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134-8-1_円錐の塔(挿絵あり)

 水の古代遺跡は、四大元素、水の精霊ウィンディーネによって、ガゼボのテラス周辺にシールドが張られている。だから、今は、テラスから庭園には降りることができない。 

 しかし、二日前。カリスに言われてウィルに会うために、再び、水の古代遺跡に行ったその帰りだ。不意に、庭園の奥から、こちらの様子を窺うような視線を感じた。ところが、一緒にいたヴィースやカリスに聞いても、彼らはその視線を感じていないと言う。


 あれは、僕だけに向けられたメッセージだ。きっと、遺跡に行けば何かあるんじゃ無いか、そんな気がする。


 そして、男爵を見送った後、ヴィースとカリスに声を掛けて、彼らと一緒に水の古代遺跡に行くことにした。


「それじゃ、アリサ、サリィ、ちょっと行ってくるよ」


「はい。お気をつけて」


 アリサが恭しく頭を下げた。そして、サリィは、半歩前に出ると手を組んで嬉しそうに言った。


「エ、エリア様が仰ってた下着、も、戻られるまでに、デ、デザインを考えてみます」


 サリィは、下着の創作が楽しくてしょうがないようでとてもニコニコとした表情をしている。


「それは楽しみだね。サリィ、よろしくね」


「は、はい。き、気をつけて、行ってください」


 そうして、アリサとサリィに見送られ、屋敷から、一瞬でテラスに転移した。


 ーーーー。


 水の古代遺跡は、清々しい気で満ちていた。テラスから下ったところには、大きめの噴水が二つあり、中央には女神の石像が据えられている。一方の女神像は水瓶を頭に乗せて、もう一方の女神像は肩に水瓶を乗せ、それぞれの水瓶からは、勢いよく噴水の池に水が落ちていた。また、園内を縦横無尽に走る細い水路には、綺麗な水がコロコロと音を立てて、絶えず流れている。そして、目を引くのが、通路のあちらこちらで、水が、まるで追いかけっこをしているように飛び跳ねていたり、噴水から、球状の水がポンポンと飛び出していたり、ミスト状になった所に光が差して、美しい虹が出ている場所など、庭園内は、まるで、遊園地にでも来たかのように、様々な仕掛けが目を楽しませてくれる。


 ワクワクしてくるね。


 さらに、壮観なのが、庭園の周囲が全て滝になっていることだ。その滝は、上部を見ても、霞んでいてどこから水が落ちてきているのか分からないほど高く、もの凄い量の水が轟音とともに落ちてもうもうと水煙を上げていた。


「何度来ても、気持ちいい場所だね」


 テラスに到着すると、先日、カリスが運んでくれた水の魔石がガゼボの脇にそのまま積んだままになっている。


「これ、早く片付けないといけないな……」


 ぼんやりとそんなことを考えていると、ヴィースが隣にやって来た。


「エリア様、本当に、何者かの気配があったのですか?」


 どうやら、ヴィースは、僕が誰かの視線を感じたという話をあまり信用していないようだ。彼には信じ難い事なのかもしれない。それは、ある意味仕方がないことだ。ヴィースを含め、彼らレピ湖の住人にとって、一方的に眷属契約を解除された事はよほど大変な出来事だったのだろう。彼らは、「どうして自分たちは」と何度も自問したに違いない。その果てに、ウィンディーネへの思いを引きずりながら僕の眷属になったのだ。それだけに、今さら、という気持ちがあるのかもしれない。それに、今は感じないものの、あの時の視線は僕以外誰も気付いていなかったので、ヴィースがそう思うのも無理はない。


「そうなんだよ。気のせいじゃ無いと思うんだよね」


 しかし、カリスも、何だか腑に落ちていないような顔をしている。


「エリア様、もし、この遺跡で何者かの気配があるとすれば、ウィンディーネ様しか考えられないと思いますが?」


「だよね。でも、確かに……。そうそう、あっちの方だよ。僕が視線を感じたのは」


 そう言って、円錐の塔とは反対方向、ガゼボの向こう側を指さした。


「あちらですか?」


 カリスがそう言って、ガゼボを回り込み、テラスの端まで進むとそっと右腕を伸ばした。ヴィースは、カリスの様子を見ながら、言った。 


「今も、ウィンデーネ様の気配はいたしませんし、我々が、眷属契約を解消された後から、テラスより先へは透明のシールドに覆われて、進めないはずです」


 すると、カリスが腕を伸ばしたまま振り返り、残念そうに報告した。


「ダメです。エリア様。シールドは消えていません」


「そうなんだね」


 しかし、あの視線は気のせいではない。自分でも確かめようと、テラスの端まで進み、腕を伸ばしてみた。


「ん?」


 両手の腕を伸ばす。


「えっ?」


 おかしいな? もう少し腕を伸ばさないと分かんないか。


 しかし、いくら腕を伸ばしてもシールドを感じない。そのまま、ゆっくりとテラスの階段を一段下りた。すると、驚いたことに難なく下りることができる!


