128-7-9_蜘蛛妖精とサリィ(挿絵あり)
思わず、言葉に出てしまった。アリサとサリィは、何事かと言うような顔をして見ているけれど、何があったのかは聞こうとしない。
「アラクネ、サリィから離れるのは少し待って欲しい……」
そう念話で話して、アラクネにそのままの状態を今しばらく維持してもうらうようお願いした。
「ごめんね、アリサ。それに、サリィ。今、アラクネがサリィの憑依を解くと言ったんだけど、ちょっと待ってもらったんだ……」
とても重要な事を忘れていたのだ。しかも、その事をサリィに説明していないことにも気が付いた。
「……忘れちゃうところだったよ。サリィ、大切な話があるんだ……」
女神の絆の権能。その説明をすっかり忘れていた。先程、アリサには説明したけれど、サリィには、まだ、言っていない。アリサは、サリィも喜ぶと言っていたものの、普通の人間として生きたいと言う希望があるかもしれない。ただ、サリィの生い立ちからすると、アリサと同様に、きっと、サリィも喜んでくれるとは思う。
そうだといいんだけど……。
そして、サリィに女神の絆加護について説明した。
説明を聞き終わったサリィは、キョトンとした顔で、首を傾げている。すると、アリサが言った。
「サリィ、私も、エリア様からご加護をいただいたのよ。私はもう、精霊になることを決めたわ」
「精霊ですか?」
「ええ、そうよ。まだ、どんな精霊様と巡り合えるのか分からないんだけど、とても楽しみだわ。エリア様と同じ人生を歩むことができるのですものっ!」
そう言って、アリサが僕を見た。
ちょっと照れちゃうよ。
アリサの話を聞いて、サリィは顎に右人差し指を当て、一瞬、考えるような仕草をすると、すぐさま、サッと正面に向き直り、はっきりとした口調で言った。
「わ、私は……蜘蛛さん……あ、あなたと一緒になりたいっ!」
そして、サリィは、真っすぐにアラクネを見つめた。やはり、思っていた通り、サリィはアラクネとの融合を選択した。アラクネは、表情を変えずにサリィの様子を伺っている。それならと、アラクネに、念話で話しかけた。
「アラクネ、君がサリィと融合するなら、敢えて、彼女の感情の制御を外す意味も無いんでしょ?」
アラクネが念話で答えた。
「はい。女神様の仰る通りです」
やはりそうだ。人間のサリィが精霊化すれば、もともと精霊だった存在と同じとまでは言えないだろうけれど、魂が超強化されて、虐待の記憶はもはや恐怖では無くなるはずだ。そうなれば、アラクネと融合して精霊化しようとするサリィに、この期に及んで恐怖感情を湧き起こさせる必要などない。
「サリィの申し出に同意するんでしょ?」
「もちろんです。大変に光栄ですから」
アラクネも、そのつもりらしい。
「それなら、後はよろしくね」
そう言って念話を終えると、アラクネは、サリィの意思を確認した。
「いいのね? サリィ。もう、他の人間と同じ時を生きていくことはできなくなるけれど」
「は、はい。私、エリア様やアリサさんと、い、生きていきたい。それに、本当のお母さんを探すために、せ、精霊様の力があったほうが、い、いいと思いました」
サリィが、はっきりと自分の意見を言った。サリィの魂が強化された証拠だ。
「サリィ。実は、女神の絆加護を持っているのは、アリサだけじゃないんだ。イリハやラヒナ、そして、セシリカもそうなんだよ。彼女たちが何を選択するかは分からないけど、仲間はたくさんいるよ。ピュリスさんやセイシェル王女は、もう既に妖精や精霊になっちゃってるしね。それに、もともとの妖精や精霊の眷属もいる。これからも増えそうだ」
そう言うと、サリィとアリサは、顔を見合わせていた。そして、アラクネがサリィの手を取った。
「私も、あなたを通して、女神様の眷属になることができる。とても、誉なことです。それでは、私と融合のキスを」
そうして、アラクネとサリィがキスをした。その瞬間、サリィとアラクネの胸のあたりが青く光り、その光がどんどんと大きく広がっていく。
光は、辺りを包み込み、しばらくして、小さくなっていった。光が弱まっていくと、そこには、少女の気を纏った一人の娘、サリィが、目を閉じて祈りのポーズを取っていた。青い光は、彼女の胸に吸収され、完全に消えていった。
「美しいですわ。これが、融合なのですね」
アリサが感動しているようだ。そして、目の前の"少女"が目を開いた。彼女の容姿は、サリィと全く変わらない。しかし、一カ所だけ変化しているところがあった。
「目の色が、金色だ!」
元々、キュートな女の子だったところに、妖しさが加わっている。とても、魅力的だ。それに、アラクネ単体の時と比べて、魔力量も比較にならない程、大きく増えている様だ。
「アラクネだった時よりも進化してない?」
「はい。エリア様のお力で、妖精から精霊へと変わりました。私は蜘蛛精霊のサリィ。女神様の七の眷属にして、闇夜の案内人となる者です」
サリィが名乗りを行った。それを聞いていたアリサは、目を丸くして驚いている。
「凄い! サリィ。でも、あなたサリィなの? 私の事、憶えてる?」
「も、もちろんです。アリサさん。な、何を言ってるんですか?」
あっ、完全にサリィだ。
ピュリスさんは、結構、火の精霊の人格に影響されていたけれど、サリィは、あんまり変化していないように見える。ただ、本来、蜘蛛は肉食で残忍性がある印象なので、そのあたりは気になるかも。
「サリィ、よろしくね」
「は、はいっ!」
サリィは最高の笑顔を見せた。
この笑顔を向けられた男どもは、必ず、イチコロだ!
