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104-6-9_ピュリス

 そう言うと、彼女は僕の目を見つめた。ピュリスは、何となく物言いたげな目をしている。そう言えば、昼間、レピ湖の浜辺でも彼女の視線を感じたのだ。


 何だろう? 僕の事が気になるのか? 首輪の事かな?


 すると、彼女がニタっと笑って身を乗り出した。


「エリアちゃん、バイドンの腰痛を治したんだって? 凄いね」


 そうだ。バイドンに治療魔法を使ってヘルニアを治してあげたんだった。彼は大喜びしていたから、きっと、嬉しそうにピュリスにも報告したに違いない。


「ま、まぁね」


 頭に手をやって、とぼけた様に返事をした。他の三人が注目している。イリハとラヒナは、少し心配そうな顔つきだ。


 魔法の事はあまり話題にはしたくないんだけどね。加護の事に気が付かれるとまずいし。ここは、何とか誤魔化しちゃおう。


 そう考えて身構えたけれど、ピュリスはそれ以上その話を続けなかった。彼女は、ただ、意味深な笑顔を向けてくる。そんなに見られると、落ち着かない。とりあえず、僕も笑顔にならないと。


 彼女と目が合う。すると、その時、彼女の頭のイメージが、勝手に入ってきてしまった。


 何だこれ!?


 ピュリスは、明るい振る舞いとは逆にとてもネガティブな感情を抱いている。


 よく、こんな気分で笑顔になれるもんだね。どうしたんだろう? 何かに怯えているのか……?


 彼女の記憶の中にあったものは、夜、突然、恐怖で目が覚め、朝まで部屋の隅で蹲っている姿だった。そのイメージでは、彼女はシーツを抱き寄せて、ずっと部屋の扉を睨んでいた。


 何かに追われているようだけど……。


 目の前の彼女に意識を向けると、彼女は、僕のトラウマの首輪を見つめているようだ。


「あの、これ、呪いがかかっていて外れないんだよね。やっぱ気になるでしょ?」


「じゃぁ、それは隷属の首輪かい? でも、私にはエリアちゃんがオシャレをしているようにも見えるけどね」


 僕と彼女との会話を聞いて、イリハが慌てて、「エリア、言葉遣いっ、言葉遣いっ」と言って、僕に注意した。ラヒナは、ピュリスの顔色を伺っている。どうやら、さっきから、イリハとラヒナは、僕のピュリスに対する態度が気になっていた様だ。


「あっ、ゴメン、忘れてた」


 すると、ピュリスが大笑いして言った。


「大丈夫! 大丈夫! 全然いいよ。それにしても、エリアちゃんって面白いね。君と話していると、年上の人と話しているみたいだ」


 彼女は、そう言うと、僕の首輪は気にしていないと言った。しかし、彼女は、そう言いながらも、隷属の首輪に何かを感じているような素振りだ。ピュリスは、感が鋭いのかもしれない。しかし、見たところ、彼女は、貴族の派閥争いには与していないようだし、彼女のイメージからは、ラヒナを意識している様子はない。それよりも、彼女が、一体何に怯えているのかが気になっていた。


 その時、ピュリスがみんなを手招きして、テーブルを囲うように言うと、楽しそうに話を続けた。


「今日は、みんなのお陰で久しぶりに楽しい時間を過ごしているよ。だから、特別に、王家に伝わる昔話を聞かせてあげよう。これは、誰も知らない話だよ……」


 ピュリスは、腕を組んで自慢げに微笑んだ。


「……これは、大昔の話さ。とても強くて逞しい王様と、とても美しくお優しい王妃様がいたんだ。そして、お二人の間には、それはそれは可愛い王女様がお生まれになった……」


 王宮の昔話か? それとも御伽話?


「……その王女様は健やかに成長なされ、無事に十四歳になられた。みんなも知っている通り、この国では十五歳になれば大人の仲間入りだ。王女様は、早く大人になって、どこかの国の素敵な王子様と出会いたい。そんなふうに、夢を見ていたんだ……」


 彼女は、時々、懐かしむような目をする。


「……そんな王女様だけど、彼女にはとても仲良しの従姉がいてね。従姉は王女様より三つ程年上だったんだけど、二人は、本当の姉妹のように、いつも一緒にいた。そして、お互いに、まだ出会ってもいない王子様を想像して、その姿を言い合ったりして、空想の恋のお話をして過ごしていたんだよ……」


 イリハが食い入るように聞いた。


「どんな王子様っ?」


 するとピュリスは斜め上に視線を向けて、顎に手を当てた。


「そうだね。戦士のように逞しくって……でも、慈悲深く、精悍な顔をしている。そう、武人だね」


「え~、イリハは、イリハにだけ優しいイケメンがいい」


 やっぱり、イリハはイケメン好きだったよ。しかも欲張りだ。


 ピュリスは、「ハハハっ」と笑うと、続きを話し出した。


「……でもね、王女様には本当のご兄弟がいなかったんだ。だから、大人になったら女王様にならなきゃいけなかった。しかし、王女様は、女王様はになりたくなかったんだ。王女様はそのことを従姉に相談するとね、従姉は、王女様が可哀そうに思って王女様の代わりに自分が女王になるって言っちゃった。本当は、彼女も女王にはなりたくなかったんだけど、妹のような王女様のことを助けてあげたいと思っちゃったんだね……」


 ピュリスは、少し視線を落とす。


「……でもね、従姉の言ったことが、大きな問題になってしまった……」


 ラヒナはお行儀良い姿勢を崩さないまま、少し頭を傾げてピュリスに聞いた。


「どうしてですか?」


「それはね、王女様を女王様にさせたいと思っている人が怒っちゃってさ。従姉はみんなに責められることになった。それで、従姉は自分でも自分を責めるようになってしまって、とうとう、自ら命を絶ってしまったんだ。このレピ湖に身を投げてね」


「え~~~っ!」

「え~~~っ!」

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