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032-2-13_イリハ(挿絵あり)

 こちらの世界では、基本的に一日二食だそうだ。但し、午後にはティタイムがあって、軽食を取る習慣があるらしい。軽食の時間まで屋敷の庭でも見に行こうとしたとき、イリハが部屋にやってきた。


「エリア、お庭を見せてあげるわ!」


 丁度良かったよ。


 イリハはローラ夫人にあまり無理はするなと言われているけれど、庭くらいなら心配もされないだろう。イリハの身体は、もう以前より強靭になっているのに、母親の心配は尽きないようだ。


 庭に出ると、イリハは順番にいろいろと説明してくれた。最初は、玄関前の噴水だ。噴水は、直径が五メートルくらいの池があり、中央には子どもの身長くらいの女性像が据えられている。そして、女性像が肩に抱える水瓶から、じゃぶじゃぶと水が池に落ちていた。池の水は、縁の四カ所に四角く切り込まれた溝から下に落ち、排水路を通ってイングリッシュガーデンの方に流れている。


 イリハが言った。


「綺麗な水でしょ! 飲んでもいいのよ」


 なんでも、水は、地下から豊富に湧き出てくるようで、屋敷で使われている水と同じらしい。試しに手ですくって飲んでみた。


「うん、美味しい!」


「でしょ?」


 ホント、冷たくて、とても美味しかった。さらにイリハは、中央の女性像を指さして説明してくれた。


「あの女性像は、水の精霊様なの。レピ湖の守り神よ」


「へぇ~」


 水の精霊かぁ〜。異世界ファンタジーの醍醐味だ。


 イリハは、噴水の縁に手を置いて、覗き込むようにして精霊の像に見入っていた。イリハは、この精霊像が大好きなようだ。彼女は、最後に祈りのポーズを取った後、僕に向き直った。そして右手を差し出してくる。


「手を繋ぎましょ!」


 て、手を繋ぐ!


 しばらくそんなことしてなかったよ。何だか新鮮。それにしても、女の子って、可愛いよね。そう言えば、小学生の時、クラスの女子も仲良しの子と、よく手を繋いでいたかな。


 イリハの差し出した右手を、左手で握ると、彼女はニッコリと笑顔を向けた。


 ちょっと、ドキドキ! 


 彼女の手は小さくて柔らかい手だった。次に、イリハが案内してくれたのは、イングリッシュガーデンだ。

 

「ここには、ハーブを植えているの。お料理にも使うのよ。それから、こっちは、ほら、可愛い小さな花があるでしょ。お屋敷の近くで咲いていたのを植え替えたの……」


 イリハの説明に熱がこもる。彼女は、庭いじりが大好きなようだ。イングリッシュガーデンを一通り説明してくれた後、玄関アプローチの反対側にある三本の大きな針葉樹を説明してくれた。


「大きな木でしょ。この木はお祖父様のお祖父様が植えたんだって。凄いでしょ!」


「立派な木だね」


 その樹木は、幹回り三メートルくらいある。数代前に植樹した樹木が、こうして、今の代にも受け継がれている。ボズウィック男爵家は、歴史の長い家柄のようだ。 


 その後、少し疲れたので、二人でガゼボのベンチに腰かけて話すことにした。イリハはよく話をする活発な性格で、自分の事も何でも話してくれる。イリハが最初に話したのは自分の家族のことだ。彼女には八歳上の兄がいるようだ。名前はレイナードというらしい。八歳上ということは彼の年齢は十五歳だ。両親は、イリハの静養のために別荘に来ているけれど、兄のレイナードは長男としてボズウィック家の屋敷に残って父親の留守を守っているとのことだ。


 イリハは寂しそうに言った。


「レイナード兄さんに会いたいな……」


 イリハの話では、レイナードは妹にとても優しく、また、魔法も使え、剣の腕前も達者な自慢の兄らしい。イリハは、今年の夏前からこのレピの町に静養に来ているので、五ケ月ほど兄とは会えていないということだ。病気も治ったことだし、それなら、すぐにでも会えるだろう。


「イリハは良くなったから、もう帰るんでしょ?」


 イリハにそう聞くと、彼女は両手をグーに握って、何か決心しているような真剣な顔で僕を見た。


「いいえ。私、精霊様のイニシエーションを受けたいの」


 何だ? そのイニシエーションって? とてもワクワクする響き。気になる……。


 彼女の話では、精霊のイニシエーションとは、精霊に契約を申し出る儀式らしい。もし、精霊に認められて契約してもらうことができれば、魔法使いになれるのだそうだ。そういえば、魔法使いになるには、精霊や妖精との契約が必要だって、レムリアさが言ってたっけか。

 イリハが、精霊のイニシエーションを受けたいと考えているのには、兄の存在が大きいようだ。レイナードのように魔法を使えるようになって、少しでも兄に近づきたい。そんな気持ちなんだろう。それに、特に貴族の子息子女はみな、子どものうちに精霊などのイニシエーションを試し、魔法の適性を把握するのが慣わしであるらしい。もし、適性があるなら家庭教師などを付けて能力を開花させ、実力が認められれば、将来、王宮に入ることも可能ということだ。そうなれば、貴族の中でも有利な結婚が期待できる。それが、貴族の子息子女たちの目標なのだそうだ。


 大人の打算だな。

 

 イリハはそう説明してくれたものの、彼女自身は、結婚には興味が無さそうだ。


「イリハ、結婚なんてするのは嫌っ! お父様のような優しい人に出会えれば、お母さまのように幸せになれるでしょうけど、男の子ってみんな優しいふりして偉そうでしょ! だから舞踏会に行くのも嫌なの。それよりも、イリハは、魔法使いになりたいわ。そうしたら、自分一人で遠くにでも行けるでしょ?」


 そうなんだ。舞踏会あるんだ。こんな小さいのにもう貴族のお付き合いがあるんだね。そりゃ大変だ。でも、一度くらいは覗いてみたいね、舞踏会。


 しかし、イリハは、遠くに行きたいって言っているけれど、冒険でもしたいのだろうか? 


 イリハがなりたい魔法使いは、どうやら水魔法の魔法使いのようだ。彼女は、レピ湖の守り神、四大元素、水の精霊ウィンディーネとの契約を望んでいた。彼女の説明では、精霊のイニシエーションは、満月の夜に湖の真ん中まで舟で行き、そこで祈りを捧げると、契約できる場合は精霊の光に身体が包まれるということだ。


「へぇ〜、何だか凄そうだね〜」


「そうよ、精霊様のイニシエーションは凄いのよ、見た事ないけど……」


 無いんかいっ!


「見た事ない割には良く知ってるよね、イリハ」


「だって、レイナードお兄様にお話を聞いたんだもん。あ〜、私も早く受けたいなぁ〜、精霊様のイニシエーション」


「そうだね、じゃぁ、次の満月は……」


 いつだろう?


「あと十回寝ると満月よ」


 ということらしい。イリハは、ちゃんと日にちを数えている。


 相当、本気だね。


ーーーー

挿絵(By みてみん)

へぇ〜、何だか凄そうだね〜。

そうよ、精霊様のイニシエーションは凄いのよ、見た事ないけど……。

AI生成画像

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


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