105-6-10_公爵令嬢の記憶(挿絵あり)
イリハとラヒナが一斉に叫んだ。イリハは自分の椅子から降りて、ラヒナの椅子にお尻を割り込ませると、ラヒナに抱きついて顔を見合わせた。
「うそ〜? 湖に行けなくなっちゃうよねぇ」
ラヒナもうんうんと頷いている。
「ゴメンゴメン、昔話さ。君たちを怖がらせるつもりは無かったんだ。ごめんね」
ピュリスは、悪びれながら、自分の後頭部に手をやった。
ホントだよ。小さい子どもに何て話をするんだ! きっと、この子たち、夜中、トイレに行けなくなるよ、どうすんの?
イリハとラヒナが抱き合ったまま、ベッドにもぐり込んでしまった。アムは、何か言いたそうな顔をして僕を見ている。
昼間の話とシンクロしてるよね。
「いや〜、本当にすまない。ハハハ、私は退散した方が良さそうだ」
ピュリスは、そう言って慌てて部屋を出て行ってしまった。
まったく! 何しに来たんだよ!
「お願い、エリア、今日はここでみんなと一緒に寝るっ!」
イリハは、布団を抱き寄せ、泣きそうな顔をして訴えた。
あ~あ、ほら、イリハが怖くなっちゃったじゃない。
「いいよ。みんなで一緒に寝よう」
「ヤッター!」
そう言うと、イリハとラヒナが両手を上げて一緒に喜んだ。
あれ? 楽しそうだね?
その後、イリハの件をアリサに伝えて、イリハはここで寝ることになった。ベッドは大きいし、横になって寝てもベッドから足は出ない。イリハとラヒナが自分たちを真ん中にさせろと言うので、アムと僕が端っこになって寝ることになった。
イリハとラヒナは、怖いから早く寝ると言って、もう、抱き合って寝ている。僕も、ベッドに横になって、今日の出来事を思い返していた。
「今日はいろいろあったよね……」
水の遺跡で出会ったマブは美しかった。妖精の国には、いつか行ってみたい。そして、ウィルの事……。ピュリスの昔話にも、驚いた。
本当に話がよく似ていたね……。
しばらくすると、隣から、可愛い寝息が聞こえだした。
三人とも、もう寝たのかな? 僕は目が冴えてきちゃったけど。
何故かどうも寝付けない。ベッドから立ち上がり何となく窓から外を見る。すると、庭のガゼボに小さく灯りがついていた。
ん? 誰かいる……。あっ、あれは……ピュリス?
転移窓を小さく出して彼女の様子を見てみると、彼女は、ガゼボの椅子に座ってレピ湖の方を見つめていた。
こんな時間に何をしているんだろう? あれ? 泣いているのか?
彼女の両頬に涙が流れている。音は聞こえないけれど彼女は確かに泣いているようだ。
やっぱりね。彼女の秘密を知ってしまったし、このまま放ってもおけないか。少し、彼女と話をしてみよう。
転移窓を玄関前に繋ぎ直して転移した。玄関前には、メイドが一人立っている。そこにいたのはサリィだ。
「サリィ、ご苦労様」
そう言うと、サリィは一瞬驚いて小さな声で言った。
「エ、エリア様、ど、どうしたんですか? こんな時間に?」
「ちょっと、彼女に用があってね」
サリィはアリサに言われて、ピュリスの見えるところに控えていたようだ。
「ちょっと、行ってくるよ」
そう言って、ガゼボの所まで歩いて行った。ガゼボに近づくと、ピュリスはこちらに気が付いたようだ。彼女は、ハンカチで涙を拭くと、申し訳なさそうに僕を見た。
「エリアちゃんか。さっきはごめんね。本当は、ハッピーエンドにするつもりだったのに、何だか、そんな気分じゃ無くなってしまってね……」
そりゃそうだろうね。
「辛い思い出なんでしょ? その時の事は」
そう言うと、彼女は笑顔を取り繕って、歪な表情を浮かべた。
「ど、どういう意味だい?」
「あれは、ピュリス様の前世の記憶……だよね」
先ほど、彼女の記憶を覗いた時に、分かってしまった。彼女が怯えていたイメージ。あれは、今の話ではない。その時代に、彼女が実際に体験したものだ。
ピュリスは驚いて、少し身構える様に正面を向いた。
「な、何を言っているんだい? あれは、単なる御伽話だよ」
「隠しても、僕には分かるんだ。人の記憶が読めちゃうからね。ピュリス様の話は、少し、脚色されているけれど、実際の体験談だよね」
「えっ!? き、君は、一体何者なんだ……」
彼女の質問には答えず、代わりに、微笑みを返しておいた。
「実は、ピュリス様に会わせたい人がいるんだよ」
そう言って、彼女の様子に構わずウィルを呼び出した。
「ウィル! お願い!」
すると、空間にキラキラと光が現れ、それらが段々とまとまってくると少女の姿になった。
「エリア様。お呼びですか?」
ウィルは身体からぼんやりと青白い光を放ち、手を前に組んだ姿勢で澄ました顔で立っている。
「何? 妖精? 小さい女の子だね。私に会わせたい人ってこの子?」
ピュリスは訝しそうにすると、ウィルに心当たりがないとばかりに、そう聞き返した。
「ピュリス様、さっき話してくれた王女様にはちゃんとした名前があるんでしょ? 何て言う名前の王女様なの?」
少し唐突だけど、話を先に進めよう。
「えっ、名前? 何でそんなこと? まぁ、いいけど、王女様の名前は……」
ピュリスは、王女の名前を口にした。その途端、ウィルが、大きく目を見開き、突然我に返ったような驚いた顔をした。そして、次の瞬間、彼女の胸のあたりから鮮やかな青い光が放たれ、大きく広がって、あっと言う間に辺りを包み込んだ!
眩しくて目を開けることができない!
ウィルはしばらく光り続けると、少しづつ、その光が収まりだした。そして、完全に光が収まって辺りが元の静かな夜に戻った。しかし、そこに立っていたのは、ウィルではなく真っ白な薄い布を羽織った女性だった……。
ピュリスが、慌てて立ち上がる!
「セ、セイシェル王女……?」
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セ、セイシェル王女……?
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