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107-6-12_レピ湖の恵み

「おおっ! そうであった! それで、どんな塩梅だ?」


 男爵は、そう言ってニタニタと笑った。


「それは、見てもらった方が早いかもね。イヒヒヒ」


 男爵に釣られて、嫌らしい笑い方になっちゃったよ。それにしても、あれを見ると、男爵も驚くだろうね。僕だって、予想外だったからさ。


「ムフフ。ならば、他の者も一緒に見にいくとするか」


 男爵がそう言って、みんなで地下倉庫に行くことになった。


 地下倉庫の入口は、玄関ホールの階段の裏にある。この倉庫は、本来、武器や防具を収納するための倉庫だそうだ。最近は戦争などがないことから、今は、ほとんど使われていないらしい。そのため、倉庫には、広い空きスペースがあった。そこで、この倉庫に水の魔石を保管しておこうということになったのだ。地下倉庫は屋敷の中でもあるし、常に使用人の目もあり防犯上も安心だ、


 まぁ、水の魔石を運んでから、特定の人以外は入れないように魔法を掛けているんだけどね。


 ダイニングルームから移動して、階段下の地下倉庫入口にやってきた。モートンが扉を開けて男爵が中に入ると、それに続いてみんなも入っていく。ローラ夫人やイリハにラヒナ、そしてアムも後から続いて入ってきた。男爵の合図で、ところどころにあるランプにモートンとアリサが火を入れていく。すると、地下倉庫全体が明るくなった。

 昨日、運んでおいた木箱は、幅が一メートル、奥行と高さが五十センチほどの大きさがあり、全部で三十箱ある。倉庫の奥の方から上下に二段づつ積み上げたけれど、まだまだ倉庫のスペースは空いていた。男爵が、一番手前の木箱の前に立ち、蓋を開ける。


「お~っ! これは、凄い!」


 そして、魔石を一つ取り上げると、ランプに翳して光の透過を確認した。


「これは、とても純度が高そうだ。ほら、みなも見てみるが良い」


 そう言って、男爵は、みんなに魔石を一つずつ持たせた。


 それなら、もう少し明るいほうがいいかもね。


「魔法ライト!」


 両手を伸ばし、空間に光を出す。その柔らかな光は空中に静止して、手元を明るくさせた。


「よく見えますわ。エリアさん。ありがとう」


 ローラ夫人がそう言って、光に魔石を翳した。すると、みんなもその光に魔石を翳して、いろいろと方角を変えながら目を凝らしてじっくりと魔石を眺め始めた。


「魔石って、綺麗~」


 イリハが左目を閉じて、魔石を覗く。


「本当ですね~」


 ローラ夫人もイリハと同じようにして言った。ラヒナもアムもイリハの真似をして珍しそうに魔石を見ている。


 男爵は、みんなの様子を微笑ましく見ながら僕に尋ねた。


「エリアよ、これら全部でどれほどの数なのだ?」


 木箱は無造作に置いてあるので、男爵も数の実感が湧いていないようだ。


 数を聞けば、驚くだろうけどね。


 カリスに聞いていた数字を伝える。


「五万個以上あるよ」


「ご、ごま……」


 男爵が、一瞬、よろめいたかに見えた。


「ほ、本当か!? いやいや、待て待て……間違いでは無いのだな?」


 男爵は疑い深いようだ。


「カリスに聞いたから間違って無いと思うけど」


 数は間違ってなどいない。恐らく、レピ湖の水深が深く、今の技術では誰も回収できなかったために、何千年分という魔石が手つかずで残っていたのだろう。もしかすると、レピ湖の湖底には、まだまだ、水の魔石が沈んでいるかもしれない。

 男爵は、魔石の入った箱に持たれかかると、こめかみを押さえながら言った。


「そ、そ、そうなのか? ちょ、ちょっとすまんが、モートン、ワシに水を一杯くれんか?」


 男爵は、落ち着きを無くしながらそう言うと、モートンが、「ただいま」と言って、アリサに目くばせし、アリサが倉庫を出て行った。そして、アリサは盆の上に水差しとコップを数個とナプキンを乗せ、直ぐに戻ってきた。


 男爵は、「すまん」と一言いうと、アリサから渡されたコップの水を一気に飲み干した。


「ふぅ~、少しは落ち着いたか……。ま、まぁ、魔石はたくさんあるという事だな……」


 男爵は、空になったコップをどこに置くともなく、また、アリサに渡すでもなく、箱に座ったまま、一息付いている。そして、ポンと自分の膝を叩いて言った。


「さて、もう、そろそろ、上に戻ることにしようか」


「まだ、来たばっかりだけど?」


 しかし、男爵は、立ち上がって空のコップをアリサに預けると、倉庫を出ようとする。そして、少し立ち止まって僕に言った。


「エ、エリアよ、後で、談話室に来てくれんか?」


 男爵は、平静を装っているが、顔が引きつっている。


「談話室だね? 後で行くよ」


 水の魔石は、恐らく、男爵の想像よりも、かなりたくさんあったんだと思う。


 驚くとは思ったけれど、あんなに動揺するとはね。


 確かに、クライナ金貨の枚数に換算すれば、五十万枚にもなる。前世の価値にすると、金貨一枚二十万円として、一千億円ということだ。


 まぁ、大きな金額とは思うけど、でも、あくまで換金できればの話だよね。


 金貨の発行枚数は限られているだろうし、換金できる量は、そう多くは無いと思う。それなら、たくさん持っていたところで仕方がない。


 水の魔石を、直接活用する方法を考える方がいいかもね。


 男爵は、真っ先に倉庫から上の階に上がって行った。それに続いて、ローラ夫人や子どもたちも上への階段を登って行き、僕も、談話室に行くことにした。 


 ーーーー。

 

 談話室に入ると、既に、男爵が椅子に掛けており、腕を組んで目を閉じていた。背後には、モートンが控えている。


「おお、エリア、来てくれたか。早くそこに座ってくれ……」


 男爵は、急かすように言った。


 どうしたんだろうね、男爵様? 動揺したり興奮したり、忙しいもんだよ、まったく。


「魔石の事?」


 そう聞いてみると、男爵が言った。


「もちろんだ。エリア、あの魔石の量であるが、とても世間に知られてはいかんものだ……」


 そりゃ、そうだろうけど……。


「まず、全体の価値であるが、王宮の年間予算の三倍くらいはあるだろう。そんな量の資金を持っていると分かっただけでも、王宮への反逆を疑われることになりそうだ……」


 え? そ、そうなの……?


「それに、この間、魔石の価値をクライナ金貨と比較して話してやったと思うが、天然の魔石というのはな、それ自体、貨幣として流通できるものなのだ。しかも、この価値は世界共通である。つまり、どこの国でも使える貨幣を、我が男爵家が、王宮の年間予算の三倍も保有していることになった……」


「お金として使える? マジで!?」


「ああ、そうだ!」


 そうなると、話が全く変わってくる。さっきまでは、あまり使い道がない宝石のような印象だったけれど、そうではなく、恐ろしいほど多額の現金を持っていることになる。男爵は、こうした状況が、アトラス派にでも知られれば、大変なことになると考えているのかもしれない。


 お宝さがしと浮かれていたけれど、もしかして、逆に心配の種を作っちゃったのかな?


「なんなら、レピ湖に戻しちゃう?」


「バカをもうせ! もったいないっ! エリア。良いか、これから、大事な話をせねばならん……」


 男爵が話した内容は、近い将来に起こりうる大きな憂いについてだった。


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