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133-7-14_男爵、王都へ向かう

 男爵は、話を続ける。


「次に、アム君だが、アム君は、とりあえず御庭番の見習いをしてもらっているのだが、エリアのお供ということだな?」


 アムは、ヴィースの隣で突っ立っている。


「あたしは、エリア様のお供です。エリア様のお供をしながら、森の調査もしたいです」


 アムは、耳を男爵の方に向け、尻尾をだらりと垂らしている。


「森の調査? 斑点病のことだな。確か、ツンドラ大森林でも発生していたと言うことだったが?」


 男爵が僕の方を見た。


「そうなんだよね。僕は、ローズ家事件が落ち着いたら、斑点病の調査をしようと考えてるんだ。その時は、アムも連れて行こうと思ってるよ」


 そう言ってアムの方を見ると。アムが嬉しそうな顔をして、尻尾を振った。

 

 男爵が、穏やかな雰囲気でアムに言った。


「ならば、当面、アム君には、御庭番をしてもらおう。それでいいかな? アム君?」


「はい。頑張ります!」


 アムは、男爵の問いかけに元気よく返事をした。そして、男爵は、「よしっ!」と言って話を区切ると、次の話題に移ろうとした。


「それでは、今後の事なのだが……」


 そう言って、男爵は、ローズ家事件への対応についての話をしようとした。しかし、女神の絆に関する話がいろいろと出たので、この際、男爵に伝えておくべきことを話しておこう。


「男爵様、次の話の前に報告しておきたいことがあるんだけど。イリハの事なんだ……」


 先程、サリィも言ったけれど、祝福のキスをすると精霊化の要件が満たされる。男爵も、気が付いているかもしれないけれど、僕は、イリハにもキスをしていて、彼女は、女神の絆加護を既に保有している。


「……男爵様、サリィが精霊化したのは、女神の絆という加護を持っていたからなんだ。それで、実はイリハもね、その加護を持っているんだよ。僕は、イリハの人生に大きく干渉してしまったかもしれない」


 男爵は、大きく頷いた。


「エリア、イリハに女神様のご加護を与えてくれて、ワシもローラも、とても感謝をしておる。それは、本来なら望んでも叶わん事だ。イリハは新しい命を得たのだ。イリハが、これからどう生きようと、それはイリハの選択に任せようと思っておる」


 男爵夫妻は、既に、夫婦で話し合っていたようだ。


「貴族同士の有利な結婚とか、いいの?」


 貴族の子息子女は、魔法を使うことが出来れば、王宮騎士団や親衛隊など、王宮での栄誉ある織に着くことが可能だそうだ。そうなれば、より有力な家柄の貴族との縁を結ぶ道が開けるらしい。


「まぁ、イリハがそれを望むのであれば、それもできようが、ボズウィック家のために人生を犠牲にすることはない。そう思えたのは、エリアの影響なのだぞ。ワッハッハッハッハ―」


 男爵は、そう言って、また、高笑いをした。


 僕の影響って、何か言ったっけ? まぁ、男爵がそう考えるならそうなんだろうけど。


 どちらにしても、イリハの事は、心配いらないようだ。どうやら男爵は、イリハには自由に生きて欲しいと考えている。それなら、きっと、イリハも喜ぶだろう。彼女は、以前、冒険がしたいみたいなこと言っていたのだ。


 その後、男爵は、ローズ家事件への今後の対応と、男爵が王都に赴いた後のこの屋敷の警備について確認をした。


 いよいよだね。


 そうして、男爵の話は終わった。


 ーーーー。 


 午後になって、男爵とピュリスが出発の時間となった。しかし、時間が過ぎても、ピュリスは、なかなかやってこない。


「ピュリスさん遅いね」


 階段の上の方を見上げながら、独り言のように呟いた。そう言えば、アリサの姿も見えないようだ。アリサが一緒なら、それほど支度に時間もかからないはずだけど、まだのところを見ると、余程、ピュリスが服を迷っているに違いない。

