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010-1-10_兄妹奴隷

 朝から日差しが結構強い。荷台の中は少し気温が高くなってきた。幌の隙間から入ってくる風には、依然として砂埃が混じり、口の中が埃っぽくて仕方ない。そして、相変わらず空気も乾燥していた。


 荷馬車は、三時間ほど休憩無しで走った後、また停車した。どこかに着いたようだ。奴隷商の男が御者台から降りて誰かと話しているのが聞こえてくる。


「こいつらだ」


「そうかい、よし、やつに金を払ってやれ」


 アニキが御車男に指示をしたようだ。


「へい。アニキ、これでいいんですかい?」


「そうだ。ほらっ、代金だ」


「ん? 若い女は値が上がってるって聞いたぜ。少ないんじゃないか?」


「チッ、後一枚渡してやれっ!」


「三枚だ!」


「二枚にしとけ!」


「いいだろう」


 アニキが別の人物に代金を渡し、その人物は代金を受け取ったようだ。


「よし、お前らはこいっ! 暴れるんじゃねえぞ!」


 御車男はそう言って荷馬車の方に近づいてくると、「早く入れっ!」と言いながら、若い男女の奴隷を檻の中に押し込んだ。二人とも、手を後ろで縛られていている。

 女の方が、御者男に背中を勢いよく押されて、扉と反対の鉄格子に顔をぶつけそうになった。ところが、咄嗟に、男の方が女の前に身体を出してクッションとなり、女は鉄格子に顔をぶつけずに済んだ。


 凄い反射神経だな。


 彼は、何事も無かったかのように振り返ると、彼女を気遣いながら顎で空いている床を差し示し、二人とも、丁度、僕の目の前に腰を下ろした。


 さっきの奴ら、若い女と言っていたけれど、確かに二人とも若い。見るからに彼女は成人前だ。彼の方はというと、まだ二十歳くらいか? 身長は前世の僕くらい。なら、百六十センチくらいだな。そして、彼は、黒い襟のあるシャツに茶色の短パンとその下に黒いレギンスを履いていた。靴はブーツサンダルのような黒い履物だ。髪は真っ白で短く、目は茶色で、細面。鋭い身のこなしをしそうではあるが、目が丸く優しい印象を与える。一方、彼女は彼より十センチほど背が低く、紺色の長袖ワンピースで、襟と袖口が白のデザインだ。靴は踵の低いストラップ付の白い靴を履いていた。彼女の髪も真っ白で肩までの長さがあり、華奢な身体つきをしている。瞳はピンク色で、こちらも丸い目だ。


 大人しそうな女の子だね。


 どうやら彼女は化粧をしていないようで、その分、清楚な雰囲気が漂っていた。


 二人とも、身なりはそんなに悪くないね。どんな事情で奴隷になったんだろう? 手も縛られているけど……。


 そう思っていると、奥に座っていた年配の男が、彼らの前に移動してしゃがみ、縛られている手をほどいてやるとジェスチャーで示した。すると、コックの身なりをした男も、同様に、彼らのところに寄っていった。

 若い男は警戒しているようだけど、それでも、身体を斜めにし、縛られている手を年配男に向けると、年配男がその縄を解いてやった。そして、その縄を自分のポケットにしまうと、元の位置にもどった。コックの男も、若い女の縄をほどき、その縄を幌の隙間から外に投げ捨てると、彼も、元の居場所に戻った。


 何だ、奴隷って他の奴隷には関心を持っていないと思っていたけど、助け合ったりするんだね。


 奴隷は、もっと荒んでいると思っていたけれど、この人たちは、人の心を失っていない。そんな風に様子を見ていると、目の前の若い男と目が合った。彼は、不思議そうな顔でこちらを見ている。恐らく、僕が小さい子どもに見えるからだろう。どんな事情があるんだろうと考えているようだ。


 僕も同じ事考えてるんだよ。


 何気なく彼の目を見つめていると、さっきと同じように、彼の記憶が頭の中に勝手に流れてきた。特に意図した訳ではないけれど、やはり、目を見ると、相手の考えていることが伝わってくる。それで、分かったことに、どうやら、彼らは兄妹のようだ。


 目元が似ているからそうだとは思ったんだけど。でも、それなら、とても優しいお兄ちゃんだね。常に妹を庇おうとしているんだから。


 妹の方は、何かの宗教関係者だ。


 もしかして、司祭?


 そして、妹に寄り添うお兄ちゃんは、彼女の護衛役だ。それで、お兄ちゃんの方は後悔しているね。彼らは、さっき、彼らを売った奴に騙されたんだ、きっと。


 いや。奴というよりも、奴らの村にだな。


 この兄弟は、村に何かを依頼されて来たのに、騙されて、奴隷商に売られてしまったようだ。だから、お兄ちゃんは、妹をを連れて来たことをとても悔やんでいる。それにしても、事実だったらとんでもない話だ。


 村ぐるみで人攫いか。ガイアの世界も、世の末だね。


 ほどなくして荷馬車は動き出した。


 さっき分かったけれど、イメージした事が魔法になる。それなら、魔法を使うこと自体は、簡単そうだ。揺れる荷馬車の中、時間だけはたっぷりあるし、レムリアさんの言ってたように、魔法のイメージを詳細にできるよう、イメトレすることにした。思いつくのは、治癒系、攻撃系、防御系、身体強化系、空間操作系、状態異常系だ。召喚魔法なんかもありそうだけど、少しでも早く魔法を使えるようにならないと。


 あっ、それと、身体や服を綺麗にする魔法も考えた方がいいね。この世界では、お風呂があるかどうかすら分からないし。


 女の子は清潔にしないとっ!

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