002-1-2_庭園の女性(挿絵あり)
「おかえりなさ〜い」
「えっ!?」
その女性は膝に手を付き、前かがみになって僕の顔を覗き込んだ。
「大丈夫? 水沢和生君」
「なっ!?」
何で僕の名前をっ!? 突然……何だ……この人……? ど、どこから出てきたのっ! 髭野郎の仲間っ!?
びっくりし過ぎてその場にへたり込む。
「フゥ~~~ッ」
まだガンガンと頭痛がして治らない。それに、さっきの夢のことで一杯いっぱいだったのに、な、何、この状況! 何が起こっているんだ、一体っ!
頭は働かず、気持ちは目の前の事に全然ついていけない。すると、女性は、右の手の平を上にしてそこに息を吹きかけた。そうすると、緑色の光の粒が、キラキラと輝きながら僕に降り注ぐ。
こ、今度は……何? ……あ、あれ〜、気分が楽になって来たよ〜、何だろう〜、綺麗な光ぃ〜〜〜。
「どう? 少しは楽になったかしら?」
「え、ええ、そ、そうですね……」
やけに、人懐っこく話してくる女性だ。でも、確かに頭痛も治った。それにしても、何だこの人? それに、知らない人に、自分の名前を正確に言われるのって、あまりいい気分がしない。こっちは全く知らないのに。
「あ、ありがとうございます。でも、ど、どうして僕の名前を?」
やっとの思いでそう口にした。しかし、その女性からは、知っているのは当然だというように、「もちろん知っているわ」とだけ返事が返ってきた。そして、逆に、彼女が尋ねてきた。
「ちょっと、混乱してるわね。どうだった? 転生体験」
「えっ? 転・生・体・験?」
どう言う意味? まさか、さっきの悪夢のような出来事のことを言っているのか? それしかないか。いや、ちょっと待てよ、え~と……。
始めに草原のような所で目が覚めて、それから、子どもの身体になって、ウサギの様な魔獣、アルミラージとか言ったか、それに襲われかけて、助かったと思ったら気を失って、それで気が付いたのが……今だ。
そうだ、髭野郎っ!
咄嗟に周囲を見渡す!
あれ? 何処にもいない。
しかも、身体も元通りの大人に戻っている。ホント、次から次へと訳が分からない事ばっかり起きてくる。
どうなってるんだよ……?
こう言う時は、一旦、頭を空っぽにしないと。
確か、テレビかなんかでやってたな。頭の中が情報で満タンだから、フリーズ状態なんだよきっと。
そして目を閉じ、仰向けで大の字になると、ゆっくりと深呼吸をした。何も考えない……。
すると……。
「ん? 風?」
ふっと、顔に風を感じた。
そうか、やっぱり、まだあの草原にいるんだ。
首をもたげて周囲を見る。しかし、さっきとは様子が違う。
あれ? 草原……じゃないのか……?
上体を起こして周りを見渡した。どうやら草原ではない。
「ここは……」
今いるところは、庭園の中のテラスのようなところだ。そのテラスは、周囲よりやや高い位置にあり、そこからは、シンメトリーの広々とした庭園全体を見渡すことができた。庭園の真ん中には、石畳の通路がまっすぐに延び、通路の左右には、それぞれ二十メートル四方くらいの四角い池があった。それらの池には、ハスのような花がところどころに咲いている。池の向こうには緑の芝生と植え込みがあり、そこにも黄色や青、白など色とりどりの花が咲いて蝶々が数羽、飛んでいた。
「……何処……だ?」
そして、百メートルほど先には、白い円錐型の塔がランスの先のように天空を突いており、さらにその先を見ると、庭園の端は真っ青な空につながっている。後ろを振り返ると、背後には、風よけの付いた六角形のガゼボが設置されており、周囲を見渡せるようになっていた。
どうやらここは、ガゼボを中心にした大きな円形の庭園のようだ。そのため、庭園全体が空中に浮かんでいるように見える。
「なんて清浄な場所だ……」
新鮮な空気とそれを運ぶやさしい風が心地いい。それに、庭全体が透明な光を受けて、とても神聖な雰囲気を漂わせている、ここにいると、自分まですっきりと浄化されていくようだ。
心も体も洗われて行くってこういう事? とってもリラックスする〜~~。
「ん? そ、そうだ! 転生体験って何ですか? それに、あなたは、誰?」
女性が、やさしく微笑んで言った。
「ごめんねー、今説明するわね。とりあえず座って話しましょう」
彼女はそう言うと、ガゼボの方を右手で指さし、左手で手招きした。
しかし、何でこの人、こんなに親し気に話すんだ? 僕とは初対面だよね。僕の名前知ってたけど、僕の事どれだけ知ってるんだろう……?
