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015-1-15_内覧

 次の日。


 起床の鐘が鳴らされて、無理やり起こされる。建物内は結構冷えていて、布が無ければ寒くて眠れないくらいだった。


 魔法があるから大丈夫なんだけど。


 起きてからしばらくすると、奴隷たちは順番にトイレに連れて行かれ、その後、パンと水が配られた。それを食べ終わった頃に、一人の男が檻全体に向かって大きな声で内覧の事を言い回っていた。


「内覧ーーーん! 内覧ーーーん! 奴隷どもは、静かに待て! 内覧ーーーん! 内覧ーーーん!」


 へぇ〜、今から始まるんだな。


 昨日、おばさんから読み取った情報によれば、奴隷の内覧では、買い手が奴隷を見にやってきて、希望の奴隷がいれば奴隷商と交渉し、購入するようだ。もし、複数の購入希望者がバッティングすれば、当然、一番高い金額を示したやつが買うことになるのだろう。


 檻の隙間らか入り口の方を覗き見る。


 お〜、早速、ぞろぞろと人がやってきたぞ。僕は子どもに見えるだろうし、和菓子作り以外に仕事もできないから、購入希望者なんてないだろうけど……。


 しかし、しばらくして五人の集団がやってきた。奴隷商の案内役に続いて、顎髭を伸ばし、豪奢な服を着た貴族風の年配男とその使用人らしき風貌の中年の男。そして、太って目をギラギラ輝かしながらふんぞり返っている男と、それに付き従っている執事風の老人だ。


 案内役が後ろの人物たちに向かって、「こちらでございます」と、この檻を指さして言った。すると、貴族風の男が、顎髭に手をやりながら僕の檻を覗き込んだ。


 キモいっ! 


 品定めをされる視線って、ねっとりして、身体にまとわりつく感じがする。


 うへぇ~、鳥肌が立っちゃったよ。


「ほう、なかなかの容姿をしておるな。どこの出身の子だ?」


 貴族風の男が案内約に尋ねた。すると案内役の男が答えた。


「出身は、はっきりとは不明なんですが、しかし、髪の色や目の色からすると、神龍山塊周辺かと」


 こいつ適当なこと言って、レア感煽って価格を吊り上げようって算段だな。


 貴族風の男が言った。


「ふむふむ、なるほど、以前聞いたことがあるが、神龍に使えるという銀色の髪をした古い部族の話を思い出すのう」


 このおっさんも適当な事言って、話を合わせてるのか?


 すると、後ろから太った男が会話に加わってきた。


「私も聞いたことがありますぞ、閣下。確か悪魔の子孫と噂された呪われし部族、竜族と言いましたかな?」


 何? 竜族だって? 神龍山塊って言ったか?


「まぁ、それはそれとして、この娘は美形であるし髪色も独特ですな。将来はさぞかし美しい女になりましょうぞ。色々と仕込めば、高貴なお方からでも身受けしていただけそうですな」


「そうじゃのう、しかし、奴隷は奴隷ゆえ、成長を期待して元を入れるのもどうかと思うのぉ。容姿の優れた歳頃の娘は他にも沢山おるだろう。それに、ワシがゆっくりと愛でるにしても、まだ少し早いようじゃ。パスじゃな。ワッハッハッー」


 ムカッ! 何言ってるんだこいつらっ!


 貴族風の男が言葉を続ける。


「それにしても、奴隷の子にしては利発そうだ。実際、此奴の歳は幾つだ?」と聞くと、案内役は男に説明した。


「七歳にございます。ご購入されるのでしたら拾いものでございますよ。この歳であれば、読み書き算術もすぐに覚えるでしょう」


 案内役は揉み手をしながらそう答えた。すると、太った男がまたしゃしゃり出てくると、案内役に向かって言った。


「読み書き算術などどうでもよい。娘奴隷など、健康で愛らしい容姿であればそれでよいのじゃ」


 クゥ〜〜〜ッ! 気持ち悪いんだよっ!


