名を教えてくれた。
山でも切ってしまいそうな名前だね。
水の精霊を守る剣の存在。それなら、その剣は使える程度の腕前じゃなさそうだ。それにしてもしゃべり方が普通だ。
「いつもその姿なら話が早いんだけどね」
そう言うと、彼は平然とした態度で言った。
「今は、この姿になることができるのは、エネルギーの高いこの場所だけでございます。ウィンディーネ様がいらっしゃらなくなって、湖の存在達は、主を失いました。そのため、みな、力が減少してしまったのです。今は、我らで来訪者をできるだけ遠ざけるようにしながら、湖を守っております」
そうだったんだ。道理で、人を寄せ付けない雰囲気が出てると思ったよ。って……。
「水の精霊ウィンディーネが居ないだってっ!? 何でっ?」
そうか、さっき首長竜が湖の主って言ったときに、気にはなっていたんだよね。イリハが残念がりそうだな。でも、どうしてウィンディーネは居なくなったのだろう?
彼は澄ました顔で答えた。
「私にも何んとも……。確かに湖が汚れてきていることは否めません。清浄な場所にしか存在しない精霊様が居なくなるのは仕方ないことかもしれません」
そうなの? そんなに汚れた水には思えないけどね。
「でも、この湖は魔力濃度が高いよね。精霊の守護が無いのなら、狂暴な魔獣が増えてこないの?」
魔力が濃い場所には魔獣が現れるって、よく異世界物の設定であるからね。
「これまでのところは、何とか……」
彼に疑問を投げてみると、それは、今のところ、精霊の眷属だった存在たちが、ある程度の抑止にはなっているとのことだった。
それならいいのか? でも、水の精霊が居なくなって、彼らも苦労しているみたいだね。
振り返って、再び庭園に目を向けた。
リラックスするよね~。
ゆっくりと庭園全体を見渡す。
あっ!?
先程から滝にばかり気を取られていて、気が付かなかったけれど、滝の手前に、ひっそりと立つ細長い円錐の塔が目に入った。
あった。あれだ!
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水の古代遺跡
AI生成画像
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