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014-1-14_奴隷市場

 御者男に連れられて建物に入る。すると、中はとても暗く冷んやりとしていた。しかし、目が慣れてくるに従い、中は結構広いことが分かった。

 建物の入口から見ると、そこは左右に空間が広がっており、一つの大きなスペースとなっている。また、入り口の正面奥に通路が伸びていて、そこには扉も見える。そして、空間の天井は高く、明り取りの小さな窓が壁の高い位置に付いていた。


 この大きなスペースに、奴隷の檻が向かい合わせで並べられてある。ざっと見ても、五十基以上はありそうだ。檻は、スペースの形状に合わせて置かれていて、凸凹とした配置になっていた。


 何だか雑然としてるけど、元々は、何か別の目的で使われていたみたいだね。


 ここに並べられている檻は、荷馬車のものより背が高く大人が立っても余裕がありそうだ。しかし、一つ一つの檻は二畳分程の広さで、結構窮屈に見える。それぞれの檻には番号が付けられてあり、中には厚めの布が一枚づつ畳まれて置いてある。周りでは、数人の男女が忙しそうに檻を見回っており、何かの準備作業をしているようだ。どうやら、ここは、奴隷たちが集められる場所らしい。


 奥から別の二人の男がやってきた。身なりは御者男とそう変わらない。御車男は、その内の一人に女奴隷三人を預け、自分は男奴隷三人を連れて奥へと入っていった。そして、僕はもう一人の男に鎖を引っ張られ一番奥の方の檻に連れて行かれた。


「お前はここだ」


 その男はそう言うと、手枷の鎖を外して僕を檻に入れ、カギを閉めて立ち去っていった。


 こいつら、ホント説明無しで困るよ。奴隷の檻がたくさんあるから、何となく取引の場所だろうということは想像つくけどね。まぁ、命までは取られないんじゃないかと思いたいよ。


 檻は一人用なので、中に入ればちょっと落ち着く。そう考えていると向かいの檻には、僕を抱っこしてくれたあの女性奴隷がいることに気が付いた。彼女も僕のことに気が付いたらしく、こちらを見ている。


 みんな売られちゃうんだな。僕も同じなんだけど……。


 でも、攫われてここまで来ちゃったけれど、このままだと、本当に誰かに買われちゃうね。いざとなったら逃げちゃおう。いや、そうなったら、ただの迷子になるだけか? う〜ん、理想は、冒険者のような仕事に就きたいんだけれど、そう言う仕事があったとしても、この見た目じゃ、子どもに見られちゃって相手にされそうもないね、きっと。


 やっぱり、魔法を使ってどうにか生計を立てるしか無いかも。異世界でも前世と同じだね。一人で生きるのって大変だよ、ホント。


 しばらくすると中年の小柄なおばさんがやってきた。この人の首にも隷属の首輪が嵌められている。彼女は、檻の前で僕に声を掛けて手招きした。


「身体を拭いてあげるわね、こっちにいらっしゃい」


 そう言うとおばさんは、鉄格子越しに僕の服を脱がせて、顔と身体を隈なくお湯で拭いてくれた。埃っぽかった身体が、さっぱりして気持ちいい。


 ありがたいサービスだ、なんちゃって。まぁ、商品をよく見せるためなんだろうけど……。


 彼女は、「もうすぐ食べ物が運ばれてくるから待っててね」と言って向かいの檻に移動した。


 そうか、ここにいれば、食べ物も与えられるんだ。


 そんなことを考えながら、ちゃっかり情報収集を行っていた。荷馬車の中で人の考えを読み取る方法が分かったので、早速、実践していたのだ。情報収集だけは怠れない。


 そうやって得た情報によると、今のおばさんは、奴隷商で働く奴隷で、こうして他の奴隷の世話をしているようだ。彼女は、ある程度自由に会話をすることが許されているらしい。残念ながら魔法は持ってなかったけれど、その代わり、明日の予定を知ることができた。どうやら明日は、午前中に奴隷の内覧があるようだ。奴隷を購入しようとする奴らが、ここにたくさん訪れるらしい。それで交渉が成立すれば、新しい主人に買われていくことになるのだろう。


 でも、こんな見た目が非力な女の子に需要があるとすれば、良からぬ性癖の持ち主か、光源氏バリのロリ男くらいだろうね。どっちにしてもおもちゃにされそうだな。 


 しばらくして、ようやく食事が運ばれてきた。


 ホントに食べ物が出てきたよ。もう、お腹ペコペコだ! 