 思わず布を手繰り寄せて抱えてしまった。そして、太った男の言葉に、貴族男が反応する。


「ジャブロク殿、玩具は、利口であるほど、外面の繕いと遊ぶときの戸惑う様子が著しく変貌し、興がわくというもの。そう思わんかね?」


 あの太った男はジャブロクと言うのか。それにしても貴族親父、マジ趣味悪っ! 


「いやはや、さすが閣下はご見識が高いお方。参りますわい」


 何の見識だよっ! 最悪だなお前らっ! こんな奴らに買われていった日にゃ人生終わりだぞっ! こういう輩が女の子たちを買っていくのか? この世界の女性にトラウマを植え付ける元凶共めっ!


 どうやら、一行は立ち去る様子だ。


「あれは何んという名の奴隷であったか、算術のよくできるおとなしい娘でな。しかし、遊ぶ時には怯えたような良い表情をする玩具であった。まぁ、歳がいったので手放したがな」


「ほう、それはまた良い玩具だったのでしょうな」


「また、ああいう玩具を見つけたいのう。ワッハッハッハー」


 変態貴族とジャブロクは、会話しながらゆっくりと歩いて行った。奴らの興味は、もう少し年齢の高い娘奴隷のようだ。


 さっきの司祭の女の子、こいつらに買われちゃうんじゃないか? 心配だ。


 しばらくすると、また、客がやってきた。次の奴らは一組の父子だ。父子と言っても、息子はもう三十歳そこそこの年齢だろう。父親の方は、結構、年配に見える。その顔が真っ黒に日焼けし、皺がたくさん刻まれた顔をしていたからそう見えたのかもしれない。


 何しに来たんだよっ、まったく!


 父親は背が低く、細身で、少し腰も曲がっていた。彼は、上下ベージュの作業着を着ており、手は大きく黒づんだ爪をしている。息子も、父親と同じような作業着を着ており、ツバのある黒い帽子を被って、手には軍手を履いていた。二人は、檻の前に一旦立ち止まったが、父親の方は興味なさそうに隣に移ろうとした。しかし、息子は、そのまま立ったまま僕を見ている。


 何見てんのさっ! そうやって見られると背筋が寒くなるんだよっ!


 息子があまりにもじっと見るので、布にくるまって横を向き、座っていた。すると、息子がとんでもないことを言う。


「この奴隷、おいらの嫁に育てたい。フェッ! フェッ! フェッ!」


 キモッ! 何、変な笑い方してるんだっ! 僕が嫁になるわけないだろっ! 僕を見て、嫁とか口にするんじゃないっ! 僕だって結婚したこと無いんだぞっ、まったく!


 息子の言葉を聞いた父親が引き返して、僕を見る。そして、父親は、息子に言った。


「ほう、べっぴんな娘っ子じゃわい。だけんども、おめえの嫁にはできんよ、この娘は。フォッ!、フォッ!、フォッ!」


「父ちゃん、何でおいらの嫁にできねぇんだ? フェッ! フェッ! フェッ!」


 息子がそう言うと、父親は、掌をダメダメと煽って言った。


「こんな別嬪じゃぁ、おめえが畑仕事を放りだして、この娘の尻ばっかり追いかけるじゃろ? フォッ!、フォッ!、フォッ! まぁ、この奴隷は、きっと高くて手が出んわ。フォッ!、フォッ!、フォッ!」


 くぅ~っ、親父の方まで変な笑い方だ。鳥肌が立つだろっ! うぅっ~、気持ち悪いっての!


 父親にそう言われても、息子は、まだこっちを見ている。


 早くどっか行っちゃえばいいのにっ!


 しかし、父子は檻の前で会話しながら、まだ隣に移ろうとしない。


 気持ち悪いから、背中を向けて丸まった。

 

 周囲では、どの檻の前にも、人が集っている。会場は、多くの内覧者たちでざわついた雰囲気になっていた。しかし、その時、埃っぽい空気に打ち水をするように、入口の方向から、コツ、コツ、コツ、と靴音が響いてきた。


 何だ? やけに耳に残る靴音だな……。

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