女性の後について、ガゼボの内側にあるソファに腰掛けると、とても柔らかい肌触りで身体が包み込まれ、ゆったりとして気持ちいい。ソファに座って女性と向かい合うと目が合って、彼女が微笑みかけた。
「なっ!」
……か、可愛い〜〜〜っ! ちょ、ちょっとヤバい!
胸がドキドキして、緊張が走る!
こ、こんな人……いる? あ、あれ? なんだかオドオドしちゃってるじゃないか、僕!
このままだと心の中を見透かされそうだ。
ど、動揺していることを悟られては、い、いけない。で、でも、見たいっ!!!
ナチュラル感を出しながら、普通に、何気なく視線を動かして、何となくガゼボの外に目を向けてから、視線を下に移動し、そっと彼女を見る。
うわっ! や、やっぱ、す、凄い美人っ!!!
彼女の瞳は、アクアマリンのようなブルーに、ときおり金色の粒がきらきらと揺らめいていて、目尻がちょっと下がりぎみの優しい目をしている。
髪は金髪で、後ろ側からアップに編み込まれて、大人可愛く、鼻筋はすっと通り、露になった耳からあごのラインはあどけない。
素肌は、産毛がぼんやりと陽光を反射しているのか、淡く光って儚く、うなじは華奢で、ピンクの唇は小さく厚く瑞々しい。
ううっ、心臓のドキドキが、彼女に聞こえちゃいそうだよ。
服装は、胸元に大きなリボンのついた白のブラウスに、ピンク色で膝丈のワンピースを着ているが、ブラウスの袖がゆったりとしている。
フェミニン系、ドストライクッ!
服の上からでもたっぷりと張りのある胸は、アンダーバストの引き締まりで、さらにボリューム感が増されている。くびれたウエストからゆるやかに膨らんだ下腹部とヒップ、太ももへのラインが、たまらなく色っぽい。
お、落ち着け〜、僕〜。
足元は、フレアーになっているワンピースの裾から細い足が揃えられて、清楚感がたまらない。そして、やさしい声音は少し高音で耳に大変心地よく、癒し効果でもありそうだ。女性の姿にグッと息を呑む。
こ、こんな美人っ、見たこと無いっ!
「あ……!」
彼女が見ている。そして、思いっきり目が合った。
「ちょっと! エロい目で見ないでくれる?」
女性は、いつの間にか腕を組んで、ジト目になっていた。
「い、いえっ、ち、違いますっ……」
ふぅ、危ない危ない。でも、そんなにエロい目してたのかな?
ちょっと焦ってしまった。知らない間に、彼女に目が奪われていたみたいだ。それにしても、この人何なの。こんな人が街にいたら、そこいら中の男どもが群がってきそうだ。
一瞬、女性は何かを言いかけたようだが、彼女はそれを口にせず、「それじゃ」と言って自己紹介を始めた。
「本当は初めてじゃないんだけど、初めまして。私の名前はレムリアといいます……」
女性の口調が厳しめになった。
あれ、なんか怒ってる?
「怒ってないわよ……」
「えっ?」
声に漏れてたっけ?
「……それでね、ここは、魂どうしが待ち合わせをする場所で、私は、ここの管理者です。君は……」
た、魂……?
ちょ、ちょっと待って! い、いきなり、衝撃的事実っ! 心の準備ができてなかったぞ。何だって? た、魂? ってことは、あ、あれだ、今、僕は魂状態ということだよね? つ、つまり、あれか? 僕は死んじゃったということなの?
……嘘?
いやいや、ダメダメ、そんなのダメだよ。そんなの急すぎる。あぁ、でも、死ぬってそういう事か? でもでも、さっき草原で目が覚めたんだよ。それで、夢だと思って……。いや~、不思議な夢だったのは確かだな。それにこの場所、天国と言われればそんな雰囲気が……しないでもないが……。
女性が何か言ってるけど、何言ってるかわかんない。全然、頭に入ってこない。
や、やっぱり、僕、今、魂なのか? ということは、死んだんだ、僕は……。
大丈夫?
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座って話しましょう
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ちょっと! エロい目で見ないでくれる?
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