142-8-9_水の精霊のイニシエーション(挿絵あり)
彼女の言葉に送られて、開いた扉から中に入る。扉の向こうが見えた。どうやら、扉の先は真っ暗闇のようだ。
「うっそぉ~?」
暗いところが苦手と言うことでもないけれど、何も見えないと、流石に……。
アクアディアが、手を振って扉を閉じた。すると、扉は溶けるように消えて無くなった。
「ふぅ~! よし、行くわよっ!」
気合を入れて出発だ。それにしても暗い。
岩屋って言ってたよね。
だから、洞窟の中にいるに違いない。しかし、両手を広げてみても手は壁に届かない。それに、足元は湿った土で素足に冷たく感じる。ところが、段々と目が慣れてくると、洞窟の雰囲気がぼんやりと分かってきた。どうやら、洞窟の幅は一人では手が届かないにしても二人いれば届きそうな広さだった。天井も、ジャンプすれば指先くらいは届きそうだ。そして、ぼんやりと周囲が分かったのにはほんのりとした明かりがあるからだった。
「ん? 壁で、何か光ってる?」
壁や天井、あるいは、地面でも何か弱く光るものがところどころに埋まっている。
やはり、ここは洞窟の中だわ。
「何が光ってるんだろう?」
足元の、一番近くにある光るものをよく見てみると、それは、魔石の様な石だった。
石が光ってる!?
その石は、大きさが五センチ程で昼光色の淡い光を放っていた。
「これって、光の魔石によく似てるみたいだけど......」
魔石はどれも形がよく似ている。その石が光の魔石かどうかは確信がない。
触っても熱くはないわ。
光る石は、洞窟を照らすためだけにあるようだ。
でも、バラバラに埋まってるわね。
光る石は、ランダムに埋めてあり規則性はなく、ただ、五メートルほどの間隔を置いて洞窟を前進できる程度には照らしてくれていた。
「これなら、何とか進めそうだわ」
扉のあった方は行き止まりのようで、後ろには戻れない。しかし、前方は、目を凝らしても、洞窟の先までは見えない。けれど……。
「もう、前に進むしかないわね」
そうして、歩き始めた。足元に何があるかわからないので、光る石を頼りに一歩づつ慎重に進む。怪しい存在の気配などはしないためそれほど警戒する必要もないみたい。しかし、実際に歩き出すと、足元にはゴツゴツとした石が転がっていたり、横の壁から岩が出っ張っていたりしている。
「結構、歩きづらいわ。足をゲガしないようにしなきゃ」
洞窟も直線ではなく、緩やかに曲がっていたりするので、壁に手をついたりしながら、岩にぶつからないように注意する。次の光る石があるところまでは足元が暗いため、進むペースはかなりゆっくりだ。
「慎重に慎重に……」
そうやって、同じような景色の中、少しづつ洞窟の奥へと進んで行った。
ーーーー。
「ふぅ〜」
どれくらい歩いただろうか。もう、一時間以上は歩いているはずだ。
「長い洞窟ね」
今のところ横穴などは無く、前にだけ意識を向けていればよかった。しかし、進んでも進んでも、洞窟には一向に変化がない。
「一体、どこまで続いてるのよ? えっ? もしかしてループになってるとか?」
一瞬、そう考えて来た道を振り返る。しかし、後ろは、確かに進んできた道で、ループになっている様子はない。まだ、前に進むしか無さそうだ。
ーーーー。
それから、さらに、一時間程歩いた。
「もう、疲れてきちゃったし、この道、飽きてきたんだけど……」
特に、何か起こるでもなく、歩様も一定のリズムだ。そして、暗い洞窟を彷徨い続けていると、思考が単調になってきて、意識が内側へと向かっていく。
いつも間にか、前世の事を考えていた……。
僕は、代々続く和菓子屋の長男として生まれた。両親や姉は優しく、僕は、初めて出来た男の子として、家族にとても大事にされて育ってきた。しかし、今、子どもの時の記憶がフッと甦る。
本当の僕は、男らしい男の子では無かったよね。
僕は、小さな頃から、女の子と一緒に遊ぶ方が好きだったし、小学校の低学年の時には、こっそり、姉さんのスカートを履いたこともあった。
そうそう、短い髪の毛をゴムで無理やり括ろうとしたんだったね。
でも、いつ頃からだったかな?
いつの間にか男の子として自覚するようになっていた。僕が、初めて好きになったのは女の子だったし、それは、今でも変わらない。逆に、男の子を好意の対象として見ることは、ちょっと、考えられない。
女の子が好きって言うのは、LOVEの意味だけじゃないんだよね。何だろう? 憧れ? みたいな感じかな。
「そう考えると、今の僕は、女の子になってとっても楽しいし、気持ちがワクワクしてる。それに、もっと女の子と仲良くなりたいとも思ってる。女の子社会にはあまりいい印象はなかったんだけど、今は、中味も大人だからね……」
やっぱり、女の子になりたいって言うのが、僕の本当の気持ちなのかな……。それにしても、この感覚って、どこから来ているのだろう?
成長してからの僕は男として自覚していたけれど、本質は女なのかもしれない。
「エリアとして生きていたときは、どうだったんだろう……?」
何気なくそう呟いた。その瞬間っ!
「な、何っ?」
光る石が一斉に光を無くし、正真正銘の真っ暗闇になった!
「何で……?」
ーーーー
うっそぉ~?
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