 出されたものは、ちょっと冷めたスープにパンと水だ。パンは、荷馬車で食べたものよりはいくらか柔らかい。スープは薄味で、具も殆ど入ってなくて大して旨くはなかったけれどお腹は満たされた。文句を言えばいくらでもあるけど、今は、仕方ない。ここは、辛抱して、おいしくいただいた。


 よし、お腹も落ち着いた。これで、集中できそうだぞ。


 今から、昼間イメージをしておいた魔法を試す。こういう地道な練習が実を結ぶのだ。僕は、職人だから、そういうことは身をもって知っている。


 まずは、魔法がバレないように周囲へ細心の注意を払う。始めに考えたのは、魔力感知だ。これは、文字通り人の魔力を感知してその動きを把握するというもの。今日、何人かと接触したことで、人の意識に薄い魔力が纏われていることがわかったので、出来ない事は無いはずだ。

 方法は、まず、自分を中心に魔力を半球状に広げていく。それで、自分の魔力と異なる魔力をサーチしていくのだ。イメージはできているけれど、機能するかみておこう。では、魔力感知、発動! 


 おおっ! 分かる分かる!


 人の位置と、それがどっちに動いているか。それに、魔力から、その人間が強そうかどうかくらいは把握できる。だから……。


 うわぁ〜、お頭、いるいる。これは確実にお頭だな。


 やっぱり奴は、他の者とは違って別格だ。

 

 よしよし、この魔力感知は使えそうだね。


 そして、次はとりあえず攻撃系だ。火炎系魔法を極々小さな魔力で指先に出してみよう。光が漏れないように布を被って行う。火事にならないように注意も必要だ。


 では、点火! よしっ、成功だ!


 ライターより小さな火を出すため、魔力量の制御に神経を使ったけれど、昼間のイメージトレーニングが役に立ったようだ。威力を増すにはイメージを変えるだけだし、火の玉にして射出したり、バーナーのようにもできそうだ。魔力を収束すれば光線のように放つこともできるだろう。


 早く、広い場所で試してみたいね。


 そして、水系魔法、風系魔法も試してみた。これらもイメージ次第でいろいろなタイプの魔法になりそうだ。さらに、土系魔法もいろいろ考案した。床に手を当てて五センチ四方のコンクリートを砂に変えてみた。


 うんうん、上出来だ!


 とりあえず攻撃魔法はそのくらいでいい。これならいくらでも応用が効きそうだ。


 そして、次は、治癒系魔法だ。イメージしたのは、単純に細胞を活性化させて自己治癒力を超強化するだけなのだけど、効果は高いと思う。まずは、極小の細胞からイメージの視野を徐々に組織へと広げ、神経、臓器、骨格など異常カ所をサーチする。外科的な異物の除去は、空間魔法を合わせて行えばできそうだ。但し、欠損部分を修復するというのはどうだろう? 


 う〜ん、単純に再生をイメージしたところで上手くいきそうな気がしない。多分、もっと何か……そう、再生に特化した細胞の超回復機能強化、みたいなものを想像する必要がありそうだ。


 やっぱり、現状ではちょっとハードル高そうだな。


 女神の祝福加護も、初めから何もかも万能では無さそうだ。


 やっぱり、努力次第ってことか……。


 そして、残念ながら、蘇生もできそうにない。


 僕の中では、どうしても蘇生のイメージが湧かないんだよね。きっと、治療という発想では出来ないんじゃないかな?


 蘇生魔法を構築するには、魂と身体との関係をもう少し理解する必要があるんだと思う。とりあえず、今は、蘇生魔法の事は置いておこう。その代わり、今考えた治癒魔法で全身のヒーリングを試してみるか。


 発動! う~。この魔法はリラックス感が凄いなっ!

 

 あと、是非試しておきたい魔法がある。それは、転移魔法だ。理屈は簡単。紙の地図をイメージすると分かりやすい。出発地と目的地を折り曲げて空間を繋げ合わせるような感じだ。でも、これはイメージできることが前提だから、知っている場所でないと難しいかも。


 適当にイメージすると違う場所に転移して目的地にたどり着けないことになっても困るからね。


 誰も見ていない隙に檻の中で試してみる。目標はすぐ横に身体を転移させる事だ。微妙な魔力制御だけれど、それほど難しくない。


 発動! ん? 成功! いいね。今までの記憶にある場所へなら、どこにでも移動できそうだぞ。


 転移魔法は、二種類の方法を考案した。一つは、転移窓を設置する方法と、もう一つは、瞬時に移動する方法だ。転移窓を設置する方法は、転移先の様子を転移窓を通して事前に確認することができる。しかし、それだけ時間がかかることになる。瞬時に移動する方法はその逆で、一瞬に移動できるものの、転移先の状態によっては危険地帯に突然出現してしまうこともあり得る。それぞれメリットとデメリットがあるけれど、状況に応じて選択すればいいのだ。


 今日、魔法について分かったことは、発想力が試されるということだ。今できることは、前世も含めて、今までの経験に依存したイメージで可能な範囲しか魔法が創造できない。もっと発想力を付けるには、やはりこの世界での新たな経験が必要だ。それに、レムリアさんが言っていたように、魔法が上手な人から読み取ることもやっていかないと。


 いや〜、どんな発想の魔法があるのかワクワクするね! 魔法を考えるって、楽しくてしょうがないっ! でも、今日のところはとりあえずこれくらいにしておこう。明日は、また、どんな事が起こるか分からない。そろそろ、明日に備えて眠るとするか。

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