010-1-10_制御不能!
それにしても、今のは思いのほか上手く行った。せっかくだから名前でも付けてみるか。そうだな……なんてね。そんなの思いつくのは一つしかない。っていうか、しょぼい感がどうしても否めない。本当はこんな程度の力じゃないはずだ。もっと、火とか水とかそういう派手な魔法を使えるようになりたいんだよ。それなのに、さっきから指先に火をつけようと試しても、全く反応無しだ。
う〜ん、やっぱり魔法をイメージするって良く分からないな。蝋燭の火みたいなのを想像してるんだけど、何でこんな小さな事くらい出来ないんだろう? あ、もしかして切迫感が足りないとか……。いや、それなら、絶体絶命の大ピンチにしか魔法が使えないって事になっちゃう。スーパーヒーローの必殺技じゃないんだから、それは流石にダメだよね。
こういう時は、基本に戻ってみるしかない。
さっきの下痢魔法、どうやってイメージしたんだっけ……。
そんなの考えるほどでもない。とにかくお腹が痛くて我慢できなくて、とうとう……って言う感じだ。
そうか。イメージしないといけないのは現象じゃなくて、それまでの過程が大事なのかもしれない! よし、それなら、火魔法の場合は身体の中で火が燃えるようなイメージをすれば……。
お腹の中で火が燃える……ハッハッハ、何それマグマ? 火山の爆発じゃないんだからさ。
ところが突然、心臓が、ドクンっ、と大きく鳴った。
え!?
驚いて胸を押さえる。
さらに、右腕には激しい血の流れを感じ始めた。
な、何だ、右手が、熱いっ! あれ? 手に何か集まってきてるよ! え? え? え? 何だこれ!? す、凄い! なんか怖いんだけどっ!
手の先で何かが弾けそうだ。思わず力一杯拳を握る。
何これ!? だ、ダメだ、右手から何か出ちゃうよ!
右手を胸に押し付け、何とか耐えようとする。ところが、もう、爆発でもしそうな勢いになってきた。そしてそれは、手先の方へとどんどん圧縮されていく。
う〜〜〜、弾ける! も、もう無理! どうしよう、ここで? いや、それヤバいっ!!!
ズバッ、と右手を幌の隙間から外に突き出す。
腕を真っ直ぐに伸ばし、手のひらをパッと開いた。
その瞬間、手のひらの中心から、シュンッ! っと何かが放たれる。
ドドドドドォォォ――――ンッ!!!
激しい音と同時に、幌の継ぎ目や傷穴など、ありとあらゆる隙間から眩しい閃光が入り込む。
爆風に煽られた幌が激しく波打ち、荷馬車の片輪が一瞬浮き上がると、前方で馬が大きく前足を持ち上げた。
ヒヒヒヒィィィ――――ンッ!!!
馬のいななきとともに荷馬車が大きく傾く。
荷台の中では、身体が組んず解れつして慌てる奴隷たち。
いぃぃぃ――っ!?
「おいおいおいおい! な、何だ何だ、今のデケェのは!?」
御者台の男が焦ったように叫ぶ。
鉄格子にしっかり掴まってなければ、身体を飛ばされそうだ。
奴隷たちも必死で檻にしがみついた。
荷馬車はバランスを崩し、片側の車輪が持ち上がったかと思うと、御者台にいた男の一人が放り出されて転げ落ちる。
すると荷馬車は、ドスンッ、と着地し、ようやく落ち着いた。
「痛ェ! チキショー! 何がどうなってやがるっ!?」
い、今のは、な、何……?
心臓は、早鐘のように鼓動する。
右手を手元に引いて、手のひらを覗き込んだ。
こ、この手から、何か、とんでもないものが出たような……。
奴隷たちは、全員が鉄格子に捕まりながら、目玉を、飛び出るほどに見開いている。
ぼ、僕じゃなからね……。
心の中でそっと呟いた。どうやら、バレたような様子はない。
その時、荷馬車の外から大きな声が聞こえる。
「お前、奴隷たちの様子を確認しろっ! 俺は、後ろを見てくるっ!」
「へい、兄貴!」
男は幌を勢いよく捲り上げ、荷台の中を睨みつける。
「変わったことはねぇようだな。おい、テメェら。妙な事考えんじゃねぇぞ」
奴はそう言って幌を閉じると、荷馬車の後ろに向かった。
「兄貴、どうですかい?」
「どうですかじゃねぇ! 見ろ、あの真っ赤に焼けちまってる抉れた崖を! ヤベェぞ、コイツは!」
「あぁ、さっきの爆発のやつですね。何だったんでしょうかね?」
「お、オメェ、なに呑気なこと言ってんだ? こんな事出来るのは、伝説級の魔獣しかいねぇ!」
「魔獣が出たっすか? や、ヤベェですぜ、兄貴!」
「だからそう言ってるだろ!」
「兄貴、見たんすか!?」
「オメェと一緒だっただろ、馬鹿野郎! しかし、こいつは、噂に聞く火竜の仕業に違ぇねぇ!」
「それマジっすか!? 俺たち、狙われたってことですかいっ!?」
「狙われてたんなら今頃灰も残らねぇ! よく分からねぇが、俺たちが狙われたんじゃねぇだろう。命拾いはしたようだがな。とにかく、すぐに出発だ。こんな恐ろしい場所とっとと離れて、市場へ急ぐぜ」
「いいんですかい休憩は? 兄貴、あの女奴隷を気に入ってやしたけど? 腹の調子戻ったんじゃねぇんで?」
「ば、馬鹿言えテメェ! 命の方が大事に決まってんだろっ!」
「へ〜い」
そうして、慌てるように馬車は動き出す。
い、いや〜、流石に驚いちゃった。レムリアさんが言ってた魔力の暴走ってこういう事? だとしたら危険すぎる! こんなの一体どうやって制御するって言うんだよ。




