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031-2-12_ お人形さんみたいだね

「いかかでしょう?」


 僕の身支度が見事に完成したようだ。鏡に映る自分を見ていると他人を見ているみたいで、本当にこの少女の中に僕が入っているとは思えない。それに、アリサの手際の良さは無駄がなくとても丁寧で、僕のことを大切に扱おうとする気持ちが伝わってくる。その上、髪型や服装のコーディネートには、若い女性の感性がちりばめられていて、少しづつ仕上がっていく自分にワクワクしてしまった。


 まぁ、僕には女の子の髪型知識なんて無いから、全部、アリサの気分に任せるだけなんだけどね。


 アリサは、髪の毛に丁寧にブラシを入れた後、前髪を三つ編みに編み込んで左サイドに流したスタイルに整えた。それを耳の上の方でピン止めしているのだけれど、貴族の女の子が使用するアイテムはみなゴージャスなのか、ピン止めは、ダイヤのような石が五つはまった高級そうな宝飾品だ。


 ピン止め一つで、上品さがグッと高まるね。


 服装は、僕の瞳の色に合わせたように、ライトブルーと白のフリフリワンピース。


 完璧ロリだよ。可愛い! ダメだ、段々とナルシストになっていく自分が怖い! 


 しかし、鏡を見ていて、一番、視線を集めそうなのは、何んといっても銀のチョーカーだ。


 このトラウマの首輪は、何かの花の模様が彫刻されていて、デザイン的にも洗練されている。しかし、銀特有の鈍い光は、誰の目にも強く印象付けてしまう。


 ロリータファッションに隷属の首輪だなんて、背徳感が際立っているね。なんちゃった、チョーカーなんだけど。


 鏡に映る自分の姿にごくりと唾を呑んでしまった。これなら、いっそのことゴスロリにするか。そっちの方が馴染むかもしれない。今度、提案してみよう。でも、こちらの世界ではそういうノリはないんだろうね。


 仕上がった自分を見て、思わず言葉が出た。


「お人形さんみたいで可愛いね。でも、これを見せると、みんなに辛いことを思い出させちゃうかな? 本人は何んとも思ってないんだけど」


 そう言って、チョーカーに触れた。


「いいえ、とんでもございません。エリア様はとても慈悲深いお方です。ご自分を犠牲にしてマリーナを解放しようと、このお屋敷まで追いかけてこられたではありませんか。それに……」


 アリサは、女神のような奇跡を起こした僕が奴隷の象徴みたいな首輪をつけていることこそが、以前に奴隷だった者からすれば、心の支えになるのだと言った。


 実際、奴隷だったしね。でも、そんな風に思ってくれているんならいいんだけど……。


 そして、アリサは、僕の後ろから鏡を見ながら言った。


「そんなことよりも、本当に可愛らしくていらっしゃいますねぇ。もう、着せ替え人形のようにして差し上げたいですぅ」


 アリサがうずうずしながら言った。彼女たちのおもちゃにされそうだ。こればかりは諦めるしかない。


 まな板の上の鯉ということで……。


 身支度も整ったので、男爵夫妻に挨拶することにした。貴族の挨拶、カーテシーをアリサに教わり、談話室に向かった。談話室の入口には執事ーー彼はモートンと言うそうだがーーが入口のドアを開けた。談話室には男爵夫妻とイリハが待っていた。

 

「おはようございます。男爵様、ローラ夫人、イリハ」


 ぎこちないカーテシーを披露してにっこり笑う。


 こんなんでいいのかな? スクワットしてるみたいになっちゃったけど。


 すると、ローラ夫人が拍手をして喜んでくれた。男爵は目を丸くしている。そしてイリハはニッコリと笑顔で言った。


「可愛い! エリア姉様」


「エリアでいいよ、同い年頃なんだし」


 見た目だけね。


 イリハから姉と呼ばれると、こそばゆいからやめてもらおう。それにしても、イリハもなかなかに美少女だ。彼女の髪の毛は艶のある栗毛でショートヘアだ。彼女もサイドをゴージャスなピンで留めていて、白い花があしらわれている。黒い瞳の目は大きくて活発な性格を印象付けており、眉毛が細くシャープで、理知的に見える。ドレスは淡い黄色のフリルワンピースだ。


 こっちもロリだね。


「イリハも可愛い! 妖精さんみたいだね」


 イリハが照れている。


 女の子は可愛いと言われるのがうれしいんだね。今さらだけど。そういうことちゃんと口にできなかったから、二十五年も独身一筋の人生だったんだけどね。


 その後、みんなで消化の良さそうなリゾットを朝食として取った後、執事が男爵に報告した。今日は、昨日話が出ていたとおり、ここの料理長によるダニールの試験が行われることになったのだ。試験のお題は、男爵の好きな鳥料理を一品、ローラ夫人の好きな野菜スープを一品、イリハの好きな甘いものを一品ということだ。完成した料理は男爵家の皆さんに食べてもらい、意見を言ってもらう。但し、許可を出すのはあくまで料理長ということらしい。今回は多少、男爵家の方の口に合わなかったとしても、料理長に見込みがあると判断されればよいのだ。


 それに、男爵が評価するんだったら、きっと甘口ジャッジするだろうしね。


 朝食の後、ダニールの様子を見に行ってみると、彼はやる気満々だった。彼曰く、鳥料理は彼の店の看板メニューで勝負するらしい。そして、野菜スープも得意の豆を使ったものを出そうと考えているようだ。しかし、難題は甘いものだと彼は言った。彼の店では甘いものなど扱っていなかったらしい。


 ダニールは、昨日食べたケーキも知らなかったようだし。ちょっと不安だな。それなら、僕のレシピを伝授してやろうか。何てったって、僕の唯一のスキルは和菓子職人だからね。それに、彼は、豆料理が得意だから、きっと、豆の扱いは慣れているだろう。にわか仕込みで出来ると言えば、甘いものはあれしかない。


 紙と書くものを借りてレシピを書いた。それを彼に渡してみると、彼は即座に頷いて、「これならいける」と言った。


 頑張れよ。時間があるならもっと手の込んだものも教えてやれるんだけど、今は無理だ。でも、僕の和菓子店でもよく作っていたやつだし、まぁ、豆の種類は多少違うだろうけど、こっちの世界じゃ和のテイストなんて珍しいだろうから、何とかなるよ、きっと。


 試験は夕食時に実施されるようだ。時間もあることだし、館の周辺でも散歩するとしよう。

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


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