116-6-20_女神の巫女
「四大元素? 火の精霊ってこと?」
火の精霊は、サラマンダーとかいうトカゲだと思ってたんだけど、竜の姿の時もあるのか……。
「ええ、そうです。四大元素、火の精霊様で間違いないと思いますわ。女神ガイア様の直接の眷属様は、四大元素の精霊様以外に、数柱の精霊様がいらっしゃったかと思いますが、火の竜として顕現なされる精霊様は、他にはいらっしゃらないと思いますので、やはり、火の精霊様ということになりましょう」
「そういうことなんだ。それなら、ピュリスさんは、四大元素、火の精霊の使いということだね」
ピュリスは、少し照れている。
「いやぁ、私はそんな大仰な者ではないよ。自覚もないしね。まぁ、でも、エリアちゃんの元に来て、眷属になったんだから、火の竜の言った通りだね。私も、エリアちゃんとともに、この世界の行く末を見てみたいよ。そうでしょ、セイシェル王女?」
「フフッ、随分と自信が着いたようね、レイナ。良かったわ。もちろん、私も、エリア様と、常に共にありますわよ。女神様のご加護、女神の絆を授けていただいて、地縛していた人間の魂が妖精ニンフへと変わり、肉体と心の制限から解放されたのですから」
セイシェル王女は、そう言って、にっこりと笑った。
女神の絆か……。
ピュリスと融合した小さなファイアドレイクも、女神の絆について話していた。セイシェル王女やピュリスとの関りで、この加護の権能を知ることが出来たことは良かったと思う。しかし、こうなると、今まで、女神の祝福を使っちゃって、女神の絆が付与されているイリハにアリサ、そして、ラヒナにセシリカの四人には、それぞれの人生に大きな影響を与えてしまいそうだ。
いつかは、男爵や彼女たちにも、そのことを話さないとダメだろうね。
セイシェル王女とピュリスの会話をぼんやりと聞きながら、そんなことを考えていた。すると、セイシェル王女が、突然、何かに気が付いて、ポンと手を打ち合わせた。
「それにしても! あの火の魔石は、火の精霊様からエリア様へ手向けられたものだったのですね。そういう意味があったなんて、何て壮大なお話なのでしょう!」
セイシェル王女は、火の竜の、未来を見通す大いなる意図に感動しているようだ。
確かにね。
火の竜は、まるで、ピュリスの夢に僕が入り込むことを見越して、自らのメッセージコードを、彼女の夢に織り込んだように思える。僕が彼女の夢の中に入ることで、それが開封され、僕にしか聞こえない声として伝えられたメッセージ。
でも、どうして火の精霊は、わざわざ自分の力を使えと言って、ピュリスさんを僕と出会うようにしたんだろう?
そこには、どんな意味があるのだろうか。あるいは、火の精霊の単なる気まぐれなのか。今考えたところで、答えは出ない。いずれにしても、王女が言った通り、火の竜として姿を現した火の精霊は、壮大な視野を持っている様だ。やはり、四大元素の精霊は、他の精霊と格が違うのかもしれない。
いつか、火の精霊と、直接話をしてみたいね。
今後は、積極的に四大元素の精霊に関する情報も、集める必要がありそうだ。兎に角これで、ピュリスは、ようやく前に向いて進めるだろう。
さて、そろそろ部屋に戻ろうか……。
そう思った時、セイシェル王女が、驚いたような目をして右手で口を隠すように押えた。
「そうだわっ! 私、エリア様に、まだ、眷属の名乗りを申し上げておりませんでした。とんだ失礼をしておりましたわ」
セイシェル王女はそう言ってかしこまると、腰を屈め、恭しく名乗りを上げ始めた。
「エリア様、改めまして、私は、妖精ニンフのセイシェルでございます。女神様の五の眷属にして、女神様の愛の伝道師となるものですわ。よろしくお願いいたします。それと、必要に応じて、ウィルの姿にもなりますから、お見知りおきくださいね」
すると、ピュリスもその後に続いた。
「それなら私もだ。エリアちゃん。いえ、エリア様。私は、火の竜、ファイアドレイクのレイナ。女神様の六の眷属にして、女神様の八人の巫女の一人、トーラスのシビュラだ」
ピュリスから、突然、聞き覚えの無い言葉が述べられた。
「今のは何? 八人の巫女? トーラスのシビュラ? 何なのそれ?」
しかし、ピュリス自身もあまり要領を得ていないような面持ちだ。
「トーラスのシビュラというのは、三の巫女という意味みたいだよ。しかし、それが何なのか、私にもよく分からないな。名乗りをすると、自然と口から出てきたんだ。何だろうね? 女神ガイア様の関係だと思うけど、王立図書館にでも行けば何か資料があるかもしれないよ。それにしても、私が、巫女だなんて、ガラじゃないんだけど……」
ピュリスは、腕を組んで頭を傾げていた。
女神ガイアの八人の巫女。それに、王立図書館か。
女神ガイアには、関係が深い巫女がいるようだ。しかも、八人も。ピュリスさんがトーラスのシュビラ、三の巫女として、一の巫女から八の巫女まで、まだ、あと七人いるという事だ。
でも、ピュリスさん、何で三なんだろうね。いや〜、でも、何だかワクワクしてきちゃうよ。
この先も、新しい出会いが待っているはずだ。レムリアさんには、エリアの記憶を思い出す事以外、あまり、具体的なミッションみたいな事は言われなかったけど、女神ガイアの加護を持つ者には、やはり、何か成すべき事があるのかもしれない。
まぁ、でも、進むのは、流れに任せながらだけどね。心のままに、だ。それにしても、もしかしてピュリスさんが、レムリアさんの言っていたガーディアンなのかな?
何となくピュリスを見ていると、彼女と目が合った。
「そうだ! エリアちゃん。一度、王都においでよ。いろいろと案内してあげるよ」
考え込んでいると、ピュリスがそう言って、王都に来るよう誘ってくれた。
「ホント? 近いうちに、王都には行こうと思っていたんだ。折角だし、お願いしてもいい?」
そう言うと、ピュリスは嬉しそうに、「もちろんさ!」と言って、右手でグッドサインを出した。二人の会話を微笑ましく見ていたセイシェル王女は、切りのいいところで声をかけてきた。
「さて、帰りましょうか?」
そう言って、セイシェル王女が、ニッコリと笑った。
「そうだね」
「二人とも、今日はありがとう」
ピュリスはそう言うと、セイシェル王女の胸に揺れる青いネックレスに視線を送った。すると、セイシェル王女は、ネックレスに触り、彼女に優しく微笑んだ。ピュリスは、セイシェル王女の微笑みにまた微笑み返すと僕と手を繋いでくれた。
じゃぁ、僕も。
セイシェル王女を見上げて右手を差し出すと、王女も優しい眼差しで手を繋いでくれた。
さぁ、お屋敷に帰ろうか。
そうして、三人で現実世界へと転移した。