188-9-15_雷帝白虎
しかし、その時、クータムが沈黙を破った!
「へへへッ。わ、分かったぜ。お、俺も、ちょっと調子に乗りすぎた。ヴィースの兄き、その物騒なものをしまってくれ。それなら、姫って呼んでもいいか? やっぱり、名前で呼ぶのは柄じゃねぇからヨ。ヘヘッ」
「あ、姫? 姫ね。う、うん、いいよ、姫で。でも、何で姫なの?」
「そりゃヨ、俺たち爬虫類種族は子を産むメスが偉くてヨ、女王様だからヨ。あんたは、まだ若いから、さしずめ、姫ってとこだぜ。それに、女神よか親しみがあっていいだろうぜ」
う~ん。何となく、引っかかるけど、まぁ、いいか。
ヴィースは、僕の様子を見て、剣を背中に収めた。
「ありがとう、ヴィース。カリスも」
「ヘヘヘッ。育ちが悪くて、すまねぇな」
「クータム、言ったと思うけど、僕は、男に興味ないんだからね。ものにするとか、言わないように」
「ヘヘッ」
クータムは頭を掻いた。しかし、その時、洞窟の入口で、誰かが叫んだっ!
「ク、クロック人が、攻めて来やがったっ!」
「何っ! また来たのかっ!?」
転移窓を洞窟の入口上部に出し、周囲の様子を確認した。すると、確かに、クロック人たちが三十人ほど、そして、大型のワニ魔獣が二体ほど、洞窟の入り口に向かってきている。
今日は、これで二度目だね。
どうやら、本格的にラケルタ人たちを抹殺しようとしているようだ。彼らの狙いは、ソマリとシャル、そして、若い女のラケルタ人たちだろう。後の者は、魔獣の餌にでもしようとしているに違いない。
クータムが言った。
「ヘヘヘッ。腹ごしらえでもしてくるぜ」
クータムはそう言って、地面の中に、沈んで行くように消えて行った。
あ~、注意する間もなく、行っちゃった……。
これは、転移窓を閉じていた方がいいかもしれない。
絶対、スプラッターになるよ。
ところが、その時、シャルが飛び出して行ってしまったっ!
「おばぁちゃんのかたき、取ってくる!」
「シャルっ!」
ソマリが、手を伸ばしても間に合わない。
「ソマリ、追いかけちゃダメだよ」
ソマリは、伸ばした手を引っ込めて、小さく頷いた。
シャル……。
放っておくしかない。シャルには危険な相手ではないし、二人が戦えば、クロック人は、一分持たないだろう。
カリスが、ソマリの後ろから彼女の肩にそっと手をおいて、「心配ないわ」と声を掛けた。
はぁ~。一応、見ておくか。
しまいかけた転移窓を覗く。すると、まず、シャルが飛び出してきて、大きな白い虎に変化すると、空中を駆け回った。その後、突然、雷鳴が鳴り響き辺りが暗くなる。そして、シャルの通ったすぐ後ろに大きな稲妻が轟き、クロック人たちは、次々に倒れて動かなくなっていった。二体のワニ魔獣も、あっという間に動きを止め、彼らは、全員、シャルに瞬殺されてしまった。しかし、それで終わりではない。地面の中から黒いワームが何十匹も現れると、倒れたクロック人たちを地中に引き摺り込んでしまい、跡形もなく消えた。
何て言うか……あっけない。
なんだか、もやもやするよね。何だろう? この、後味の悪い感じ。
圧倒的な力で、クロック人たちは全滅した。もちろん、彼らは、ラケルタ人を殺しにやってきたのだ。情けを掛ける必要なんて、全く無い。
それにしても、もやもやする。その原因はシャルだ。
う~ん……。
シャルには力の使い道について言っておいたほうがいいかもしれない。彼女は、まだ、幼いのに、絶大な力を持ってしまったのだ。シャルは、まだ雷帝白虎のまま、楽しそうに空中を走り回っている。しかし、そうしている内に、クータムが戻ってきた。彼は、地中から浮いてくるように転移して現れた。
「チッ、マグナスの死体は無かったぜ。あの野郎、姿を消しちまったみてぇだ。まぁ、どの道、奴らに殺されるだろうがな、ヘヘッ。ところで姫さんヨ。猫娘には言っておいた方がいいぜ。まるで、クロック人を楽しんで殺してたみたいだったぜ。俺ぁ、後片付けをしただけだ」
「そうみたいだね……」
眷属たちはみんな、シャルの戦いぶりをそう感じていただろう。彼女は、まるで、無邪気な感情を暴走させているようだった。そうして、シャルに、戻ってくるように念話で伝えた。
少し、お灸をすえておくか……。
シャルは、雷帝白虎の姿のまま洞窟内に転移して戻ってきた。雷帝白虎の身体は大きく、体長五メートル近くある。彼女は、戻ってくるなり、興奮して話し始めた。
「シャル、凄いでしょ! みんなやっつけたよ……」
「そうだね。でもシャル少し落ち着いて、元の姿に戻ってね」
しかし、シャルは聞いていないのかして、話を止めない。
「あのね、ワニの人たち、雷に弱いみたいなんだ。それでね……」
「シャル」
「私、空を飛んで、気持ちよくって……」
「シャルっ!」
「何?」
雷帝白虎になっているシャルは、やっと返事をした。
「みんな怖がってるんだ。だから、元の姿に戻ってくれる?」
「……」
シャルが黙り込んだ。
「どうしたの?」
「だって、褒めてくれないんだもん……」
「シャル……」
シャルである雷帝白虎は、口をつぐんで下を向いている。
「……いくら、ウェンネさんの敵討ちだと言っても、それは、シャルがすることじゃないよ。ラケルタ人がすることだよね」
まだ小さいシャルにそう言ったところで、彼女が理解するのは難しいかもしれない。やはり、力を制御することを知らない天邪鬼の影響が強く出ているようだ。白虎の守護の力があったとしても、天邪鬼の力の方が強く、制御が十分できていないように見える。
シャルには、持て余してしまう力だね。
すると、ウィンディーネが念話で話しかけてきた。
「一度、あなたが与えた加護を解除したほうがいいんじゃない? 猫娘の身体は戻ったんだし、この子なら大丈夫よ。問題は、また、あの精霊が元に戻っちゃうことだけど……」
「そうだね。そのほうが良さそうだね」
ウィンディーネの言うとおりだ。このまま放置すれば、シャルは、第二の天邪鬼になってしまうだけだ。それなら、シャルを元に戻した方が良さそうだ。
天邪鬼のことは、何とか考えるしかない……。
「シャル。今からシャルと天邪鬼を分離させることにするよ。シャルも天邪鬼も元に戻るだけだから、心配いらない」
雷帝白虎は、顔を上げた。
あれ?
目が、シャルでは無い気がする……。
「えっ!」
目の前の雷帝白虎が、どんどんと覇気を大きくしていくっ!
「何っ!?」
こ、これは、あ、天邪鬼っ! ヤバいっ! このままなら、みんながっ!
「カリスっ! みんなを外へっ! ヴィースとクータムは、僕を手伝ってっ!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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