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019-1-19_僕を買ってくれないか

「ちょっと、お兄さん、これ見てよ」


 彼が驚いた目で僕を見た。


「ど、どうしてしゃべることができるんだい?」


 あぁ、そっちね。今は置いておいて欲しいんだけど。


「魔法が切れてるんじゃないの。それより見てよ」


 そう言って、目立たないように腰の高さで掌を上に向け、小さな火の玉を作って見せた。


「ほらっ! 凄いでしょ!」


 彼は口を開けたまま、次の言葉がなかなか出てこない。


 ちょっと、驚きすぎじゃないの? 


 彼の顔を見上げ、様子を伺う。


「……お、お嬢ちゃん、そ、それ、ま、魔法かい?」


「そうだよ、僕は魔法使いさ。でもね、内緒なの。奴隷商の人にもバレてないよ」


 そう言うと、彼は、眉毛を寄せながら口を半開きにして、また、動きが止まっている。何かを言いかけたようだが、やっぱり言葉が出てこないようだ。


 仕方ない、僕の方から言ってみるか。


「あのさ、お兄さん、提案なんだけど、やっぱり僕のことを買ってくれないかな? それで、お姉さんの売られ先に僕を連れていって、お姉さんとの交換を交渉するなんてどうだろう? 僕は魔法使いだし、相手さんも乗ってくれるかもしれないよ」


「……」


 彼は目を丸くしているけれど、黙ったまま突っ立っている。


 ここまで言ってやってるのに、なんか言ってほしいんだけど。悩んでるの? 


 良いのか悪いのか分からない反応を示す彼に、「どう?」と促してみた。すると、彼はやっと我に返ったようで、不器用な言い方で話に乗ってきた。


「す、凄いね、お嬢ちゃん。そ、そんなこと思いつくんだ。ぼ、僕も、同じこと考えてたところだよ。ハハハー。そ、そうだな、でも、いいのかいそれで? 貴族と言っても、何をされるのかわからないよ?」


 彼はちょっと調子がいいとこあるようだけど、一応は僕の心配もしている様だ。まぁ、良しとしよう。それに、男爵家に買われるんなら衣食住は確保できそうだし、貴族の生活ってどんなだか興味もある。だから、僕にもメリットはあるんだよ。


「もちろんよ、お兄さんっ!」


 フフンッ、ちょっと女の子っぽく言っちゃった。特に意味は無いんだけど何となくそんな、き・ぶ・ん! あれ? クリトリアの種のせい? 違うよね。


「わ、分かった、今すぐ交渉してくるよ!」


 そうして、彼は慌てて奴隷商と話をしに行くと、しばらくして走りながら笑顔で戻ってきた。どうやらうまくいったようだ。彼の持ち金はあまり残らなかったみたいだけど、何んとか足りたみたいだ。案内係の男が檻の鍵を開け、僕を外に連れ出した。そして彼に一言、「いい趣味してんな兄ちゃん!」と言った。


 ムカッ! 何だってっ!? ちょっと言葉に気を付けた方がいいんじゃないか。


「おじさん、お腹冷やさない方がいいよ」


「えっ?」


 一瞬、驚いた奴隷商の男は、急に、お腹を押さえて奥へと走って行った。


 魔法って、意図さえ乗せれば、言葉は何でもいいみたいだね。僕が持ってる加護の場合だけかもしれないけど。


「ご愁傷様っ!」


 奴隷市場から出ると、相変わらず乾燥した風が砂埃を巻き上げていた。


 娑婆の空気は旨い! なんてね。犯罪者じゃないからね。でもようやく出られたよ。さて、まだ午前中だし、出来るだけ急いで出発したいところだけど、移動手段ってあるのかな?


 そう思って辺りをキョロキョロと見ていると、大きな幌馬車が一台、奴隷市場の前に停車した。すると、奴隷商の男が一人その馬車に近づいて行き、後ろを振り向いて別の奴隷商の男に声を掛けた。


「おい、奴隷狩りの奴らが来たぜ。お前も手伝え!」


「おう!」


  声を掛けられた男もそう返事をし、幌馬車の方に走って行った。


「奴隷狩り?」


 奴隷商の奴らとは違うのか? 


 幌馬車には誰かが乗っていそうだけど良く見えない。奴隷狩りというのは何だろう? 少し気になるね……。


 しかし、その時、彼が馬を引いて戻ってきた。


「お待たせ」


 彼は、そう言うと馬に跨り、僕を引っ張り上げて前に乗せた。


「おぉ! 結構高い!」 


 彼が連れてきたのは栗毛の馬だ。大人しそうな馬で二人が乗っても身動き一つしない。


「僕、馬に乗るの初めてだよ!」


「そうかい? それじゃぁ、楽しい旅になりそうだ」


 彼は馬の手綱を短く持って、馬の首をポンポンと叩いた。


 乗馬が得意なんだね。僕も、自分で乗れるようになりたいな。この世界じゃ、乗馬も嗜んでおく必要がありそうだ。


「よーし、出発だ!」


 彼の掛け声とともに、馬はゆっくりと歩き出した。


 行先はもう彼に伝えてある。ボズウィック男爵のお屋敷だ。馬ならここから二日くらいの距離らしい。これで、奴隷市場ともお別れだ。全くノープランだったけど、彼のお陰で、取りあえずは奴隷商の檻から出ることが出来た。他の奴隷たちがどうなるのかなんて考えてしまうと、心がもやもやするけれど、今は、それを考えても仕方ない。まずは、この流れに身を任せてみよう。僕はまだ、この世界で、何をすべきかも分からない。十八歳のただの女の子なのだから、まぁ、見た目は七歳くらいって事だけど。


 なんてね。実際の中味は二十五歳の独身童貞男だけど。


 細い通りを進むと、直ぐに町の大通りに出ることができた。しかし、そこで、また、数台の大きな幌馬車とすれ違う。


 さっきと同じ荷馬車だな。あれも奴隷狩りという奴らの馬車だろうか……。


 彼は、馬を操りながら後ろから大きな声で話しかけてきた。


「僕の名前は、ダニールっ! ダニール・ポポフ。二十二歳だっ。君の名前は何て言うんだいっ?」


「ああ、僕の名前はエリアだよ!」


「エリアっていうのか。よろしく、エリアっ!」


 ダニールは、明るい性格をしている。彼とは気が合いそうだ。


 出発してそれほど時間がかからずに町の境界を出た。空は、抜けるように青く高い。馬の背からは見晴らしが良く、遠くまで景色を見通すことができる。


 風が気持ちいいっ! 馬にまたがることも段々慣れてきたかな。よし、リズムを掴んできたぞ。馬に乗るって楽しいっ! 


 銀色の髪を風に靡かせながら馬に揺られる。辺りは、乾燥した草原地帯が広がり、草は背が低く、その分、地平線がよく見えた。


 ワクワクするね。ようやく冒険の始まりだ!

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


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面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!


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重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。

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