136-8-3_ウィンディーネ(挿絵あり)
三人が一斉にガゼボの方を見る。すると、ガゼボの風よけの向こうに小さな頭の影が見えた。
「あ、あれは!? ウィンディーネ様?」
カリスが、驚くように叫んだっ。三人が見ると、その影は直ぐに消えてしまった。しかし、気配は消えていない。
これがウィンディーネの気配か。よし、憶えた。気配さえ憶えれば、その気配のするところに転移できる。
「転移っ!」
……っと。
「わっ! ウィンディーネっ!」
「キャッ!」
転移すると、直ぐ目の前にウィンディーネがいたっ!
「ゴ、ゴメン、ぶつかってないよね?」
「ぶつかってないけど、びっくりしたわっ! 謝りなさいよっ!」
眉根を寄せて怒っているウィンデーネは、僕と同い歳くらいの少女だ。彼女は、ウェイブの掛かった青い髪を背中まで伸ばし、頭には小さな青い宝石が付いたティアラを載せて、ひらひらした白いドレスを着ている。そして、瞳もブルーだ。背は僕より少し低い。
「今、謝ったよ」
「もう一回っ!」
「ごめんなさい」
何だか、高飛車な女の子だ。
「ふんっ!」
ウィンディーネは腕を組んで頬を膨らまし、横を向いてしまった。
この子が水の精霊ウィンディーネか。
ずっと会いたいと思っていた水の精霊ウィンデイーネ。イリハも魔力適性が判明するまでは彼女に会うことを切望していたし、レピ湖の存在たちは彼女を探していた。何故、彼女は、突然、姿を消したのか。しかも、眷属契約を一方的に解消して……。彼女の存在が不明になった理由は、いろいろと憶測がある。もちろん、可能性の第一には黒い魔石が湖に大量に投棄され、湖水が汚染されたということだ。水の精霊は、清浄な水のところにしか姿を現さないという、そんな尊き存在。それが四大元素、水の精霊ウィンデイーネ。
それにしても……。
驚かせてしまったのは、申し訳ないけれどちゃんと謝ったよね。それなのに、本人はこの態度。まぁ、話が聞きたいのはこっちだし、我慢も大切だ。
「驚かせて悪かったね、ウィンディーネ」
ここは、大人対応、大人対応。
「……」
彼女は、相変わらず背中を向けている。しかし、耳だけはこちらを意識しているようだ。
「いつからいたの?」
とりあえず、会話の糸口を掴みたい。
「ふんっ! 今来たとこよっ!」
答えてくれた! よし、食いついたぞっ!
「もしかして、僕に会いに来てくれたの?」
「そんな訳ないでしょっ! 何で私が、あんたなんかに会いに来るのよっ!」
し、しまった! 巻きが強すぎたっ! ブレーキブレーキ!
「アハハー、そんな訳ないよね。嬉しくて調子に乗っちゃったよ。四大精霊、水の精霊様が会いに来てくれたら、どんなに幸せかな、なんて、思っちゃったんだ。ゴメンね」
落ち着け、落ち着け。ゆっくりでいいぞ。
「……ま、まぁ、そう思うのは、仕方ないわね」
た、助かった。繋がってる。まだ大丈夫。
「そうでしょ? だって……」
いや〜、ホントそう! ようやくだよ、まったく!
「だって、何よ?」
「だってさ、ウィンディーネって、超レアキャラだもんねっ!」
「何それ? 私の事、バカにしてるっ!」
間違ったっ!
ウィンディーネが急に振り返って、睨んできた。
「い、いや、違うんだ、滅多に会えない存在だって言おうとしたんだよ」
「あなた、さっきから、私の機嫌取ろうとしてるの、分かってるのよ」
うっ。
彼女は、腰に手を当てて仁王立ちになった。すると、ようやく、ウィンディーネを真っすぐに見ることが出来た。そして、目が合う。
えっ!?
「き、綺麗な……瞳……」
彼女のブルーの瞳は、アクアマリンのように透き通っており、じっと見ると、意識が吸い込まれてしまいそうになる。
ハッ! 危ない!
「吸い込まれそうだよ。ハハハー。見とれちゃった」
「……な、何よ。突然、へ、変な事言って……」
ウィンディーネは、仁王立ちのまま目を泳がせた。
「良かった。ずっと会いたかったんだ。ようやく会えたよ、君に」
「そ、そう? それなら。もっと、よ、喜びなさいよね」
そう言うと、ウィンディーネは横を向いて視線を合わせようとしない。
「ありがとう、ウィンディーネ。優しいんだね」
「ま、まだ、赦すって言ってないわよっ!」
トホホ。
「ま、まぁいいわ」
そう言うと、ウィンディーネは、「兎に角、着いてきて!」と言って、庭園の奥へと歩きかけた。
「あれ? そう言えばシールドが無いね」
今、その事に気が付いた。彼女は力を込めて言う。
「遅っ!」
アハハ~、早く機嫌直ってね~。
彼女の後に着いていくと、円錐の塔とは正反対の場所に向かっていた。そして、先程の広場とよく似た場所に来た。目の前には大滝が轟音を立てて水煙を上げている。ウィンディーネは、広場の真ん中に立つと、振り返って言った。
「今から、あなたを、お母さまのところに連れて行くわ」
ーーーー
わっ! ウィンディーネっ!
キャッ!
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