020-2-1_ダニール
町の境界を出た後、しばらく走ると地面の色が黄色から赤茶けた色へと変わっていく。そして、周囲には灌木が混じり始め道も随分と凸凹になってきた。
ダニールは、少し馬の速度を下げると、後ろから声を掛けてきた。
「エリア! 聞こえる? ところで、君は、どこから来たんだい?」
僕の出自? まだ設定してなかったよ。とは言え、この世界の地理知識が全くないんだよね。
「分からないよ。遠くから連れてこられたから!」
「そうなんだ……。すまない、余計なことを聞いてしまったね!」
ダニールは、申し訳なさそうにそう言った。
あっ、そういう言い方をすると、悲壮感が出ちゃうのかな? そんなつもりは無かったんだけど。
「いいよ、気にしなくてっ! それより、ダニールの知ってること教えてよ!」
「ああ! もちろんさっ!」
彼と話すときは後ろを向けないので、二人とも大きな声で話さなければならない。それでも、ダニールは、町の事など色々と教えてくれた。
「それなら、まずは、さっきの町のことだけど……」
彼によると、今いた町はメルーズという町だったらしい。
メルーズは乾燥地帯の北部に位置する町で、アトラス共和国という大国の影響下にある町だそうだ。この町は、北部の辺境クライナ王国と、南部の中小の国々とを行き来する商人の宿場町として発展してきたようだけれど、今のメルーズは以前と比べると、随分と廃れてきているらしい。数年前はもう少し活気があって人が多かったようだ。そして、あの奴隷市場は、大人向けの小さな劇場だったとのことだ。
「大人向け?」
「そうらしいよ。行った事ないけどね」
当たり前だろ。数年前は君も未成年だよね?
この後、僕たちは、乾燥地域を離れて緑豊かな辺境クライナ王国へと街道を北上するらしい。
ダニールと話していると、友達と会話しているような気分になる。彼は、とても気さくで、しかも、なかなかの好青年だ。身長は百八十センチ以上ありそうだし、足も長くスタイルがいい。髪の毛はブロンドでブルーの瞳だ。
きっと女の子にモテると思うけど、性格が真面目でちょっと臆病なところがあるんだろうね。奥手なのか? 人の事は言えないんだけど……。
町の話が途切れた後、今度は、ダニールが自分の話をし始めた。
「僕は、実は料理人なんだ……」
「へぇ〜、そうなんだ。ダニールはどんな料理を作るの?」
「僕が作るのは郷土料理さ……」
彼によると、ダニールは、メルーズの更に南にあるマラケスという町で、父親から引き継いだ小さな食堂を営んでいるらしい。
「……僕の父さんは、三年前に亡くなってね、僕は小さい時から父さんの手伝いをしてきたから、自然と店を継ぐことになったんだよ」
ほぉ~、何だか共感する話だ。僕の本当の話ができれば盛り上がりそうだけどね。
ダニールの店はこじんまりとしているが、彼曰く、常連客には人気があって、結構繁盛していたようだ。店の看板メニューは豆と鶏肉のスープらしい。
「マラケスの家庭では豆がよく食べられていてね、特に豆を煮る料理は各家庭の定番なのさ。それで、僕の父さんが家庭料理に工夫を加えてね、それが店の人気メニューになったんだ。結構上手いんだよ。僕も、その味を引き継いで、今でも良く注文が入るのさ」
「話を聞いているだけでも、いい匂いがしてきそうだね。どんな味か食べてみたいなぁ」
「そうだな。僕も、エリアに食べさせてあげたい……」
しかし、彼はそう言うと黙ってしまった。そして、ポツリと言った。
「本当にスマナイ、エリア。僕は、自分の思いを叶えるために君を見殺しにしようとしている……」
あ〜、また変な言い方しちゃったのかな。
「そうじゃないよ、ダニール。僕は、あのままあそこにいれば、どんな目に遭わされていたのか分からないんだから。ダニールのお陰で、こうして希望を持つ事が出来てるんだ。逆に、ダニールは僕の事を助けてくれた王子様だよ」
「ハハハ。エリア、君は大人だね。そうやって、僕の気持ちを気遣ってくれてさ」
「違うって! 僕は見た目通りの女の子なの。そんな事より他にもどんな料理を作るのか聞きたいな」
「そうかい? じゃぁ、僕の店のメニューを全部話してあげるよ……」
そう言って、彼は料理の話を続けた。彼の店のメニューには、メインの豆料理以外にも、獣肉のソーセージや獣肉のミートパイなんかもあって、どれも人気があるらしい。そして、夜は酒も出すそうだ。マラケスの酒はこの地方独特の香草をフレバーとして使っていて、結構癖があり、度数も高めとのこと。
酒か。僕だって少しは飲めるんだからね。
あと、魚のメニューは無いそうだ。新鮮な魚は、マラケスのような内陸では手に入らないと彼は言った。
馬を休ませながらかなり長いこと走ってきたけれど、景色も変わり、いつの間にか街道は森の中に入っていた。日は沈み、もう薄暗い。今日は野宿だ。
うほぉ~、冒険者みたい!
ダニールが適当な場所を探しながら馬をゆっくり歩かせる。そして、うってつけな場所が見つかったようだ。
「あの大きな木のあたりがいいだろう」
彼が示したのは、街道沿いにひと際目立つ大木だ。幹回りは五メートルくらいあるだろう。木の根がいい具合に盛り上がっていて、野宿にはちょうどいい場所のようだ。そして、彼は馬を止め、大木の根元に今日の寝床を決めた。
「まずは薪集めだな」
ダニールは野宿に慣れているように、手際よく準備をしていく。暗い中、薪も思いのほか簡単に集める事ができ、それに、山ぶどうの実まで見つけることが出来て、超ラッキーだった。
野宿って意外と簡単だね。森の恵みいただきますっ!
焚火の火種はもちろん火炎魔法で簡単着火。そして、夕食はダニールが持ってきたパンと干し肉、さらに、さっき収穫した山ぶどう。干し肉は彼のお手製らしい。とても硬いけれど、塩味が効いている。
「おいしいね、これ」
「だろ? 特製のタレに肉を漬け込んであるからね」
「流石は料理人だね」
「ハハハ。干し肉なんて料理とは言えないよ」
彼はそうやって謙遜しながらも、嬉しそうにしている。
それにしても、この肉、なんの肉だろう? 牛肉っぽいけどね。
こちらの世界の動物が前世の世界と同じなのかは分からないけど、双子の世界ならそれほど違いはないのかもしれない。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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