020-2-1_ダニール
草原の道をしばらく走ると、地面の色が黄色から赤茶けた色へと変わった。周囲には灌木が混じり、道も随分と凸凹になってきた。
ダニールは、少し馬の速度を下げると、後ろから声を掛けてきた。
「エリア! 聞こえる? ところで、君は、どこから来たんだい?」
どこから? そう言やぁどこからだ? 設定あったっけ? 無いよね。
「覚えてないんだ。遠くから連れてこられたからさ。ここがなんて国なのかも知らないよ」
「そうなんだ……。すまない、余計なことを聞いてしまったね」
「いいよ、気にしなくて。それより、ダニールの知ってること教えてよ」
「ああ、もちろんさ」
後ろを向けないので、彼と話すときは大きな声で話さないといけない。それでも、ダニールは、町の事など色々と教えてくれた。
「じゃぁ、さっきの町のことだけどさ……」
「今いた所ね」
「ああ。町の名はメルーズっていうんだ」
「メルーズ? へぇ、でも、ちょっと元気がなさそうな町だったよね」
「そうだな、昔は、もう少し活気があったんだけど。あの奴隷市場だって、僕が子どもの頃は劇場だったんだよ。大人向けのね」
「大人向け?」
「そう、大人向けさ。僕は行った事ないけどね」
当たり前だろ。数年前は君も未成年だよね?
「あと、そうだな、今僕たちは、アトラス共和国って国にいる」
「アトラス共和国?」
「そうさ。この世界の二大大国の一つだよ。と言っても、もう、ここらあたりが国の境界なんだけどね」
「じゃぁ、僕たちが向かってるのは?」
「辺境国、クライナ王国さ……」
「辺境国?」
「そう。大陸の端っこってことだよ」
「へぇ〜」
辺境国クライナ王国か。どんな国なんだろう……。
方角は北へ、街道はまだまだ先に続いている。
ダニールは、その後も話を続けてくれた。彼と話していると、旧知の友達と会話しているような気分になる。とても気さくな性格で、見た目もなかなかの好青年だ。髪の毛はブロンドでブルーの瞳、身長も高いし、きっと女の子にモテると思う。
まぁ、性格が真面目というか、ちょっと臆病なところがあるんだろうね。奥手だな。人の事は言えないんだけど……。
彼は、ひとしきり国や町の話をした後、今度は、自分の話を始めた。
「実を言うと、僕は料理人なんだ……」
「へぇ〜、そうなんだ。じゃぁ、ダニールはどんな料理を作るの?」
「僕が作るのは郷土料理さ。さっきのメルーズからまだ南に行くとマラケスという町があるんだよ。そこで、父さんから引き継いだ食堂を営んでいるのさ」
「オーナーシェフじゃん!」
「小さな店だよ。三年前に父さんが亡くなってね、僕は小さい時から父さんの手伝いをしてきたから、自然と店を継ぐことになっただけさ」
ほぉ~、何だか共感する話だ。僕の本当の話ができれば盛り上がりそうだけどね。
ダニールの店はこじんまりとしているが、彼曰く、常連客には人気があって、結構繁盛していたようだ。店の看板メニューは豆と鶏肉のスープらしい。
「……マラケスの家庭では豆がよく食べられていてね、特に豆を煮る料理は各家庭の定番なのさ。それで、父さんが工夫を加えてね、それが店の人気メニューになったんだ。結構美味いんだよ。僕も、その味を引き継いで、今でも良く注文が入るのさ」
「話を聞いているだけでいい匂いがしてくるよ。どんな味か食べてみたいなぁ」
「そうだな。僕も、エリアに食べさせてあげたい……」
しかし、彼はそう言うと黙ってしまった。そして、ポツリと言った。
「……本当にスマナイ、エリア。僕は、自分の思いを叶えるために君を見殺しにしようとしている……」
あ〜、また気のいいところが出てきたな。
「そうじゃないよ、ダニール。僕は、あのままあそこにいれば、どんな目に遭わされていたのか分からないんだからさ。ダニールは僕の事を助けてくれた王子様だよ」
「ハハハ。エリア、君は見た目よりも随分と大人だね。そうやって、僕の気持ちを気遣ってくれてさ」
「別にそうじゃないけどね。そんな事より、他にもどんな料理を作るのか聞きたいな」
「そうかい? じゃぁ、僕の店のメニューを全部話してあげるよ……」
そう言って、彼は料理の話を続けた。彼の店のメニューには、メインの豆料理以外にも、獣肉のソーセージや獣肉のミートパイなんかもあって、どれも人気があるらしい。そして、夜は酒も出すそうだ。マラケスの酒はこの地方独特の香草をフレバーとして使っていて、結構癖があり、度数も高めとのこと。
酒か。僕だって少しは飲めるんだからね。
あと、魚のメニューは無いそうだ。新鮮な魚は、マラケスのような内陸では手に入らないと彼は言った。
◇
馬を休ませながらかなり長いこと走ってきた。
景色も変わり、いつの間にか街道は森の中に入っていた。
日は沈み、もう薄暗い。今日は野宿になるようだ。
うほぉ~、冒険者みたい!
ダニールが適当な場所を探しながら馬をゆっくり歩かせる。すると、大きな木が見えてきた。
「あの辺りがいいだろう……」
そして、彼は馬を止め、大木の根元に今日の寝床を決めた。
「まずは薪集めだな」
ダニールは、手際よく野営の準備をしていく。辺りは暗いけれど、薪はすぐ近くで集める事ができた。木の枝には、山ぶどうの実までぶら下がっていて超ラッキー! 焚火の火種はもちろん火炎魔法で簡単着火。そして、夕食はダニールが持ってきたパンと干し肉、さらに、さっき収穫した山ぶどう。干し肉は彼のお手製らしい。とても硬いけれど、塩味が効いてパンチがある味だ。
「おいしいね、これ」
「だろ? 特製のタレに漬け込んであるからね」
「流石は料理人だね」
「ハハハ。干し肉なんて料理とは言えないよ」
彼はそう言って、嬉しそうにしている。
それにしても、この肉なんの肉かな? 牛肉っぽいけどね。




