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137-8-4_水たまり(挿絵あり)

「お母さま?」


「ええ、そうよ」


 ウィンディーネには母親がいるのか……。この子が、水の精霊なんだよね? 


「でも、いろいろ、君に聞きたいこともあるんだけど」


「お母さまに直接聞いてちょうだい」


 直接? 水の精霊って何人もいるんだろうか? ウィンディーネの母親って、どんな存在なんだ……。


「君のお母さまって、やっぱり水の精霊なの?」


「そうよ。私も水の精霊だけど、お母さまはもっと大きいのよ」


 彼女はそう言ってしゃがみ込むと、片膝を付いて祈るようなポーズを取る。そして、カリスとヴィースに向かって言った。


「あなたたちは、ここで待ってなさい」


「ハッ!」

「ハッ!」


 彼らは、ウィンデイーネが祈りの姿勢に入った時には、すでに、恭順の姿勢を取っていた。


「シモベかっ!」


 流石は四大精霊だ。眷属契約が無くても主従関係は顕在のようだ。ウィンディーネは二人にそう言って、目を閉じると、無言のまま祈りだした。


「あれ? 滝の音が聞こえない……」


 彼女が祈り始めると、周囲が一気に静寂した。すると、視界の景色に揺らぎが生じ始める。まるで、雨に濡れた窓から外を見ているようだ。


「何だこれ? 景色が滲んで目のピントが合わせられないよ」


 風景は、水の表面に絵の具の雫を落としたみたいに、一旦、完全にもやもやになってしまった。そして、今度は逆回転するかの様に、色がまとまっていくと、それぞれの形が明瞭になり、とうとうはっきりとした景色に戻った。


「不思議っ!?」


 自分の身体は、全く移動した感覚が無く、周囲の方が勝手に変化した。しかも、転移する間中、ずっとその様子を観察し続ける事ができた。


「面白っ! こんな転移方法があるんだね!」


 まるで、空間の方を創造し直したかのように、身体が移動した気配が無い。


「着いたわ」


 ウィンディーネは、立ち上がって周囲を見渡した。彼女と同じ様に、周囲を見る。


「ここは、水の精霊が住まうところ、アクアディアーナよ」 


「アクアディアーナ……?」 

 

 水と空以外、何にも無い……。


「……凄いところだね」


 その場所は、想像もしていない景色だった。空中に浮いている美しい水面。そう言う以外に、この場所を表現する言葉が思い付かない。水面は、少し揺らいでいて流れがある。しかし、どこが端っこなのか分からないような広大な水面だ。その遥か遠くの方を見ると、水面の揺らぎが誤差の範囲に収まっているのかして、美しい空の青と真っ白な千切れた雲が水面に映し出され、鏡のようになっている。もう、どこまでが水面なのか区別がつかない。


 空に繋がってるよ……。


 後ろに振り返ってみると、そちらも、全く同じ様な景色だ。


 空中に浮かぶ、三百六十度に広がった、湖。いや、池。違うな。泉? う〜ん……どの呼び方もしっくりこないね。


すると、ウィンデイーネは、まるで、こちらの考えを読み取ったかの様に言った。


「ここは、水たまりよ……」


「水たまり?」


「そう、ただの水たまり。大きくなったり、小さくなったり、消えちゃったりするわ」

 

 ただの、じゃ無いと思うけどね。こんな大きいもの、消えたりするんだ……。でも、水たまりかぁ。ホント、浅いし、確かに、その呼び方がしっくりくるね。もしかして、ここが、水の遺跡の滝の上だったりして、何て思ったけど、やっぱり、水量からすると違うかも。


 足元では、水が素足に触れている。どう言う訳か、いつの間にかソックスを脱いで素足になっていて、水深五センチ程の水に足が浸かっていた。底は砂地で、水は冷たく多少流れがある。とは言っても、我慢できない程の冷たさでは無い。そして、その水は、素足の指の隙間をサラサラと流れ、それがとても心地良い。その水を見ていると、飲んでみたくなり、手ですくって飲んでみた。


「ん? 美味しいけど、普通の水だ」


「当たり前じゃないの、水なんだから」


 ウィンディーネはそう言うと、「行くわよ」と言って歩き始めた。


「そっちに道なんて……」


 そう言いかけた途端、ウィンデーネの姿が景色の中に消えてしまった。


「あれ?」


 慌てて彼女の後に続くと、景色と思っていた空間がどこかへの入口になっていた。そして、その入口を通り抜けると、何んと、水の古代遺跡のガゼボの前に出てしまった。


「あれっ? 遺跡に戻っちゃった?」


 ガゼボから見える庭園は、やはり、さっきいた古代遺跡によく似ている。しかし、よく見ると、三角錐の塔が見当たらず、カリスとヴィースの姿も無いし大滝もない。


 やっぱり、違う?


 すると、後ろから女性の声がした。


「エリアさん。ようこそ、アクアディアーナへ」


「えっ、誰っ?」


 振り返ると、ガゼボの中から一人の女性が手を振っている。


 ウィンデイーネと同じ、青い髪だ。この人がもしかしたら……。


「あ、あの、ウィンディーネのお母さま?」


 女性にそう尋ねると、その女性はニッコリと笑って言った。


「立ち話も何ですから、こちらでお話しいたしましょう」


 綺麗な人だね。でも、なんだかここの雰囲気に似つかわしくない雰囲気だけど……。


 女性に促されるように、ガゼボに入る。ガゼボの内側は、入ってきた古代遺跡と同じ木製ソファが設えてあった。しかし、テーブルの形は少し違っていて、向こうのは丸形だが、こちらのテーブルは楕円形をしている。女性の向かいに座ると、彼女もゆっくりとソファに腰を下ろした。


ーーーー

挿絵(By みてみん)

そっちに道なんて……。

AI生成画像

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