163-8-30_禊の池(挿絵あり)
森の中は、木々の間を明るい日差しが差し込んでいて、その光がキラキラと輝き、とても美しい。それらの光が集まる陽だまりには、小さな花弁の青い花が群生し、誇らしそうに咲いていた。
ほんのしばらく進むと、樹木の影の先に、ひと際明るい光が筋になって降り注いでいるところが見えた。陽光の先には、影になって少し暗くなった場所がある。どうやら、それは洞窟の入口のようだ。
「あれかな? また、洞窟ね」
確かに、岩屋と言うだけはあるようだ。そして、日差しのカーテンを通り過ぎ、洞窟の入口に立つ。
「ここが水たまりの磐座なのかな?」
そこからそっと中の様子を見ると、洞窟の中は暗く、先の方がどうなっているのか分からない。
「ここで、間違い無いのよね?」
少し不安を感じる。しかし、ここまで来て、この洞窟がイニシエーションと何も関係ない場所だとも思えない。
「足元が良く見えないんだけど……」
とは言え、先に進むしか無い。
「まだ、何か試練とかあるのかなぁ。怖いの、来ませんように……」
慎重に足を進める。外からの光があるので、まだ大丈夫。しかし、ほんの数十メートルほど入ったところで道は行き止まりになっていた。
「嘘、もう行き止まり?」
やっぱり間違えたのかも。でも、他に別の洞窟があった様子も無かったし……。
そう思った時、突き当たりの壁の左側から、突然、青白い光が漏れ出した。
「あれ? 何か光ってる? ん? こっちに、何かの入り口がある!」
洞窟の壁の微妙な出っ張りの影になっていて、そこに、入り口がある事に気が付かなかったけれど、今、そこから光が漏れてきた事で、その先に進むことができると分かった。
壁には、身を屈めてしか通れない程度の入り口が開いている。青白い光の元は、その奥の方にあるようだ。
「それにしても、綺麗な光ね」
小さな入り口から中に入る。身体をぶつけちゃうと、岩に当たって怪我をしそうだ。
ゆっくりと慎重に入り口をくぐる。そして、下げていた頭を上げ、周りを見渡した。
すると……。
「うわぁ! 何て幻想的!」
その場所は、地底湖の様に広い空洞となっていた。
「池だ。でも、青く光ってる。綺麗~……」
そこは、自然に出来たとは思えない均整の取れた岩壁の空洞となっていて、天井は平になっており、壁は全体が八角形の形をしている。そして、目の前には、直径二十メートルほどの丸い池があり、池の水は、まるで、蛍光塗料を溶かしたかのように、淡く青い光を発していた。
「この池、とっても不思議……」
青白い光の元はこの池の水だったようだ。
「この池が、水たまりの磐座なのかな?」
確かに、水たまりと言われればそんな気もする。しかし、磐座にあたるような岩は無さそうだ。改めて周囲を見渡してみる。池の縁を歩くことはできそうだけど、道というものではなく、また、出口らしき場所も見当たらない。
「やっぱり、ここで行き止まりのようね」
どうしたらいいんだろう? 考えられるとしたら、この池に入ることくらいだけど……。でも、入った後はどうすればいいの? 池に入れば、それで、イニシエーションの達成になるのかな? そんなに簡単な訳ないよね……。
しかし、この場所に導かれるようにして入ったのは確かだし、きっと、何かあるに違いない。頭で考えていたところで、答えも出ない。
「なら、入るしか無さそうね」
池はそれほど深くも無さそうだ。
取りあえず入ってみよう。
そして、右足をそっと池の水に浸けた。
「冷たいっ!」
すると、その時、頭の中に声が聞こえた……。
「禊の池です。何も身に着けてはなりません」
念話? 禊って……。じゃぁ、ここが水たまりの磐座で間違いないのかな? 何も身に着けちゃいけないってことは……。
「丸裸!?」
念話で話してみる。
「ショーツも取らないと、ダメ?」
「何も……身につけてはなりません」
だよね。
繰り返されちゃった。
でも、ちょっと恥ずかしい。
裸にならなきゃいけないんだ? 誰も来ないよね? 禊なんて、神社だったら手の先だけだと思うんだけど、身体全部を清めないとダメなんだよね。よく、白装束着て禊してるところ見たことあるけど、このワンピースもそんな感じなんだけど……。
それにしても、念話の声、アクアディアさんにそっくりだ。というか、彼女で間違いないと思う。
やっぱり、見てくれてるんだ。
なら、脱いじゃう? それしか無さそうね。
麻のワンピースを、頭からすっぽりと脱ぐ。
「このワンピース、結構気に入っているのよね」
丁寧にそっと脱ぎ、軽く畳んだ。
ショーツも、だよね……。
明るいから、やっぱり、恥ずかしい。でも、裸にならないと、次のイベントが起こらないなら仕方ない。
ショーツの端に親指を入れ、お尻の方から、じわっとずり降ろす。
「ホントに誰も来ないよね?」
ワンピースの間にショーツを畳み入れ、水に濡れないように岩壁の側に置いた。
「これで良し、っと」
手で、胸とお腹の下を隠す。何となく、誰かに見られてる気がする。
アクアディアさんだけなら、いいんだけど、でも、タオルくらい欲しい。
「じゃぁ、入ります」
そう念話で声にし、改めて右足を池に浸けた。
「うっ、冷たい!」
「池の中央まで進んでください」
また、念話だ。
「中央ね」
この冷たい水に身体を浸けるんだよね。
ちょっと気合いがいる。
ゆっくりと、一歩ずつ、池に入っていく。
水の青い光と、水面の揺らぎが身体に反射し、白い素肌の上でその光たちが踊ると、身体全体がまだらな水色の照明で照らされているようだ。池の底にも、水面の模様が映って、揺れていた。
綺麗な青だ。
二メートルほど進むと、膝の高さまで水が来た。どうやら、池は、真ん中に行くほど深くなっている。
冷たくて、引き返したい気持ち。でも、頑張る!