 男爵は、ギリギリまで警備長のティグリースと話をしている。男爵が留守をする間の屋敷の警備について、いろいろと指示を出しているのだろう。

 

 そうこうしている内に、やっと、ピュリスが玄関ホールに現れた。


「お待たせだね」


 ピュリスは、それほど悪びれもせずにそう言った。


「何かあったの?」


 ピュリスに尋ねると、ピュリスは目の前に仁王立ちして、言った。


「エリアちゃん、見てくれる?」


「えっ?」


 そう言うと、ピュリスは、彼女が履いているスカートの裾を捲り上げて、パンティをチラッと見せた。


 わっ! 


「どうだ? 私も、捨てたもんじゃないだろ?」


 ピュリスの後ろでは、アリサがかしこまって立っていた。彼女の方を見ると、軽く、首を横に振った。


「い、いや~、いいよ、ピュリスさん。え~と、可愛い? いや、かっこいい? とにかく、素敵だね」


 正直言うと、パンティを見せられてもセクシーさに欠けていて、あまり心が動かない。いくら、パンティのデザインが良くても、何んというか、ピュリスの雰囲気には合っていないように思う。


 ただし、服のセンスはいいようだ。彼女のいで立ちは、上下、ブラウン系を基調にしていて、下がベージュ色に近いロングスカートを履いている。その裾には、青いスミレのような花の刺繍が入ってあり、この時代にしては、垢ぬけたデザインだ。トップスは白のブラウスの上から、ミルク色で裾がゆったりとしたハンドクラフトセーターを着ていた。ブラウスの襟の先端は角がカットされていて、左襟に小さなテントウムシの刺繍が入っていた。全体的には落ち着いた柔らかい印象で、ピュリスのあどけない側面が強調されているコーデだ。ピュリスは、王宮騎士団団長と言っても十八歳の少女なのだ。まだ、顎のラインに幼さが残っていて初々しいところがある。


 黙っていれば、年齢相応の可愛い女の子なんだけどね。


 恐らく、ピュリスはパンティに合わせて服を選ぼうとしていたのだろう。アリサがうまい事宥めながら、ピュリスに似合う服装にしたのだと思う。ピュリスの場合、セイシェル王女と同じ路線は向かないだろう。下着も、どちらかと言えば、ショーツの方が似合いそうだ。


「フフンッ!」


 しかし、ピュリスは、パンティに満足して、悦に浸っている。アリサは、どんな言い方をしてピュリスを満足させ、このコーデを選ばせたのだろうか。


「お越しいただけましたか、ピュリス様」


 男爵がそう言うと、ピュリスがスカートの裾に手を当て、男爵に言った。


「男爵にも見せてやろうか?」


「いえ、結構です」


 男爵は、間髪入れずに返事をした。ピュリスは、拍子抜けしたような顔で、「そうか」と言った。ピュリスさんがちょっと残念そうだ。男爵も、少しくらい関心を示してもいいのに……。


 一通り、お約束のようなやり取りが終わると、男爵とピュリス、そして、モートンは、ようやく、出発することなった。警備の者を除いて、屋敷の者が総出で見送りに来ている。


「じゃぁ、男爵様、僕も、後から合流するよ」


「うむ。では、行ってくる」


 そうして、彼らはピュリスの転移魔法で消えて行った。僕も、早く王都に行ってみたい。


 王都ってどんな街だろう。楽しみだね。


 しかし、ローズ男爵領の小麦の種の浄化を行うまでには、まだ十日ある。それなら、王都に行く前に、気になっていたことをやっておきたい。根拠が分からないものの、自分の中で、その事の優先順位が一番先だという思いが強くなっていた。


 直感というか、心の声には、素直に従った方がいいんだよね。


 なら、心のままに、水の古代遺跡に向けて出発だ!

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