表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/146

011-1-11_失敗する逃亡

 ヒヒヒヒーンッ!


 突然、馬がいななき、荷馬車が大きく揺れて激しく傾いた。


 痛たたたっ! 何なんだ一体っ!? 


 鉄格子に、後頭部を思いっきりぶつけてしまった。いきなり過ぎて、何が起きたか分からない。他の奴隷たちも、どこかしら鉄格子にぶつけて、痛そうにしている。


「おい、なんだちくしょうっ!」


 前方で、御者の男が大声で叫んだ。すると、アニキが、御車の男に怒鳴り声をあげる。


「馬鹿野郎っ! 後ろの車輪が路肩を外しちまったみたいだぞっ! てめえっ、何やってやがるっ!」


「すいやせんアニキ、クソッ、ついてねえぜまったく」


 御者男は、アニキに平謝りだ。


「遅れちまったらお頭にどやされる! 奴隷どもに荷馬車を押させて車輪を上げろっ!」


 アニキは、そう言って御者男に命令すると、御車男は、「へいっ!」と返事をし、御者台から慌てて降りてきた。


「奴隷どもっ! 荷馬車から降りろっ! 大人どもは後ろから荷馬車を押すんだっ! 早くしろっ!」


 奴隷たちは、全員荷馬車から降ろされ、男も女も、荷馬車を後ろから押すように命令された。


 怪我の心配すら無いよ、まったく。まぁ、頭をぶつけただけで怪我もしていないから良かったけどね。


 でも、久しぶりに外にも出られそうだ。


 奴隷たちが降りるとき、新入り奴隷の若い男が真っ先に降りて、女性奴隷たちに手を差し伸べてあげた。そして、彼は、僕が降りるときも身体を抱えてくれた。


 あ、ありがとう。ホント、優しいんだね。


 声に出せないから、精一杯、彼に笑顔を向けた。すると、彼も、白い歯を見せてニッコリと笑う。


 いい男だな。


 みんなの後に続いて荷馬車の後方に向かう。荷馬車の様子を見ると左側の後輪が道から落ちていた。けれど、全員で押せば何とかなりそうだ。ところが、御車男は、煩わしそうに僕を邪険にした。


「おいガキっ! ちょっと離れてろ、邪魔だっ!」


 そう言って、男は、乱暴に払いのけようとする。


 危ないじゃないか。なんだよ手伝ってやろうと思ったのに。力は僕の方が絶対強いって! 


 多分、この身体は筋力も相当なものだ。そこに加護の力も加わっているから、こんな荷馬車くらい、僕一人で十分だろう。


 あー、でも、力をひけらかしちゃダメだったんだ。


 御者男は、奴隷たちに向かって叫んだ。


「奴隷どもっ! 逃げようなんて考えるなよ!、てめえらにはもう自由なんてねえんだからよ。このおれに余計な手間かけさせるんじゃねぇぞっ!」


 御者男は、自分が馬を上手に操ることができなかったことを、奴隷に八つ当たりしている。奴隷に落ちても人に優しくできる人もいるのに、この男はどうだ。


 ヘタレだね。


 少し離れて見ていると、若い奴隷たちの様子がおかしいのに気が付いた。兄の方が、妹の手を引いて奴隷商の男達から見えにくい荷馬車の影に移動した。妹はとても不安そうな顔をしている。


 あの兄妹、逃げようとしてる?


 彼らは少しずつ後ずさりする。


 もしかして、これは、僕にとっても逃げるチャンス? じゃないな。まだ何も情報が無い。そもそも、逃げちゃうとずっと負われる事になるんじゃないか? こういう奴らってしつこそうだしね。お尋ね者にでもなったら面倒だし、いざとなったら何とかするって事で、ここは様子見だな。それにしてもこの二人、大丈夫か? 


 そして、急に振り返ると、二十メートルほど先の森に向かって全速力で走り出したっ! しかし、その途端、妹の方が勢いよく転んでしまった! 


 あっ! あ~ぁ! 見てらんない。


 兄は、転んだ妹に振り返り、すぐさま彼女を起き上がらせようとするが、そこで御車男に見つかってしまった。


「奴らが逃げようとしやがった! くそっ!、言ったそばからこれだ」


 男がそう叫んだが、アニキは既に、懐から三十センチほどの短い杖を取り出し、逃げた男に向けて杖を構えていた。


「英明なる霊木の杖よ、我の命に従い、彼らを拘束せよ! スターっ!」  

 

 あっ! 魔法っ!? 


 アニキが呪文を唱え終えたと同時に、兄妹は、二人揃って動きを止めたっ! 


 何だ!? 止まっちゃったぞっ!


 そして、二人は、そのまま気を失ったように倒れ込んでしまった。アニキは杖の先から石を外し、それを懐に仕舞うと、倒れたままおとなしくなった兄のところまで行く。そして、足の先で彼の頭を小突き、面倒臭そうに言葉を吐いた。


「手間かけさせやがって、お頭にバレたら怖えんだぜ」


 どうやら、兄弟は二人とも気絶してしまったようだ。アニキは、それを確認すると、杖の先に石を嵌め、二人に向かって呪文を唱えた。


「英明なる霊木の杖よ、我の命に従い、彼らの罰を赦せ! リセッティ!」 


 あれも呪文だな。 


 そして、アニキは杖を懐にしまい、荷馬車の方に向き直ると二人の男奴隷に命令した。


「おいっ、そこのお前とお前、車輪が上がったらこいつらを荷馬車に運んどけっ!」

   

 その後、荷馬車は、奴隷たちによって道に押し上げられた。そして、気絶していた兄妹も運び込まれ、後の奴隷も男たちに急かされて荷馬車の檻に入った。


 やっぱり、あの魔法からは逃げられないか……。 


「出発だ!」


 アニキの掛け声とともに、荷馬車は再び走り始めた。


 それにしても、この兄妹、ちょっと無茶だったよな。彼らは、奴隷にされてしまったことといい、少し油断し過ぎじゃないか? あんなふうに魔法で簡単に縛られてしまうって事も知らなかったようだし、少し世間知らずのところがあるよね。


 ところで、奴隷商の男が使用している魔法は、レムリアさんが言っていた魔石技術を使う方法に違いない。何故なら、アニキからは妖精や精霊の気配が全くしないからだ。アニキが使った二つの呪文は、杖を通して作用を及ぼす魔法だ。杖の先の石がぼやっと光ったと思ったら、効果が発動していた。魔法の度に石を嵌め変えていたところからすると、魔法の種類毎に石が用意されているのだろう。


 何となくだけど、アレは魔石に魔力を流してるだけだよね。あの方法なら魔力を流すことができれば誰だって魔法が使える事になるよ。う〜ん、魔石技術かぁ、他にどんなのがあるんだろうね。


 僕には加護があるし、あの魔法は僕に影響しないけど、まぁ、魔石技術の魔法が見られたのは良かったよ。


 その後も、荷馬車は走り続けたーーーー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