その時、アリサが、ハッとして何かを思い出すように言った。
「そうだ! サリィ、あなたの下着、もう一度見せなさい」
「そうそう、あれ、可愛いよね」
「え? え~、は、はい~」
サリィは、不安そうに、そぉっとメイド服の裾を捲った。するとアリサがしゃがみ込み、サリィのスカートの中に暖簾をくぐるようにして潜り込んだ。勢いで、アリサと一緒に、潜り込む。
こ、これが、女子のスカートの中……。
そこは、爽やかなシトラスの香りがする世界だった!
「ちょ、ちょっと、は、恥ずかしいですっ!」
「少し、じっとしてなさいっ!」
アリサはそう言うと、ショーツの端を引っ張ったり、表面を撫でたりして肌ざわりを見ていた。そして、ショーツの裾から指を入れると、真ん中のマチの部分を摘まみ、生地の厚みを確認した。
「キ、キャッ! だ、ダメです。そこはっ!」
他人に、スカートの中へ頭を突っ込まれている女の子とは、一体どんな絵面だろう? そんなくだらないことを頭の片隅で考えながら、至近距離でサリィの生ショーツを観察した。
キュートなお尻!
アリサは、散々、サリィのショーツを確認すると、スカートを頭で押し上げるように無造作に立ち上がり、彼女に言った。
「サリィ、この下着、どうしたの?」
アリサのせいで、サリィのスカートが捲り上がっている。サリィは、慌ててスカートを押さえた。
「つ、作りました。じ、自分で」
マジで? サリィの編織スキル、凄すぎ!
「これ、たくさん作れるの?」
アリサは、何故か、口調が厳しめだ。
「は、はい。精霊になったので、い、今なら、たくさん作れそうです」
「ホント!? じゃぁ、お願い。サリィ、作って! お屋敷みんなの分も。奥様やイリハ様、ラヒナ様のものもね。それから、そう、エリア様の場合は、大人に成長なさったときのものと両方よ。それからそれから……」
アリサは、サリィから良い返事を貰うと、一転して機嫌が良くなった。
ア、アリサ、遠慮ないね。
それにしても、ホント、センス良すぎだ。こんなの、この世界ならデザインが可愛い過ぎて、男性優位なこの社会は認めないかもしれないけど、これを身に着けたら女の子の気持ちが上がりっぱなしになりそうだ。
出来るのが楽しみだ、ウシシ。
サリィにいろいろとお願いし、ようやく、使用人棟を後にして、自室に戻ってきた。サリィの問題が、これほど根が深いものだったとは考えてなかったけれど、アラクネやアリサのおかげで、何とか前に進めそうだ。それにしても、魔法の世界の割には、前世と同じような困難が多い。
人間は、どこでも同じなだな。
気が付くと、夜中の三時だ。間もなく朝がやってくる。
でも、眠いから、お休みなさい。
ーーーー。
目が覚めると、時計の針は十時を回っていた。
「うわっ、寝坊だよ!」
もう、朝食の始まる時間を過ぎている。上体を起こして、大きく伸びをすると、あくびが出てしまった。
「フワァ~、でも、まだ眠い」
今日は、男爵様がピュリスさんとともに王都に向かうことになっている。その出発は、朝食の後ということだ。その時、タイミングよく扉がノックされた。
「はい」
「サリィです。お迎えに上がりました」
あ~、そうか。
サリィ達使用人は、寝坊何てできないんだった。前世では、寝坊するなんて考えられなかったのに、最近、ちょっと、気持ちが緩んじゃってるね。
「どうぞ」
扉が開き、サリィが恭しくお辞儀をして部屋に入ってきた。
「お、おはようございます。エリア様」
「早いね、サリィ。寝てないでしょ?」
「い、いえ、そ、その、この身体になって、眠らなくても、だ、大丈夫みたいです」
「そうなの?」
精霊は眠らなくてもいいようだ。それなら、寝坊するほど良く寝る女神の僕は、一体、何なんだ?
「エ、エリア様、これを」
サリィは、ピンク色の綺麗な紙包みを差し出した。
「これは?」
「し、下着です。エ、エリア様の物を一番にお作りしました」
ーーーー
そうだ! サリィ、あなたの下着、もう一度見せなさい
そうそう、あれ、可愛いよね
え? え~、は、はい~
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