126-7-7_彼女の決心
「ん、んんっ……」
「サリィ、起きれるかしら?」
アリサに起こされ、サリィが、薄目を開けた。
「ア、アリサさん……」
サリィは、布団を胸に引き寄せながら体を起こし、恥ずかしそうに顔を伏せた。
「サリィ、アラクネ様のことは知っていたの?」
「えっ?」
アリサに聞かれると、サリィは、顔を上げ、ようやくアラクネがそこにいることに気が付いた。
「あっ! く、蜘蛛さん! な、何度か夢で見たこと、あ、ありました。で、でも、私そっくり……?」
しかし、サリィは、恥ずかしそうに、また、下を向いた。
「夢で見てたんだね?」
そう言って、アラクネの方を見る。
「サリィには、私の糸を着けておりましたので……」
アラクネは、配下を通して、サリィに着けた糸により、事あるごとに彼女の意識へと働きかけをしていたと言った。さらに、アラクネは、念話で説明を付け加えた。
「女神様、この子は、間も無く二十歳ですが、心の成長が伴っていない上、養母から受けた虐待によって感情のバランスを上手く取ることが出来なくなっています」
「それは、何となく分かるよ。サリィは見た目もそうだけど、まだまだ気持ちが幼いからね。彼女がもう直ぐ二十歳だったなんて、逆に驚きだよ」
「はい。それで、この子の恐怖感情があまりにも強すぎたため、私は、糸を通じて、この子の感情を抑えてきました」
「感情を抑える?」
「そうです。この子が、発作的に、自らを傷つけてしまわないように」
「そうなんだ。そうやって、サリィを見守っていたんだね」
アラクネは、さっき、契約していないサリィへの直接的な干渉はしないと言っていたけれど、やっぱり、間接的にはサリィを守ろうとしていたようだ。あれ程の傷を負わされるくらいに、養母からの虐待は酷いものだった。もし、アラクネがいなければ、サリィは、今のように日常生活を過ごすことができなかっただろう。アラクネは、サリィの事を本当に心配している。
「サリィ、いいかな? 今からサリィの傷を治療したいんだ」
「治療? ですか?」
サリィは、少し不安そうな顔をしている。
「うん、治療さ。今、サリィの身体の事をアラクネから聞いたんだ。サリィには治療が必要だと思う」
「……」
サリィは、黙り込んでしまった。
どうしたんだろう?
彼女は、治療する事に不安を感じているみたいだ。人前でも絶対に肌を見せないサリィ。火傷のコンプレックスが大き過ぎて、前に進むことができないのかもしれない。すると、アリサが、サリィの手を取って言った。
「サリィ、あなた、晒しをとても強く巻いていたのね。あなたがお母さんと呼んでいる人から、そうするように言われていたんでしょ?」
「は、はい。お、お母さんは、絶対、人前で、さ、晒しを取ってはダメだって、必ず、か、隠しておきなさいって……傷も……お、お医者に見せるなと……」
彼女の傷は、特に、胸に集中している。養母は、サリィの美しい身体に嫉妬していたのだ。それに、彼女の傷が他人に知られて、虐待が世間に知られないようにそう言ったのだろう。
本当に酷い!
それにも拘わらず、サリィは今でも母親の言いつけを守ろうとしている。彼女は、養母との繋がりを、未だに強く求めているに違いない。
サリィの話を聞いて、アラクネが側にやってきた。そして、アラクネは背筋を凛と伸ばすと、サリィに言った。
「サリィ、私の身体を見なさい。この身体は、あなたの身体です。火傷の痕が無いあなたの身体。分かるでしょう? この美しい身体は、あなたが本当のお母さんからもらった大切な身体です。その身体を傷つけたのは、あなたがお母さんと呼んでいる女。その女は、あなたの本当のお母さんではないことを、あなたは憶えているはずです」
すると、突然、アリサがメイド服を脱ぎ始めた。
「な、何してるの? アリサ?」
そして、彼女は、上半身を裸になり、美しい豊満な胸を、サリィに晒した。
ゴクリッ!
「ちょ、ちょっと!? アリサ……」
み、見たい! 見てもいいのかな? もう、見えちゃってるけど。
「私の身体、どう? 綺麗でしょ? でも、私は、ほんの少し前までは自分の身体が嫌いだった。辱めを受けた自分の身体は、汚れていると思っていたの。でも、エリア様から女神様の御業を頂戴することができて、心が軽くなったわ。私は今、自分自身が愛おしいと感じるの。毎日、姿見を見るのが楽しみで、人に見せて自慢したいくらいよ。ほらっ、肌だってこんなにすべすべ。触ってごらんなさい」
アリサは、両手を腰に当てて前屈みになり、サリィの目の前にきめ細かな肌の乳房を差し出した。
び、美白……。
「え? ええ……」
サリィは、アリサに言われるがままに、彼女の左の乳房に、そっと左手を当てた。
「あ、温かい……」
「あなたは、お母さんに隠すように言われたと言うけど、あなた自身はどうなの? 自分の身体のこと、どう思っているの?」
アラクネも、堂々と胸を張っている。
視界の左右に、至宝の膨らみが揺れる……。
ヤ、ヤバい。お腹の下が、熱くなってきそう……。ぼ、僕は、何考えてるんだ、こんな時に。
サリィは、下を向いて、ぽつりと言った。
「き、綺麗……です。アリサさん。でも、私は……」
「何言ってるのっ! あなたの身体もこんなに綺麗じゃないの! 早く、エリア様に治療してもらいなさい。本当のお母さんにもらった身体を、大切にしないといけないわ!」
アリサは、背筋を伸ばし、いたずらっぽい顔になって僕の方を向いた。
「そうですよね。エリア様ぁ! フフンッ」
て、手の届くところに至宝が……。
両手が勝手に動きそうでヤバい。
ダメダメ。でも、もう、理性が、壊れちゃいそう……。
「ア、アリサ。それに、アラクネ。サ、サリィも分かったんじゃないかな……」
くぅ~。もう既に、お腹の下がジンジンとしている。クリトリアが、成長しちゃいそうだ。
「サ、サリィ。という訳でね、今から回復を……」
すると、サリィが呟いた。
「ほ、本当の……お母さん……」
サリィは、思いつめた様に、うつ向きながらそう言うと口をつぐんでしまった。どうやら、サリィは、母親という存在への思いが強いようだ。そのせいで養母へも依存してしまっていたのだ。養母から酷い虐待を受けても、奴隷に売られても、それでも、その依存から抜けられないでいる。彼女の幼い頃の事情は分からないけれど、サリィは小さい頃から養護施設に預けられ、母親とは別に暮らしてきた。サリィは、今でも、母親の影を追いかけている。サリィには、本当の母親の記憶はあるのだろうか?
「サリィは、本当のお母さんのこと、憶えているの?」
「……」
サリィは、黙ったまま、首を横に振った。
「そうなんだね……」
力なく、目を伏せているサリィ。彼女は、今、自分の境遇を思い返して、自分の記憶の中には無い、本当の母親の姿を想像しているのかもしれない。
辛いよね、サリィ……。
ただ、彼女は、養母と本当の母親の違いは、認識できている。
その時、頭の中に、言葉が浮かんだ!
「いつか会えます……」