017-1-17_クリトリアの種
女性は、すぅっと立ち上がった。
「では……」
「ちょ、ちょっと、待って!」
立ち去ろうとする女性を、必死で引き止める。
「あ、あの……」
女性が振り返った。
「どうして? と、お聞きになってましたわね?」
「え? は、はい……」
「では、少しだけ、教えて差し上げますわ」
女性は、また目の前にしゃがんだ。
そして、仕方ないとばかりに軽く息を吐いた。
「……エリアさん。あなたは、心が男性ですわね……」
「はぁ……」
この人、僕の名前を知ってるんだ……。って言うか、転生してることも……。
「……しかし、そのままですと、いくら女の身体でも、いつまでも経っても男性のままですわ。それはそれで良いのですけれど……」
彼女は、少し眉を寄せて話しをする。
「……女神ガイアは、エリア様のために用意されたその身体を、深く深~く、感じて欲しいと考えておりますわ。そうすることで、女神の加護の、真の恩恵を得ることができますの……」
真の恩恵……?
「……クリトリアの花は、身体の成長とともに、女性の性質を引き出すことにとても役立ちますのよ」
女性は、そう言うと人差し指を立てた。
「……では、少し、試してみましょう」
「えっ? 何を?」
「もちろん、種の効果ですわ。少し、目を閉じてくださいな……」
女性は、そう言って手を翳す。そして、言われた通り目を閉じた。すると……。
ん? あー、何だか、い〜い匂いがするぅ〜。温かくって〜、……なんか、柔らかぁ〜い……。う〜ん? あ、あれ〜、ちょっと……何だろう……?
胸の中から湧き上がってくる懐かしい感覚。
自分の繊細な部分、少し、弱いと感じていた控えめなところ、そんな性格が前世の記憶と共に甦る。
……あれは、そう。遠足の時の水筒。僕は、青いのよりも……そっちのピンク色が……欲しかったんだ……。
……。
えっ!
「な、何だっ、今のっ!?」
「……どうやら良さそうですわね」
「な、何が?」
「エリアさん、存分に女を磨いてくださいな。フフフッ」
女性は、しゃがんだまま頬杖をついて、艶めかしい笑顔を浮かべた。
「ど、どういう事? こ、これから、僕は、ど、どうなるのっ?」
「心配には及びませんわ、楽しめば良いだけの事です。女の身体は、とても素晴らしいものですわよ」
女性は、そう言って舌なめずりをした。
ゾクッ! お、悪寒がするんだけど……。
それにしても、今のは何だったんろう? 女の子の性格が出てくるって事じゃないよね? ムムム、そんな事になったら大変だぞ! だ、だって、ほら、い、いろんな事が……ん? どうなっちゃうんだろう? あっ、でも、あれだね、身体の成長に合わせて、とか言ってたか。それなら、徐々にって感じかな? 心の準備期間ある? いやいやいや、そんなの聞いてないって。どうしよう? 僕、男じゃ無くなっちゃうの……?
やっぱ心まで女になっちゃうなんて、む、無理ぃぃぃ――――っ!!!
彼女が立ち上がった。
「それでは、またお会いしましょう、エリアさん。フフフ」
彼女はそう言って手を小さく振った。
この人、この先も僕の人生に絡んでくるのか? できるなら遠慮しておきたい。でも、忘れたいけど、忘れられない。あんな禍々しい覇気なんて……。
彼女が歩きかけると、僕との話が終わるのを待ちわびていたのか、案内役の男が手揉みをしながら彼女に近寄った。
「どうです? マダム。あの娘、お安くしときますぜ」
そう言うと、案内役の男は、小さなボードを彼女に見せた。しかし、彼女は、案内役の男に声を掛けられても、「安すぎますわ」とだけ言って男を相手にしようとしない。そこで、男は、しつこく彼女の前に回り込んだ。
「流石はマダムですぜ」
男がそう言うと、彼女は、カツンと靴音を立てて立ち止まった。そして、男をチラリと見ると静かに言った。
「消し炭にいたしますわよ」
ゴクリッ!
息を呑む。彼女の所作は優雅だけれど、案内役に向けられた言葉には、その通りの意図以外に何もないという冷徹さが込められていた。
彼女の言葉を聞いて、男は固まったように萎縮した。
それを見て、彼女はまた入口に向かって歩き出した。
「ふう〜。き、緊張したよ、まったく……」
彼女が行ってしまった後で、ようやく我に返った案内役の男は、顔を青ざめさせながら奥へと下がって行った。
もし、男がもう一言しゃべってたら、本当に消し炭にされてたよ。何だろう? あの人に感じる感覚って、恐怖? いや、畏怖? かな。結局、あの人何者だったんだ……?
彼女の気配が無くなると、辺りは元の内覧の雰囲気に戻ったようだ。彼女がいる間は、みんな彼女を見ていたのだろう。それほどの存在感だった。
ようやく辺りが落ち着き、ゆっくりと内覧の様子を見ていると、大人の女奴隷が人気だとわかってきた。僕のことを気にかけてくれていた向かいの女性奴隷の檻にも、複数の客が来ていたようだ。
あ〜、でも気の毒だよね、みんな客の前で裸にされちゃってるよ。口も開けさせられて歯を調べられているね。多分、病気が無いかとか見るためだろうけど、女性には特に酷だよね。
僕の向かいの彼女もブラウスとスカートを脱がされて下着姿になっている。さすがに触られたりはしてないようだけど。
「可哀そうに、屈辱的だな」
しばらくすると一人の若い男が焦ったように入ってきた。その男は脱いだマントを小脇に抱えながらシャツとズボンという何処にでもいるような平服を着ており、腰に巾着袋を吊り下げて、奴隷の檻を足早に見て回っている。そして、僕の向かいの彼女のところに来ると、駆け寄って女性の名前を言った。
「マリーナっ! よ、良かった! 間に合った! もう会えないかと思った!」
すると彼女は驚いたような顔をして、檻の鉄格子に飛び付いた。そして、二人は鉄格子を挟んで手を繋いだ。
「あの男は彼女の知り合いかな?」
しかし、間が悪いことに、お頭がこちらに歩いてきている。大きな湾曲刀も腰に下げたままだ。
「ちょっと、やばいかも。お頭に見つかっちゃうんじゃない?」
ところが、二人はそんなことに気づく様子もない。一方、お頭は、もう二人に気づいているようだ。奴は、真っすぐに彼女の檻に向かっている。
「おいおい、何してんの早く気づけって! お頭きちゃってるよぉ〜!」
お頭の左手が刀の鞘にかかった。
「ちょっと何する気? まさか切ったりしないよね?」
お頭の目が……。
「ダメだ、涼しい目してる。どうする? どうすんの? あー、どうしよう?」
魔法を使えばこの場は凌げるかもしれない。
「いや、マズイぞ、これ~」
お頭が剣に手を添えて構えた。
「あ~もう、こうなりゃ仕方ないっ!」
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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