030-2-11_ 初めての身支度(挿絵あり)
次の日、朝からメイドが部屋にやってきた。今から、彼女に女の子の身支度をしてもらうのだ。彼女に言われるまま、鏡台の椅子に座っている。
鏡の前にこうやって座るなんて、初めてだ。僕は、どんな風にされるんだろう? ちょっとドキドキする。
彼女は、恭しく挨拶をしてくれた。
「初めまして、エリア様。本日、エリア様のお世話を担当させていただきます、メイドのアリサと申します……」
僕のところにやってきてくれたメイドは、昨日僕のことを抱きしめてくれた、スタイル抜群の若いメイド。彼女の名前はアリサと言うらしい。そして、年齢は二十歳だそうだ。
「あ、ありがとうございます」
ございますだなんて、変だったかな? 何だか緊張して、堅苦しい返事をしてしまったかも。こんな風に人からされるのは、慣れていないからね。
しかし、アリサは、僕の返事ににっこり笑ってくれた。
笑顔が自然で好感度最高!
それに、彼女は、隷属の首輪に見える僕のチョーカーをみても、特に何も聞かなかった。
気にしてないのかな? それとも、業務上の配慮?
しかし、支度の邪魔になるかと思って一言だけ言っておくことにした。
「この首輪、外せないから気にしないでね」
そう言うと、アリサは、また、にっこりと笑って言った。
「私も、奴隷でしたから、お気になさらずに」
そうなの? それなら、隷属の首輪がどういうものなのかよく知ってるんだよね。
そう言えば、昨日、男爵が言っていた。人材を求めて奴隷を買うことがあると。
アリサさんも、買われてきたのかな?
彼女は何も言わないけれど、奴隷だったのなら、きっと、言葉に尽くせない程酷い目に遭わされてきたのだろう。彼女を見ても、卑屈さなどおくびにも出さないけれど、それは、彼女の芯の強さなのだろうか? 昨日も、他のメイドに指示を出したりして、若いのにメイド達のリーダー的な存在みたいだった。
それにしても、近くで見ると、本当に美人だね。
鏡越しに、アリサの顔をチラチラと見てしまう。彼女の髪の毛はダークブラウンで、後ろにお団子にして留めている。眉毛が細くシャープな印象があるけれど、瞳の色は黒く、優しい目をしている。唇は厚く小さくて、化粧は薄いのにピンク色で艶がある。うなじや腕、メイド服の裾から見えている足も細いのに、胸は、はちきれそうなほど盛り上がっている。
こんな美人と一つ屋根の下なんて、ボズウィック男爵がうらやましいよ、ホント。
彼女は、僕の髪をときながら話した。
「エリア様の髪、なんてお美しい! こんな髪、見たことないです。光沢があって色も光で変化するようですわ」
アリサは、愛おしそうに僕の髪をブラッシングしていく。
分かる人には分かるんだ。どこかの朴念仁に聞かせてやってほしいよ。彼は、マリーナしか見えてないようだけどね。
でも、こうやって髪をとかれていると不思議な感じがする。ついこの間までは、髪の毛なんて気にもしなかったのに。もちろん、男だったからなんだけど。
でも、髪を綺麗にしてもらうのって気持ちがいいんだね。
鏡の中の自分は、透き通るような白い肌をしている。それに銀色の髪の毛が美しく、透明感のある水色の目が、俗世界離れした雰囲気を醸し出している。
自分で言うのもなんだけど、儚げで、まるで天使だね!
この身体を、大切にケアして輝かせないと女神ガイアに怒られそうだ。しかし、こうやって、誰かに手伝ってもらわないと、僕にはできそうにない。だから、アリサのようなメイドの子たちには、これからお世話になるんだけど。ただ、さっきから、どうも名前に様付けって、普通人間の僕には、やっぱり慣れなくてくすぐったい気がする。
「あのさ、エリアでいいよ」
「いけません! エリア様にそんな失礼なことはできません」
彼女は、優しく諭すように言った。
やっぱりそうか。堅苦しいのは面倒なんだけどな。
「それならアリサさん」
「アリサとお呼びください」
間髪入れずに言われた。僕がそう言うと思って、アリサは突っ込みを準備していたに違いない。
「アリサ」
「はい、エリア様」
彼女の返事が早い。
僕が慣れるように配慮してくれているんだよね。アリサは、メイドの職務に誇りをもっているようだし、この際、アリサにはいろいろと相談してみよう。
「僕は、貴族の習慣とか作法とか全然知らないんだよね。だから、僕に、教えてほしいんだ」
「もちろんですっ! 私はエリア様を尊敬しております。是非、そのお役目、私にお申しつけください。エリア様のお力になれるなんて、この上ないメイドの誉ですわ。他の子たちに焼きもちを焼かれそう!」
「大袈裟だな」
「いいえ。今日のご支度も、誰が担当するか希望者ばかりで大変だったのですよ。本当に」
そう言うと、アリサは自分の口に人差し指を当て、そっと扉に向かった。
どうしたの?
彼女は扉の前に立つと取手を握り、そして、一気に扉を引いた! すると、扉の向こうで聞き耳を立てていたメイド達が、バタッ! バタッ! バタッ! と将棋倒しになって部屋に倒れこんだ!
あらら。本当だ。
どうやらメイドは五人くらい、いる。一番後ろには、メイド少女がもじもじしながら立ったままこちらを見ていたけれど、目が合うとすぐ下を向いた。
アリサが、腰に手を当て注意を飛ばす。
「あなたたちっ! 持ち場に戻りなさいっ! サリィっ! あなたもよ」
メイドたちは慌てて散り散りになった。そして、メイド少女サリィも走って行ってしまった。
あの子、サリィという名前なのか。
アリサは、「恥ずかしいところをお見せしました」と申し訳なさそうにしながら、僕の身支度を再開した。
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初めまして、エリア様……
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