113-6-17_精霊化!
ピュリスは姿勢を整えて返事をした。彼女は、セイシェル王女の言うことなら素直に聞く。しかし、彼女は緊張しているようで、椅子の上で背筋を伸ばし、目をギュッと閉じて、腕を体の横にピタリと付けて体制を整えている。
「そうそう。でも、そんなに唇を尖らせると、キスの味が分からないわよ」
セイシェル王女がピュリスの側により、彼女の肩に手を添えてあげた。
ピュリスさん、キスは初めてようだね。でも、早く済ましちゃおう。
彼女の側まで行くと、彼女の頬を持ちキスをした。
「チュッ!」
「んんっ!」
ピュリスは、一瞬ピクッと身体を反応させた。しかし、女神エネルギーが彼女へと流れ出すと、その後は落ち着いたようで、彼女の唇から力みが取れ、ようやくキスらしくなった。すると、セイシェル王女が、「ウフフッ」と微笑んだ。その声を聞くと、また、気持ちがうっとりとしてしまう。王女の微笑み効果なのか、ピュリスとのキスがしっとりと潤いのあるものに感じられた。
やっぱり、ピュリスさんもまだ乙女少女だもんね。唇もプルプル。可愛い!
カリスにされたように、ピュリスの唇をハムハムしてあげた。
「んんっ」
ピュリスは少し声を上げて、ビクリと身体を反応させる。
僕だって、少しはキスに慣れてきたんだから。
十秒程度のキスをした後、ゆっくりとピュリスから離れる。セイシェル王女も、満足そうに優しい眼差しをピュリスに向けていた。
これで、ピュリスの魂の傷も治るといいんだけど。
そう思ったとき、突然、ピュリスの脇に立てかけていた彼女の聖剣の赤い魔石が、再び、真っ赤な光を放った! 光は、一旦、大きく広がると、今度は、ピュリスの胸の辺りに吸い込まれていく。そして、ゆっくりと収まって行った。
「ピュリスさん?」
ピュリスは目を見開き、自分の手を見つめている。今、物凄いエネルギーが、ピュリスに流れ込んだ! かなりの変容ぶりだ。でも、本人の意識は残っているんだろうか?
すると、セイシェル王女が、感嘆の声を上げた。
「まぁ、すばらしいわっ!」
そして、ピュリスは立ち上がり叫んだ。
「凄いっ! 凄いよ、エリアちゃん! 力が溢れてくるようだよ!」
彼女はそう言うと、「フッ!」と気合を入れた。その瞬間、ピュリスの姿が変化したっ!
ヤバイっ!
「うわっ! ダメだよっ!」
ピュリスの魔力の急上昇を感じ、咄嗟に強力な魔法シールドを部屋の内側に張った!
「危なかった~。ちょっと、ダメじゃない! お屋敷を燃しちゃうつもり? まったくっ!」
「ご、ごめんなのだっ!」
あっ!? 人格がっ!
「ピュリスさんだよね?」
「あたいはレイナだぞっ! ファイアドレイクのレイナなのだぞっ! ワハハハハッ―」
あちゃ~。
しかし、セイシェル王女は、とても嬉しそうにピュリスを見ている。彼女は、両手をお祈りのようにして組み、目を輝かせていた。
「レイナ、これで、あなたと私は、同じ時間を過ごすことができるわ」
セイシェル王女がそう言うと、ファイアドレイクのレイナが言った。
「ワハハハハッー。セイシェル王女と一緒なのだぞっ!」
レイナの姿は、ファイアドレイクの姿をそのまま大人にしたような恰好をしている。エナメルのように艶のある真っ赤なレオタード型ボディスーツに、同じ素材のロングブーツを履いて、腕にはドラゴンの爪型ナックルを嵌めている。そして、鱗のある細長い尻尾もそのままだ。
きっと、空を飛ぶときは、背中に翼がはえるんだろうね。
ただし、顔や体形、身長はピュリスのままで、髪の毛も特徴的な薄紫のロングは変わらない。迷彩柄のカチューシャは……?
あれ? 着けてないね?
レイナは興奮しているのかして、パワーを出しっぱなしだ。恐らくシールド内の温度は、数百度を超えている。
「ちょっと、いい加減、パワーを落としてよ!」
そう言うと、レイナが、「了解だぞっ!」と言って、自分の出した魔力を吸収すると、シールド内の温度が急激に下がって、たちまち、常温に戻った。
「まったく。ちゃんと、コントロール覚えてよね」
「すまない、すまない」
彼女はそうやって平謝りすると、ピュリスの姿に変わった。ちょっと驚いたけど、ピュリスとファイアドレイクは、どうやら無事に融合できたようだ。それに、ピュリスは、ファイアドレイクに変わっても、自我を失っていない。
人格は、やっぱり変わってるみたいだけどね。
ただし、それは、ピュリスが選択したことだし、彼女も納得している。それにしても、ファイアドレイクのパワーは強烈だ。ピュリスは、精霊と融合し、絶大なパワーを手に入れた。それは、一体どんな気分なのだろう?
「ピュリスさん、精霊との融合はどう?」
そう言うと、ピュリスが興奮するように答えた。
「本当に凄いっ! もう、何者にも負ける気がしない程さ! いや~、これなら、私一人でアトラス共和国とも戦えそうだな。ハッハッハッ!」
いや、これは冗談じゃないだろうね。
さらに彼女は言った。
「それに、とても自由だ! 身体の枠を超えた感じで、意識が、外側にどんどんと広がっていくような感覚だよ」
「へぇ~、何だかよく分からないけど、とにかく肉体から自由になってるんだね」
そして、彼女は、少し真面目な顔になって言った。
「後は、あの場所に置いてきた心を取り戻すだけだ……」
ピュリスがそう言うと、セイシェル王女が、「それなら」と言って、三人でテーブルを囲うように手を繋いだ。
「エリア様、レイナ、よろしいですか? それでは、レイナの記憶に入っていきましょう!」