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118-6-22_希代の性悪王女

「そ、それは、その……」


 男爵は、口ごもってしまった。その様子を見て、ピュリスが助け舟を出した。


「セイシェル王女、後世には、王女のお名前が、希代の性悪王女として伝わっているのです。現在では、それが、王族の王位継承についての教訓となってしまっている程ですよ」


「あら! そうなの? そのお話、興味がありますわね」


 セイシェル王女は、そうは言いながらも、話の先を促さずに、ニッコリとして笑顔を崩さない。


 流石は王女様だね。気品があっていつでも堂々としているよね。


 まぁ、今の時代に、王女の事がどのように伝わっているのかは、この僕にでも想像が付く。きっと、今の王族に伝えられている話は、王位継承を盤石にするために、セイシェル第一王女が、従姉を公開処刑したなんていう内容だと思う。そして、王族は、王位継承によって、王族同士が殺し合うようなことにならないよう、その話を口伝して戒めにしているに違いない。そう言う話を知っている男爵にしてみれば、本人を前にして、動揺するのも無理はない。しかし、男爵は、何とか話を繋ごうとしているようだ。


「ピュ、ピュリス様。このお方がセイシェル王女様だとしますと、どのようないきさつで、今の時代に顕現なされておられるのでしょう?」


 ピュリスが、両手を広げて首を横に振りながら、僕の方を見て言った。


「そうだな。どこから、どうやって話そうか、エリアちゃん?」


「そうだね。僕が説明してみるよ……」


 そう言って、食べかけのクッキーを口の中に入れ、男爵たちに、これまでの経緯について、順序立てて話をした。


 二人の王族の令嬢。過去から時間を超えて現世に戻ったセイシェル王女と、過去の記憶を持っていたピュリス。五百年前、二人は周囲に翻弄された挙句、両方とも悲劇的な最後を遂げてしまった。しかし、彼女たちは、現世で妖精と精霊に生まれ変わり、お互いを想う心を取り戻すことができたのだ。言葉にすると一瞬だけど、五百年という年月はあまりにも長すぎる。彼女たちも、ところどころ話を補足した。


 これで、何とか、二人の思いが伝わっていればいいんだけど……。


「……という訳だよ。男爵様」


 セイシェル王女とピュリスは、心に大きな傷を負ってしまった。もちろん、心の傷は、女神の祝福で回復しているし、妖精や精霊になって身体も傷つくことはない。それでも、彼女たちの気持ちに共感してくれる仲間がいることは、大切なことだと思う。


 しかし、どうやら、そんな心配はいらないようだ。話を聞いた男爵たちは驚き、感動していた。


「……おぉ、なんと! 我々は、大変な勘違いをしていたようです……」


 そう言って、男爵は、大きく頷いていた。


「ううっ……そんな事が……」


 ローラ夫人は、ずっと、ハンカチを目頭に押し当てていたけれど、言葉を詰まらせながら、セイシェル王女に言った。


「……セ、セイシェル王女様。何んと、お心の……お美しい王女様なのでしょう。わ、私は、このようなお話を……聞いたことがございません……」


 ローラ夫人は、セイシェル王女が、五百年もの間、冷たいレピ湖の湖底で、ずっと王族の王位継承争いを憂いながら、王家の秘宝を封印し続けた純粋な思いに心が打たれたようだ。 


 セイシェル王女が、ローラ夫人を優しく見つめて言った。


「私は、レイナが公開処刑されることを知りながら、何もせず、見殺しにしたのです。決して、赦されるものではございません……。しかし、エリア様のお力で、私は、自分のことを雁字搦めにしてしまっていた自らの呪いから解放され、自分を赦すことができたのです。それは、本当に、絡まった糸が解かれていくようでしたわ……」


 王女はそう言って、僕に慈しみの眼差しを向けた。


 ドキッ!


 すると、ローラ夫人が顔一面をほころばせ、胸の前で手を組み、嬉しそうに言った。


「王女様! これも女神様のお導きなのでしょうか? 私も、恐れながら、全く同じ思いをしております! エリアさんのお力で、どれほど私たちが救われた事でしょう!」


 ローラ夫人は、屋敷の関係者以外で、こうした話ができる事が嬉しくて仕方ないようだ。壁際では、アリサが、うんうんと大きく頷いている。


 いや、ちょっと、話の流れがズレてきてるけど……。


 しかし、逆に、話の筋が見えてきた者がいた。


「エリアは女神様だよ。私、治らない病気直してもらったんだもん」


 イ、イリハ……。


「そうそう。エリア様は女神様です。私は、二度と聞こえるようにならないって言われていた耳を聞こえるようにしてもらったんですよ」


 ラヒナまで……。


「へぇ~、そうなの?」


 ピュリスが、イリハやラヒナの言ったことに感心している。


「あはは―」


 僕の話は、くすぐったいからやめてほしい。セイシェル王女とピュリスの気持ちに共感するのはいいけど、その話の真ん中に僕を持ってこないでよね。


 それまで、腕を組んで頷きながら女性達の話を聞いていた男爵が、話に入ってきた。


「エリア、ここまでくれば、もうワシは何を聞いても驚かんぞ、ワハハハッ! ちなみに、セイシェル王女様とピュリス様は、どのような眷属様におなりなのだ?」


 そこが気になってたんだ。


 男爵の関心は、みんなと少しずれているようだ。でも、男爵のお陰で、話の流れが元に戻った。


「セイシェル王女は妖精ニンフさ。人を魅了する力があるんだ。でも、本当はこんなものじゃないよ。王女がここで権能を使っちゃうと、いろいろと問題が発生しちゃうでしょ? 男爵様」


「ニ、ニンフ? こ、この世の楽園……、い、いや、んんっ! そ、そうだな。こ、これ以上、この場では、お力をお控えくだされば幸いかと……」


 男爵は、咳払いをしながら、そう言った。


 男爵様、また視線が泳いじゃってるよ。これなんだから、まったく。


「……それと、ピュリスさんだけど……」


 ピュリスが言った。


「私は、火の竜だよ」


「なっ!?」


 ピュリスの一言を聞いて、男爵は、とうとう固まってしまった。


 ちょっと、強い刺激が続いちゃったかな。


「今さら驚かないんじゃなかったの? 男爵様」


 男爵は、口が開いたままだ。すると、ローラ夫人が言った。


「フフフッ! エリアさんと一緒なら、魅惑の妖精様や、竜の精霊様ともお友達になれてワクワクしますわっ!」


 そうそう、もう、軽~く受け取ってよね。


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