022-2-3_ レピの町(挿絵あり)
野宿の後を片づけて、僕とダニールは朝早くに出発した。そして、一日中馬にも頑張ってもらって、夜には、無事に目的の町、レピに着くことができた。
「僕は、何度かレピの町に来た事があるんだよ」
「そうなんだ、どんな町なの? レピって」
「そうだね、まず、レピは国境の町になっていてね……」
彼が教えてくれたレピと言う町は、辺境の国クライナ王国の最南に位置する町で、王国の入り口なのだそうだ。もうここは辺境国クライナ王国の領土だ。町の西南には、町と同じ名前の大きな湖、レピ湖があり、水と緑があって自然豊かで穏やかなところだそうだ。そして、町の面積は大きいものの、その大半は麦畑や牧草地で、牧歌的な雰囲気が漂う美しい町でもあるらしい。また、この町は、クライナ王国の貴族の保養地ともなっており、彼は、貴族の別荘屋敷が湖沿いにいくつも建っていると言っていた。
「なるほど、リゾート地なんだ」
「まあね。僕たち庶民は、仕事でしか来ないけどさ。特に、クライナ王国は小麦の生産大国でさ、マラケスの商業組合の仕事を手伝っていた時、たまたまこの町を訪れる機会があったんだ」
彼と話をしながら馬をゆっくり進めていると、目の前に、三階建てのビルくらいありそうな、大きな門造りの建物が現れた。
「着いたようだね」
「ここは?」
「クライナ王国の検問所さ」
「ここが……」
その検問所は、白壁の石造りで左右に扉と窓があり、真ん中が通路となっていて、奥には鉄格子が設置されていた。
立派? と言えば立派かなぁ? でも、一国の検問所にしては何だか規模が小さいような……。
よく見ると、検問所の左右には城壁のようなものはなく、林になっているだけだ。建物は堅牢な感じだけれど、警備はそれほど物々しい感じがしない。
これなら検問所を通らなくても町に入れそうだね。
それに、検問所に向かう道と別れて、もう一つ太い道が左に折れ曲がり林の前を通ってその先に続いている。
あの道はどこに行くんだ?
ダニールは馬から降りて僕のことも抱き下ろすと、馬の手綱を柵に繋いだ。そして、慣れた様子で、真っすぐ検問所の方に向かう。検問所の入口には、兵士のようないで立ちをした男が左右に立っている。
門番は、一応いるんだ。
彼らの脇を抜け、奥の鉄格子のところまで行くと、向こう側には机と椅子、そして、そこに一人の兵士が座っていた。どうやら、ここで入国手続きをするらしい。
兵士は、ダニールに名前と出身地、そして、滞在期間と目的を聞き、紙に記録を取った。さらに、彼の持ち物を検査した後、入国税が請求された。
「お前さんと、その奴隷の娘の二人だな?」
「ええ、あとは馬が一頭」
「うむ。人間は一人銀貨五枚、奴隷と馬はそれぞれ一枚だ」
僕は馬と同じ扱いか。
「じゃぁ、これで」
ダニールは袋から銀貨を取り出し、担当の兵士に渡した。
「ちょうどだな。よし、これが通行許可証だ。入っていいぞ」
「ありがとうございます」
彼はそう言って振り返った。
「行こうか」
「えっ? 入国手続きって、もしかしてそれだけ?」
「そうだよ」
ダニールにそう言って聞くと、鉄格子の奥から兵士が面倒そうに言った。
「なんだ? その奴隷は喋れるようにしてあるのか? 問題を起こすなよ。なんなら、もっと調べてやってもいいんだが?」
「い、いえ、申し訳ございません。さぁ、行くよ」
彼はそう言って振り返り、僕の手を引いて戻ろうとした。
「ここから入らないの?」
小さな声で彼にそう言うと、彼は、「町の方に行くには、さっきの道を進むんだ」と言って微笑んだ。
林の前の道のことか? それなら検問所は単なる税関事務所ってことだな。
馬を引き取って跨ると、林の方向に進む。
「ねぇ、ダニール、クライナ王国の検問所って随分と警戒が緩いんだね」
「そうだね。でも、他の町もよく似たもんだよ」
「そうなの?」
ダニールは、もう長いこと他国との戦争は起きていないらしく、きっと、警戒が緩んでいるんだろうと言った。
それにしても緩みすぎじゃないの?
街道は、林を迂回するように続いていて、林を過ぎるとすぐに石畳の道になり、そこがもう町の入り口だった。ダニールは町の概観を知っており、とりあえず、まっすぐ宿に向かうことになった。宿屋街まではそれほど遠くはないらしく、馬の疲れも考えて、町の入り口からは馬を降りて歩く。既に辺りは夜になっているけれど、まばらに人通りもある。
ふ〜ん、明るい感じの町だな。
通りには、ところどころランプの明かりが見える。パブのような飲食店だろう。どうやら、町のメイン通りのようだ。窓から笑い声が漏れている店をのぞくと、数人の男たちが、持ち手の付いた樽をあおってご機嫌そうだ。
「楽しそうだね……」
あの店に入りたいな。旅人か町の人かは分からないけど、みんな元気そうで、活気があるよ。
「……いい町だよね」
ダニールにそう言うと、彼も、「ああ」と言って店の中を見ていた。この通りには、そういう飲食店がちらほらと軒を連ねているようだ。
また、ここに来れるかな? 絶対来よう。あっ、子どもは飲酒ダメかな?
石畳の道を十分ほど歩くと、ダニールが言ったとおり、何軒か宿が並んでいる区画に入ってきたようだ。ダニールが向かったのはウィンディーネ亭という名前の宿だ。レピ湖の守り神である水の精霊から取った名前だそうで、彼が来た時はいつもこの宿を利用するらしい。
「ようやくだね、エリア、小さいのによく頑張ったよ」
「ダニールもね」
馬を裏の馬房につないだ後、表に回って宿に入った。宿のカウンターに行くと、受付には髭を生やした小太りの中年親父が、タバコをくわえながら応対した。ダニールが一泊の予定だと告げると、髭の親父は怪訝そうな顔で僕を見て言う。
「その奴隷も一緒かい?」
「そうだ。何か問題でもあるのか?」
「普通は奴隷なんて馬小屋で寝泊まりさせるがな。まぁ、その娘があんたの抱き枕って言うんなら分かるんだが」
「エリアは大切な友達さ」
大切な友達か、ちょっと嬉しいじゃないか。
「そうかい、俺ぁ、宿賃さえ貰えばそれでいいんだけどよ、あんまり、目立たないようにした方がいいぜ、兄ちゃん」
宿の主人は、そう言うと、二人分の前金を支払うように言った。ダニールは馬もいると言って、馬の分も支払い、ようやく部屋に入ることができた。
「おつかれさんっ!」
「おつかれさんっ!」
部屋に入るとダニールとハイタッチをする。彼のお陰で、今晩はベッドで眠れるようだ。
ホント疲れたね。
街道ばかりを走ってきたけど、知らない内に緊張していたのかして、身体が強張っている気がする。腰に手を当てて身体をほぐしていると、彼も体操を始めた。それにしても、ダニールは僕を奴隷としては見ていない。宿屋の主人は、あんな言い方していたけれど、彼は、最初から、友達のように話しかけてくれている。
やっぱりダニールはいい奴だね。
彼は、身分など気にしてないようだ。それなら、僕も彼を労ってやるとしよう。お湯を湧かしてやれば身体を拭くことくらいはできるからね。
「ねぇ、ダニール、一緒に湯浴みでもしようよ」
彼は、驚くように言った。
「えっ?」
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レピの町
AI生成画像
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