「あれ? ちょっと、こっちに来てよ。僕にはシールドが感じられないんだけど」


「本当ですか!?」


 ヴィースが慌ててやってきた。そして、後ろに立つと、彼も両手を伸ばす。


「これは……」


 やはり、ヴィースもシールドを感じないようだ。さらに、ヴィースは、手探りのように腕を大きく伸ばした。彼が調べている間に、とんとんと階段を下りる。すると、やはり、シールドは無く庭園に降り立つことができた。


「ほら、やっぱり、シールドがないよ。何かが変わってるんじゃないの?」


 テラスの上にはカリスもやってきて、ヴィースと同じように腕を広げて確認している。そして、ヴィースが驚くように言った。


「エ、エリア様。これは、この通路だけを通ることができるように、シールドが解除されているのではないでしょうか?」


 ヴィースの言ったことを肯定するように、カリスも報告した。


「ヴィースの言う通りです。テラスの周りは全てシールドに覆われたままですが、この通路の所だけシールドがありません!」


「ホント? 不思議だよね。これって、何か意味あるんじゃない? 絶対そうだよ」


 これは、ウィンデーネの意図だ。


 何故だかそう確信がある。先日はこの通路にも降りることが出来なかったけれど、理由は分からないものの、今日は進むことができる。


「ねぇ、これさ、この通路を進めってことだよね」


 この通路の先には、円錐の塔がある。


「とりあえず、あの円錐の塔に行ってみるよ」


 そう言うと、ヴィースとカリスも後を付いてきた。テラスから真っすぐに伸びる通路は、途中で低い段差があり、奥へ行くほどテラスからは低くなっていた。通路に沿って、小さな水路と植栽が平行して伸び、その隣には、浅く四角い池が段々に連なっている。その四角い池には、水の魔石と思われるインディゴブルーの綺麗な石が、水底に散らばっていた。


「ここの水は、浄化された水だね」


 通路の途中で腕を広げると、やはり、通路の幅から外にはシールドが残っている。


 やっぱり、通路だけなんだね。


 テラスからしばらく進み、大滝の手前まで来ると、そこは、少し広い場所になっていた。


 何かの広場かな……?


 石畳が敷き詰められたその広場は、約三十メートル四方ほどの広さがあり、その四隅には、高さ一メートル、幅三十センチほどの青い石が据えられていた。それらの石はラピスラズリのようなコバルトブルーをしており、表面は光沢があって美しい。


「あの石、どう見ても、何かの仕掛けだね」


 そして、広場から右手を見ると、円錐の塔が低木の植栽の中に気配を隠すように佇んでおり、その先端を灰色に霞んだ空に向けて真っ直ぐに伸ばしていた。広場の入り口から塔の方を眺める。


 あの塔、形は目立つのに存在が薄い気がするんだけど……。

 

「側まで行ってみよう」


 後ろを歩く二人にそう言って、塔に向かった。広場を通って塔の前まで来ると、その塔の異様さが目に入る。円錐の塔は、大理石のような白い石で出来ており、表面はすべすべで艶がある。高さは、恐らく二十メートルくらい、幅は、地面に接している部分で三メートルくらいだろう。


「以外と小さいんだね」


 塔の裏側に回り込んでいたカリスが言った。


「エリア様、どうやら、入口は無さそうですね」


「カリスはここに来たことが無いの?」


「はい。私はウィンディーネ様に呼ばれる時にしか、この遺跡に来たことはありませんし、その時も、テラスからは下りませんでした」


 カリスがそう言うと、ヴィースも同様だと頷いた。


「そうなんだね。それなら、この塔が何なのか誰も知らないってことか……」


 転生する時、レムリアさんは、この三角錐の塔から、彼女と念話ができると言っていた。しかし、レムリアさんに聞いたのはそれだけだ。


 肝心な説明が抜けてるよね。レムリアさんって。


 この円錐の塔は、大きさからして中に入るような使い方ではなさそうだ。手に触れたまま魔力を少し流してみたけれど、何も起こる気配はない。しかし、何となくこの塔の用途は分かる気がする。


「これって、もしかしたらアンテナみたいなもんじゃないのかな?」


「アンテナ? ですか?」


 カリスは、アンテナを知らないようだ。


「ああ。アンテナを使うと、遠くの場所とやり取りできるんだよ。より遠くの場所と念話できるとかね」


「そんなことができるのですか?」


 カリスは驚きながら塔を見上げた。


 しかし、どうやって利用するかだけど……やっぱり、広場が怪しいかな。


 広場の四隅にある青い石。あれに何かすれば塔が使えるのではないだろうか。今のところ、手がかりはそれしか無い。振り返って広場をよく見ると、四つの青い石は、どれも、広場の真ん中を向いているように置かれている。


 何かありそうだね。


 とりあえず広場の中心に移動した。すると、青い石の対角線が交差する点の石畳が、一枚だけ周りの石畳より大きい事が分かった。


「きっと、ここに立つんじゃないかな?」


「エリア様、お気を付けください」


 ヴィースは、少し心配しているようだ。


「そうだね」


 真ん中の石畳みの上に立つと、四隅の青い石から見つめられているような感覚になる。しかし、それ以上は、特に変わったことは起きそうにない。


 魔力を流すくらいしか思い付かないけど……。


「カリスとヴィースは、広場から外に出ていてくれない? 今から魔力を流してみるよ」


 そう言って、カリスとヴィースに言うと、二人は、広場の入り口の通路まで下がり、腕組みをして様子を見守った。


「じゃぁ、始めるよ」


ーーーー

挿絵(By みてみん)

ねぇ、これさ、この通路を進めってことだよね

AI生成画像

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