013-1-13_スキル
その後、別の男二人がやってきた。
奴らも長い丈の白い服を着ているが、一人は赤茶色の分厚い本を持ち、もう一人は、メモ書き風の紙をバインダーに挟んだものを持っている。
本を持っている方の男が言った。
「今から魔導の写本を使ってお前たちを調べる。ひと時だけ話せるようするが聞かれた事だけに答えるんだ!」
男は、そう言うと短い杖を奴隷たちに向けて呪文を唱えた。
「英明なる霊木の杖よ、我の命に従い、その者共に弁明の機会を与えよ! アポロージャ!」
今のは、また別の呪文だ……。
本を持った男は、端の奴隷から順番に聞いていった。
最初は夫に売られた女奴隷だ。
「年齢は?」
「二十五です」
「よし、この本にどちらかの手を乗せろ」
男はそう言って、本を差し出すと女奴隷は右手を乗せた。
呪文が唱え始られる。
「ガイアの女神よ、庇護を受けし人民である証に、この者の力を示し給え! トランスクライブっ!」
すると。
あっ、本が光った!
ぼんやりとした光がほんの一瞬輝くと、静かに消える。
男は、本を自分の方向に向けなおし表紙を開いて読み上げた。
「一番女、二十五歳、生活スキル、掃除、洗濯、料理、子守り、縫い仕事、以上」
バインダーを持った男が、それを記録していく。
何だ、あの本? 魔導の写本って言ってたけど、他人のスキルが分かるのか? へぇ、面白い。それにしても、生活スキルっていうのがあるんだな。特殊能力というより単なる特技って感じだ。何でも続けてやっていればスキルになっていくってことなの?
その後も、男たちは、次々に奴隷たちを検査していった。
「次、二番女三十九歳、生活スキル、掃除、洗濯、料理、子守り、職業スキル、給仕、製菓、縫製 、整髪、以上」
メイドの人だね。職業スキルっていうのもいくつかあるよね。生活スキルより上位っぽいけど、どうなんだろう? 仕事として使えるレベルって感じかな?
「次、三番女十六歳、生活スキル、掃除、洗濯、職業スキル、女神の祈り。魔法、初級治療術、初級浄化、初級解毒、初級状態異常解、加護、女神の祈り、以上」
何だって? 女神の祈り? 彼女は女神の加護持ちかぁ。それにしても、こんな風に魔法も加護もみんな分かっちゃうんだ。
感心していると、彼女の目の前でスキルを読み上げていた男も、僕と同じく感心するように言った。
「ほうっ、女神の加護持ちとは、珍しい! こいつは拾い物だぞ! お頭に報告しておこう」
そう言って、男は満足顔を浮かべた。バインダーの男も、初めて見たというようなことを言って、記録に集中していた。
やっぱり、女神の加護持ちは珍しいのか? 魔法の方も流石は聖職者って感じだね。
「次、四番男十八歳、生活スキル無し、戦闘スキル、気合、短剣術見習い、初級体術、以上」
へぇ~、彼はやっぱり護衛だけあって戦闘スキルがあるんだね。でも、まだ見習いか。
「次、五番男四十歳、生活スキル無し、職業スキル、料理、以上」
生活スキル無しって、生活力無し見たいに聞こえるよね。フフフッ。今の人は料理しかスキルがなかったんだね。でも、それ一本だけで職業にしてるんだから、相当、修行したんだろうね。
「次、六番男六十歳、生活スキルなし、職業スキル、彫刻家上級、以上」
この人は彫刻家だったのか。職人っぽいって思ったんだけどやっぱりそうなんだね。上級スキルって凄いのかな?
いや、関心している場合じゃない。
どうしよう、次、僕の番だ。
スキルなんて持ってないと思うけど、魔法がバレたりしないかな? もしバレたらどうなるんだろう。きっとお頭に報告されて……。
あー、どうしよう?
本の男が尋ねる。
「おい、娘、歳は」
「たぶん、十八歳くらい」
「誰が冗談を言えと言った? お前と遊んでいる場合ではないんだ、正直に言わんか!」
いや〜、本当の事なんだけどねぇ〜、竜族ってほとんど知られてない種族なの? これでも、もう直ぐ二十歳ですよ〜。あー、でもどうしようか?
するとその時、バインダーの男が口を挟んだ。
「六つか七つくらいじゃないですか?」
「分かるのか?」
「うちの娘と同じ歳頃に見えますので」
「そうか、ならば七歳だ。それでいい」
そんな適当でいいのか?
「よし、本に手を乗せろ」
うっ、今度は魔法がバレちゃうよ。ヤバいな。
「何をしている? 早くしろ」
ど、どうする? もう、どっか逃げちゃうか?
「まったく、手のかかる娘だ!」
「娘ってのはそう言うもんですよ」
「そうなのか?」
「そりゃもう」
バインダーの男がそうやって返事をした。
「おい、馬鹿話をしている暇はない。今日はまだまだ入荷するんだからな」
「そうでした。すみません」
そして、本の男が僕の手を取り、本に押し付けて呪文を唱えてしまった!
わっ!
「――トランスクライブっ!」
ううう〜。
男は読み上げる。
「七番、七歳女、職業スキル、和菓子職人? ん? 何だこのスキル?」
和菓子職人って? まぁ、そのとおりだな。ちゃんと修行したんだから当たり前だ。
しかし、本の男は、混乱しているようだ。
「おい、お前、和菓子って何だ?」
ん? 和菓子も知らないのか? まぁ、当然か。
「子どものおやつだよ。毎日作ってたら上手になっちゃったんだ」
適当に言っちゃった。大丈夫だよね? でも、嘘言ってるわけじゃないよ、和菓子って子どもにも大人気だしさ。
「本当か。ム〜、この写本が壊れているとも思えんし、仕方ない。そのまま記録しろ」
「はい」
「よし、この馬車は終わりだ」
ふぅ〜。助かった。ヒヤヒヤしちゃったよ。でも、なんで魔法がバレなかったのかな?
本の男は、さっきの杖を懐から取り出して別の石を取り付けた。
「英明なる霊木の杖よ、我の命に従い、その者共に沈黙を与えよ! シレンチウム!」
これは、声が出せなくなる魔法だな。僕も掛けられたやつだ。あれ? でも、今は眠くならないけどね……。あ、そうか、あれはレムリアさんのせいだった。
本の男は、手に持った魔道の写本を小脇に抱え、僕を見つめる。
「スキルは値打ちが無さそうだが、お前は、珍しい色の髪をしている。それに瞳も青くて美しい。まぁ、コレクターがいるだろうから、いいところに買ってもらえ」
そう言うと、バインダーの男とともに別の荷馬車の方に向かっていった。
スキルに値打ちが無いなんて、大きなお世話だよ、ホント! 一度、僕の和菓子を食べさせたやりたいよ、まったく。それに、コレクターって何だよっ? 嫌な予感しかしないだろっ! ムゥ〜。
……それにしても、僕の目は青いのか……。
男たちと入れ替わりに御車男が戻ってきた。もう足は震えていないようだ。
奴は、「行くぞ!」と言って奴隷たちの鎖を引っ張ると、建物に向かった。




