250-11-29_癒しの力
彼女の感情が、より強く感じられるようになってきた。僕の視点が、彼女本人になってきたようだ。どうやら、彼女の意識と同調したらしい。そして、これから自分に起こる出来事には気持ちを向けないようにし、目を閉じて、楽しかったことを思い出そうとした。
何かあったかな……?
そして、フッと思い出が頭をよぎる。
……小さい頃、友達と二人で山菜取りに山に入った。子どもだけで行っちゃいけないって言われてたけど、沢山取れたら、きっと褒められる。そう思って、夢中で山菜を探した。
そう言えば、あの時、友達とはぐれちゃったんだ。道にも迷って怖くて泣いてた。大きな木の根っこで蹲っていると、お父さんが直ぐに見つけてくれて……。
お父さんが来てくれて、とても嬉しかった。お父さんの背中、大きくて、温かい……。優しいお父さん……。
なのに、何で?
そうだ……私が、みんなの糧になるんだった……。私は、女だからお金になるんだって、お父さんがそう言ってた……。
その時、激痛が走るっ!
「うううっ!」
違うっ! 私じゃないっ!
そして、身体の上に男が覆い被さっているようだ。でも、それが分からなくなるほど力一杯奥歯を食いしばる!
口の中で……血の匂いがする……。
「フェッ、フェッ、フェッ!」
耳につく嫌な声。
他に……他に思い出は……。
あっ! お母さん!
……でも、お母さんは、私が子どもの時に死んじゃった。その後、新しいお母さんが家に来て、突然、沢山の弟妹ができた。私は一番のお姉さんだ。始めは嬉しかったけど、赤ちゃんは泣いてばっかりだし子守りが辛くなってきた。お腹が空いてもあんまり食べるものがない。小麦が高くてパンも焼けない。お父さんの仕事もダメになって、家にお金が無いってお父さんが怒ってる。
「家族を助けてくれ」
突然、お父さんに言われた。
どういう意味……?
そんなの分かってる。だって、前にも村に女の子を買いに来た人がいたから。
私、売られるんだね……。
心配しなくても、私だけじゃないらしい。それに、貴族の家に買われれば、お手伝いさんになれるかもしれないって村役の人が言った。そうしたら、ご飯はお腹いっぱい食べられるんだって……。
でも、違った。
「あなた。わたくしの妻となったのですよ。ウィ~フェッフェッフェッ!」
その後のことは、あまり記憶に残っていない。ただ、胸とお腹に、火であぶられたような痛みが残り、いつまでも消えなかった。でも、身体がどうなったのかなんて興味ない。
もう、私の心は神様のところに行って死んだんだ……。だから、そのうち身体も死ぬよ……。
イメージはまだ続く。
んんっ。目が覚めたのかな?
頭に霞がかかっているように、ぼんやりとしていて、やけにリラックスしている。
あれから随分と経ったような気がするけど……。でも、やっと、身体も死ぬことができたみたい……こんなに気持ちが楽だから……。
そう思ったけど、段々、意識が冴えてきた。
あれ? 私、どうなって……。それに、ここは何処だろう? みんなもいる……でも、身体に力が入らないし、起き上がれない。
そして、また、眠くなって、頭がぼんやりとする……。
しばらくしてまた目が覚めた。
ん? 眠っていたの?
そして、誰かが部屋にやってきた。子どもの声だ……。
薄目を開ける。
回復って言ってる? このまま死なせてほしいのに、こんな身体、回復したって私じゃないのに……。
それに、眠くて目も開けたくない。
「レナトゥス!」
何だろう? 今の声?
あれ……何だか、身体が温もってきた。んん? ふんわりと温かい風が身体に吹いてくる。どうなってるの……?
嘘っ!? なになに? か、身体が浮いてるみたいに軽い? ど、どういうこと? どんどんどんどん高く登っちゃうっ!
目を開けてみると、緑色の小さな光の粒が私を取り囲んでいる。
どうなってるの? えっ、光? 今度は何? 金色の光だ。その光が大きく広がってきて……。
うわぁっ! ま、眩しいっ! 光に、つ、包まれるーーーーっ!
いつの間にか目を閉じていた。でも、目の前に、誰かの気配を感じて目を開ける。
白い服。女の子……? 銀色の髪に青い瞳……美しい人だ……。あれ? 首輪をしてる? 何でだろう?
あぁっ、抱きしめてくれた!
「辛かったですね……よく、頑張りましたね……」
ううう~? 何で何で~? どうしたの私……? 涙が出ちゃうよ~。
うううう~……うううう~……め、女神様ぁ~~~~。
えっ、私、女神様って言った? 私、死にたかったのに……泣きたくなんて無かったのに……。
「あなたの辛い記憶を、私にも分けてください……」
うううう~、うううう~、あ、温かいよ〜……。
「私は、あなたを守護しています。もう……誰も、あなたを、苦しめることはできません」
め、女神様ぁ~~~~。うううう~~~~。
「さぁ、あなたの身体をご覧なさい。あなたは、とても強くなりました。傷なんてどこにもありません……」
あぁ、女神様が笑ってる……。
「……もう、悪夢から逃げる必要はないのです。あなたを、あなたの心を取り戻しなさい……」
私の身体……? ほ、本当だ、傷が無くなってる!
「……あなたは、美しく、決して汚されてなどいません。あなたの中に予期せず宿った小さな魂は、あなたを苦しめる事など望んではいないのです。そして、その魂は既に輪廻へと還りました。しかし、心を砕く必要はありません。いつの日かその魂が転生する時、彼は、祝福の中で世界に迎えられることでしょう。ですから、自らを責めてはなりません。私があなたを愛しているように、あなたは、あなたを赦し、そして、あなたを……愛しなさい」
うううっ……私……自分のこと……赦してもいいの? ううう……女神様ぁぁぁ……。わ、私には分かってたんだ、妊娠した事。だから、もう私ごと終わらせようとした……。うううっ……でも、女神様が……全部引き取ってくれた……ううう〜〜〜。いいの? 私……生きてもいいの?
女神様が、そう言ってくれた。
あぁ、涙が溢れて止まらない。
生きていてもいいんだ、私!
今、どうしようもなく自分の事を抱きしめたい。
うううっ……うううっ……うううううっ……。
肩を抱いて、それからしばらく泣き続けた。泣いて泣いて、沢山泣いた。すると、心が落ち着いてきた。
そして……。
あぁ、でも、何だか、私、もの凄く腹が立ってきた! そうだ! 私を一度殺したあいつだけは、赦せないっ! あの男! 何が何でも、絶対の絶対に!
赦せなぁぁぁーーーーいっ!!!
ーーーー。
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