そして、数メートル進み、池の中央あたりまでやってきた。水は、太ももの上の方まできている。
ううう〜。やっぱ冷たいっ。身体まで、全部浸からないとダメかな? アクアディアさん、何にも言わないし、ダメなんだよね、きっと。ホント、水風呂みたいだわ。こういう時は、冷たいけど、一気に入る方がマシよ!
ギュッと身体に力を込めて、息を止める。そして、一気に腰を下ろした!
ザブンッと大きな音がなり、波が立つ。
「キャ〜。冷たっ!」
でも、我慢。そのうち慣れてくるはずっ!
腰を落とせば、肩まで水に浸かる深さがあった。髪の毛も、全部水に浸かっている。
これ、絶対、風邪引いちゃうよ……。
しばらく水に浸かっていると、段々、冷たさにも慣れてきて、身体の緊張を緩めることができた。
禊って、これでいいのかな?
それにしても、この水、ホントに綺麗だ。
手で水を掬う。特に浄化の効果などを感じたりはしない。
だけど、何だろう? とても密度の濃い水のように思える。でも、よく考えれば、密度が濃い水というのも変だ。
水は水よね。フフッ。
自分の考えに笑えてしまった。
それで、この次、どうするんだろう?
そう思った時、突然、背後で足を水に浸す音がしたっ!
「うっ、嘘でしょ!? 誰っ?」
咄嗟に、足を引き寄せて丸くなり、顔だけで後ろを振り返る。
「なっ!?」
驚きで、次の言葉が出てこない。
そんな事って……何で? 私……。
でも、違う。そんな訳ない。誰かが、私に変身しているに違いないっ!
その私は、一切、何も身に着けず、今の私と全く同じ姿をしている。
「あなた、一体、誰なのっ!?」
しかし、その私は返事をしない。それどころか、まるでこちらに気が付いていないかのように、ゆっくりと真っ直ぐに向かってくる。
「ちょ、ちょっと、何なのよ!」
立ち上がって、その私と面と向かったけれど、目を見ても、微妙に視線が合わない。その私が止まらないので、少し、後ずさると、彼女は、そのまま、ザブンと腰まで水に浸かった!
「……!?」
一瞬、思考が止まってしまう。
えっ! これって……。
見紛うことも無く、数分前の私だ。
「何? どうなってんの?」
しかし、その私は、そのまま色を失い、形まで失って、たちまち透明の水になってしまった……。
ん!?
全く意味が分からない。
何が起きている?
「何、何っ!? ちょっと、ヤバい!」
早く、この池から出ようっ!
慌てて入口の方に向かった。
「水って、重いわねっ! もうっ!」
早くしないとっ!
「キャッ!」
水に足を取られて、前のめりに倒れ、顔まで水に浸かってしまった。
「もうっ、何なのっ!」
しかし、直ぐに立ち上がる。ところが、その時……。
「え~~~~~~っ!」
目の前に、水の柱が立ち上がったかと思うと、人型になった。
そして、色が着き……。
「嘘? また……私だ……」
その私は、さっきとまるっきり同じように、池の中央まで行くと、一気に腰を下ろし、そして、水に還った……。
「ど、どうなってんの……?」
呆然と立ち尽くす。
そして、また……。
新しく現れた私は、また、色が着いて寸分違わぬ私になり、池の中央に向かう。
何が起きているのだろう?
意識が、完全に受け身になってしまっていた。
次の私が、池の中央まで進む。驚きのあまり、固まって動けない。そこで、また、その私は、肩まで浸かり……。
水に還る……?
かと、思へば……。
ん?
ちょっと、タイミングがおかしい。
あれ? まだ、腰を下ろさない……。
その私は、背中を向けたまま立ち止まっている。
「な、何? どうしたの……?」
鼓動が高鳴ってくる。
ふ、振り向いたり、しないわよね……?
しかし、突然、その私の方向から声が聞こえたっ!
「女神……ガイアの子よ……」
「しゃ、しゃべった!?」
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禊の池
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