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124-7-5_蜘蛛の妖精

 サリィは、とうとう、その胸を露にしてしまった。彼女は、唇を噛んで泣きそうな顔をしながら、ベッドの上でガクガクと足を振るわせ、手を下げたまま立ち尽くしていた。彼女の身体には、やはり、先程、蜘蛛に見せられた姿と同じく火傷の跡が広がっている。


 ……。


 息を呑む。


 ところが、アリサは、火傷に覆われたサリィの身体を見ても驚くそぶりを何一つ見せなかった。彼女は、視線を外さずにしっかりとサリィを見ている。


 アリサの顔が真剣だ。向き合うって、こういう事なのかな。


 そして、サリィは、ショーツ一枚だけの姿でその場に崩れるようにへたり込んでしまった。その時、突然、頭の中に声が響く。


「少し、明かりを暗くしてくださいませ……」


 んっ? 念話だ?


 とりあえず、声の言う通り、魔法ライトの出力を押さえて、芯を絞ったランプのように柔らかい光へと変えた。すると、部屋の入口付近に紫色の光の粒が出現し、それらの光がまとまりだして、大きな光へと変わる。そして、また、きらきらとした粒になって光が消えていくと、光のあった場所に、等身大の女性の上半身をした大きな蜘蛛が姿を現した!


「ア、アラクネ……?」


「はい。その通りでございます」


 彼女は、念話ではなく、言葉で話し始めた。この存在の事は知っている。蜘蛛妖精のアラクネだ。アラクネは、上半身が裸の女性の姿をしており下半身は六本足の蜘蛛の怪物である。

 

 アリサが、手で口を押さえて、驚いている。


 そ、それにしても……。


「ちょ、ちょっと、その姿は……」


 アラクネの上半身はサリィと瓜二つのようだ。今、恐らく、サリィの美しい裸体と全く同じ身体がアラクネによって再現されている。


 アラクネの身体は、ボンヤリと淡く白い光を発していて、妖艶でしかも美しい。蜘蛛妖精が現したサリィの身体は、腕や肩が華奢でウエストが細い。しかし、血管が透けて見えるほど透き通った白い胸は、身体のラインをはみ出して、本人の小さな掌では収まらないほどたわわに、そして、均整を持って膨らんでいた。そして、アラクネは、恥じらうことなく胸をツンと張り、美しい姿を堂々と見せつけた。


「き、綺麗だね……サリィ……じゃなくて、アラクネ」


「ええ、ホントですわね……」


 アリサも感心しているようだ。しかし、その後、彼女は言葉を詰まらせてしまった。本当のサリィの身体を見て、アリサは、サリィの事を思い悲しくなってしまったんだと思う。それにしても、このアラクネは、どうしてサリィの身体をしているのかな? 


 あっ! そうか! このアラクネが……。それで、サリィは……。


 でも、これで理解できた。


 なるほどね。


「アラクネ。君、ずっと前から、サリィに憑依していたよね?」


「ええ、この子が、小さな子どもの頃から……」


「そんなに前から……」


 アラクネは、悲しい顔をしている。ベッドの上のサリィは、身体を横たえて、また、眠ったようだ。アリサはそれを見て彼女の布団を整えてあげた。


「さっきから、サリィが、操られているように服を脱いだけど君の仕業だね」


「はい。この子が自らの傷と向き合うためです」


 アラクネは、淡々と答える。


「今もサリィを眠らせたようだけど、彼女の事情を知っているなら、僕たちにも聞かせてもらえないかな?」


「もちろんです。ようやく、女神様とお会いすることができました。これで、やっと、この子の事を分かってもらえます……」 


 そう言って、アラクネは、サリィとの出会いから順に話をしてくれた。


「……実は、この子、小さい頃は、孤児院で育ったのです……」


 アラクネはサリィとの出会いと幼少の頃のサリィの話を教えてくれた。彼女によると、アラクネとサリィとの出会いは、サリィがまだ四、五歳くらいの頃だという。その時、サリィは、孤児院で暮らしていたそうだ。サリィは、周りの子どもたちと違い、虫を全く怖がらなかった子で、寧ろ、虫を捕まえてペットのようにして遊んでいたらしい。

 ある時、孤児院の裏庭で、拳大の蜘蛛が一匹、子どもたちに石を投げつけられているところに、サリィがやってきた。彼女は、その蜘蛛を庇い、頭に石をぶつけられて怪我を負ったことがあったそうだ。アラクネは、その行為に報いるため、配下の蜘蛛をサリィの側に置き、彼女を見守ることにした。そして、アラクネのスキルのほんの一部であるけれど、編み物や織物の技術が身に付くスキル編織を配下の蜘蛛を通してサリィに身に着けさせたのだった。


 なるほど、それで、サリィは手芸が上手なんだ。納得!


 その後、サリィは、編み物に夢中になって、さらに孤児院でレース編みや刺繍を学び、孤児院がある町の人たちの間でも彼女の腕前が話題になるほどになったそうだ。そして、その噂が広まり、彼女が十五歳になった時、とある子どものいない年配の学者夫婦に気に入られて、サリィは、その夫婦に引き取られることになったらしい。学者夫婦は、引き継ぐ者がいない自分たちの財産をサリィに遺したいと考えたようだ。ところが、その夫婦が問題だったのだ。


 アラクネが言った。


「……最初の頃は、そうした兆候は見られませんでした。しかし、ある時を境にして、この子は、夫婦から酷い虐待を受けるようになっていったのです……」


「虐待?」

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