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119-6-23_王位継承者の証

 セイシェル王女が、放心状態の男爵に声を掛け、小さな箱を取り出して蓋を開けて中味を見せた。


「男爵様、こちらをご覧ください……」


 そう言って王女が取り出したのは、王家の秘宝の首飾りだ。その首飾りは、アーモンド形で透明の石のペンダントトップと、幾何学模様の複雑な装飾が施され、幾重にも重ねられた黄金のチェーンでできている。男爵は、王女に声を掛けられると我に返り、手渡された首飾りを手に持って広げた。


「これは?」


「クライナ王家に伝わる秘宝の首飾りですわ……」


 王女は、その首飾りが女神ガイアよりクライナ王家に授けられた大切なものであり、セイシェル王女の代まで、代々、クライナ王が所持してきた王の証だと言った。


「何んと! し、しかし、この首飾りは、私も知っております。確か、王の謁見の間の肖像画に描かれていたはずです。透き通るような石が印象的で王の権威を示すに相応しく、私も、よく憶えております」


 男爵が、少し考えながらそう言うと、ピュリスがそれに頷いた。


「男爵の言う通りだ。あの肖像画は、クライナ王家の始祖、アポストロ一世陛下を描いたものだよ」


 セイシェル王女が説明を続けた。


「私は、この王家の秘宝さえ無ければ、王位継承の跡目争いが無くなるだろうと考えていたのです。しかし、それは幼い考えでしかありませんでした。この首飾りには、以前から、何も特別な力は備わっていないのです。それならば、私の力を使い、この先の王家の行く末を見守っていきたい。今は、そのように考えているのです……」


 セイシェル王女は、首飾りのトップになっている透明の石が、とても貴重な光の魔石であると言った。


「光の魔石? 存在するとは聞いていたが、なるほど、実物を見るのは始めてだ」


 男爵は、ネックレスのトップにある透明の石を指で触ったり、光に翳したりして確認している。


 光の魔石か……。


 王女の説明では、光の魔石はどんな性質にもなることができる魔石なのだそうだ。王女は、この魔石に自分の権能を転写させることにより、この首飾りを、本物の王の証として魅了の権能を発揮する真の王家の秘宝にすると言った。


「あっ!」


 その性質って、もしかして……。


「男爵様、あの黒い魔石なんだけど、この光の魔石を模して作ったんじゃない?」


 男爵は、僕の言ったことが的を得ているというように、目を見張って言った。


「おぉ! そうだな、言われてみればそのとおりだ。エリア、良く気付いたな。この光の魔石について調べれば、黒い魔石のことも、詳しく知ることができるかもしれん」


 本当に、黒い魔石が、光の魔石を模して作られたのであれば、男爵の言うように、光の魔石の性質を知らべれば、黒い魔石をもっと簡単に無効化するなど、何か対抗措置が見つかるかもしれない。


 すると、ピュリスが言った。


「それなら、王立図書館で調べれば何か分かるかもしれないね。エリアちゃん、やはり、王立図書館には、一度、行くべきだろうね。その時は、私も一緒に行くよ」


「ありがとうピュリスさん。是非、お願いするよ」


 ピュリスが協力してくれれば、いろいろと助かる。トラウマの首輪を外せない僕は奴隷扱いされるだろう。だから王宮の施設には、表玄関からは入れてもらえない。


 勝手に忍び込むなら、できそうだけどね。


 しかし、女神ガイアから授かったという王家の秘宝に、光の魔石が使われていたということは、女神ガイアと光の魔石とは、関係が深いのかもしれない。


 光の魔石って、何なのだろうね?


 男爵は、首飾りを箱に戻そうとした。それを、「ちょっと見せて」と言って手に取って、光の魔石に触ってみた。すると、水の魔石のようにはその属性が分からない。恐らく、光の魔石に魔力を流すときに意図を込めると、その性質を帯びてくるのだろう。しかし、僕が魔力を流してしまうと、セイシェル王女の権能を転写できなくなってしまっても困るので、今は止めておいた方が良さそうだ。


 セイシェル王女は、この光の魔石に自分の権能を転写し本当の王家の秘宝にするつもりだ。そうすると、首飾りは、その権能に相応しい人物が身に着けたときに能力を発揮する。首飾りが王を選び、選ばれた王は魅了の権能を発揮して人心を束ね、国を治める。首飾りを所有する王は、他の候補者と比べるべくもなく、誰が見ても真の王となるのだ。


 なるほど、それなら、本物の王家の秘宝だ。


 男爵は、王女の説明を聞いてとても関心し、納得したようだ。


「セイシェル王女様、そのような事が可能ならば、王位継承が、貴族どもの横やりが入る余地が無いものとなり、貴族の派閥争いも大儀を失ってしまいますでしょう」


 そして、男爵は、顎に手を当て、また、考え出した。


「それならば、陛下へのご説明が重要ですな。この首飾りが、失われていた王家の秘宝である事を陛下にご納得頂かなくてはなるまい。肖像画と同じ形だというだけでは、贋作と疑われても仕方がございませんからな」


 セイシェル王女も、男爵が指摘した点には懸念があるようだ。


「そうですわね。私の権能を効果的にお示し出来れば陛下もご納得されるでしょうが……」


 二人の会話を聞いていたピュリスが、現在の王宮で、王位継承に関する話を出すことは難しいと言った。


「……私も詳しくは分からないのだが、もしかすると、第一王子様に何かあったかもしれないんだ。第一王子様は、ここ数年、公の場にお出ましになられていないからな」


 そう言えば……。


 確か、ローズ家事件が起きた時、王妃が帰城を急いだ訳は、第一王子が病気だという知らせがあったからだ。そして、ローズ家事件からは、既に二年が経過している。


 これは、お城であまり良くないことが起きているのかもしれないね……。

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