101-6-6_妖精王国の女王(挿絵あり)
カリスは、「直ぐに箱を取ってまいります」と言って転移すると、ものの三分も掛からない内に、箱を抱えて現れた。そして、カリスは、濡れた箱を金属製の白い丸テーブルの上に置いた。
「早かったね」
「はい。レピ湖の湖底は庭ですから」
「確かに」
カリスが持ってきた箱は、片方の手で持つことができる程度の大きさだ。ニンフに映像で見せられた時は、単に黒い箱にしか見えていなかったけれど、実物を見ると、かなり上等の箱のようだ。箱の角には金属の飾りがあり、鍵穴も装飾された金属でできている。
「宝石箱のようだね」
装飾は金で出来ているんだろうか? 小さな箱だから、見た目は簡単に開いてしまいそうな箱だけど……。
しかし、その箱からは、触られる事を拒んでいるようなエネルギーが滲み出ている。
「力ずくでは開く気配がしないな。鍵が無いと開けれないんじゃないの? カリス、これカニバサミで何とかなりそう?」
「私には手に負えません」
「ヴィースは?」
「無理でしょう」
「じゃぁ……」
アムには聞くまでもないか。
そう思ったら、アムが蓋の隙間に爪を入れて箱と格闘し出した。しかし、アムは、それでは無理だとわかったようだ。そして……。
「アム、箱をかじらないのっ!」
やっぱり山犬だ。最後の手段は口のようだ。ニンフは、みんなが箱を力ずくでは箱を開ける事が出来ないと分かるまで、ひとしきり間を取ってくれると、改めて言った。
「女神様。お願いでございます。この箱の呪いを解き、王女の魂を解放してもらえないでしょうか?」
「そういうことだね」
言いたい事は分かる。でも、ちょっと心に引っ掛かるところもある。
「う~ん、でも、もし、解呪できたとしても、この中に入っている秘宝は、また王族の跡目争いの道具になるかもしれないんでしょ……」
そんな事になれば、自らの命を掛けてまで封印しようとした王女の思いを、蔑ろにしてしまう事になってしまう。
前を見ると、箱の向こうにはウィルがいる。彼女は、手を膝の上に乗せて肩を寄せ、おとなしく座っている。彼女の小さな体が、なおさら小さく見えた。虚ろな目つきで黙り込んでいるウィルを見ていると、何だかせつない気持ちになってくる。
自らの魂とともに永遠の封印を願うとは、よっぽど辛かったんだろうね……。
まだ、少女だったのに自ら命を絶ってしまった王女。妖精ニンフと融合したとは言え、王女は、ウィル・オ・ウィスプになって、誰にも発見されず、一人、彷徨いつづけていたのかもしれない。ニンフはそんな王女をずっと見守ってきたようだ。
何とかやってみるか。わざわざ僕に会いたいと言ってくれたのだから。
「分かったよ。とりあえず、この箱の封印を解呪してみよう」
そう言うと、ニンフから感謝の念が伝わってきた。
うわぁっ! 何、この色気! ちょっと、裸のヴィーナスを想像しちゃった……。ニンフって、どんな恰好してるの? 早く、妖精ニンフに会ってみたい! よし、何んとしても箱を開けるぞ!
とにかく箱と向き合ってみる。箱を上から眺めたり、手に取ってひっくり返したりした。箱を動かすと、中に何か入っているような音がする。しかし、なかなかやっかいな箱だ。箱を見つめていると、細い糸がごちゃごちゃと絡んでいるようなイメージが見えて、どこから手を付ければいいのか取っ掛かりが掴めない。
「難解だね、この呪いは」
箱を睨んで悩んでいると、カリスがサラッと言った。
「ウィルにキスをしていただくというのはいかがでしょう?」
「えっ、女神の祝福をするって言うの? ウィルに? 何で?」
カリスの思い付きがいまいちピンと来ない。すると、カリスはまたサラリと言った。
「はい。王女の呪いは心の傷ですから」
はっ!
「なるほど、心の傷か……」
確かにそうだ。これは、王女の心の傷がもたらしたものだ。ニンフは、王女の気持ちに寄り添うあまり王女の魂と融合してしまった。
やってみる価値はありそうだな。
「試してみるか」
ウィルの側に寄ると、ウィルが僕を見た。彼女は寂しそうな眼をしている。
「ウィル。ちょっといいかな?」
そう言って、ウィルの頬を両手で持って顔を近づけた。彼女は体温が低いのかして、肌に触ると少し冷たい。そして、ウィルの唇に、自分の唇を寄せていく……。
「チュッ!」
「んっ!」
ウィルが、ちょっと驚いたように声を上げたが、彼女は何をされたのか分かっていないように、キョトンとした顔をしている。
ゴメンね。大丈夫だから。
彼女の唇も冷たく、そして……柔らかい。十秒ほどキスをして、その後、ウィルから離れた。すると、ウィルは、目を閉じて眠り始めてしまった。
「これで、様子を見てみよう」
ウィルをそっとソファに横にして、彼女の顔色を見ていると、カリスとアムも側に寄ってきて、ウィルの顔を覗き込んだ。三人で、ウィルを覗いていると、突然、彼女に変化が現われ出した!
「あっ! 光り始めましたっ!」
アムがそう言って驚いた! ウィルの進化が始まったのかもしれない。彼女の胸からは、いつもの進化のように青白い光が放たれ、光は大きくなると、辺り一帯が光に包まれてしまった。しかし、直ぐに、光が収まってくると、その光はウィルの胸に吸収されていく。そして……。
「あれ? ウィル?」
どういうことだろう?
ウィルは、さっきと同じく眠っている。しかも、ウィルの様子は、キスをする前と、全然、変わっていないように見える。
「おかしいな?」
女神の祝福が効かなかったのか?
しかし、その時、突然、背後から声がした!
「初めまして、女神様。先ほどのニンフでございます」
三人とも驚いて振り返る。すると、そこには……。
び、ヴィーナス!? で、でも、ちょっと……。
「あ、あ、あ、あのさ……」
本当に……裸だ! しかも、全裸!
「み、見えちゃってるんだけど……ぜ、全部」
目のやり場に困る……。
アムが手で顔を抑えながら、指の間からニンフの姿を覗いていた。すると、ニンフは、「フフフっ」と笑って言った。
「女神様、これが、ニンフの自然な姿なのですよ。お見苦しければ、服を着ましょうか?」
「お、お見苦しいなんて、と、とんでもないっ!」
し、しかし、やっぱ、何処を見て話せばいいか迷っちゃう。
「ちょっとだけ、その……おっぱいと……下の……恥ずかしいところだけ、隠してもらえれば……」
「はい。そのように」
ニンフは、そう言うと、ニコッと笑った。次の瞬間、彼女の姿が服を着た姿に変わった。これで、ニンフをよく観察することができる。
ちょっと、残念……。
しかし、やっぱり、よく見ると、本当に美しい女性だ。彼女の髪は艶のあるピンク色で艶があり、背中まで長く、サラサラと揺れて、頭には緑の葉っぱの冠を乗せている。瞳はブルーで、目鼻立ちがはっきりとし、唇は艶のあるピンク色。豊満な身体つきの正統派美人で慈愛に満ちた大人の女性だ。
歳は、二十くらいに見えるね?
服装は、薄水色のギリシャ風の衣装を着ており、ノースリーブになった肩から腕、そして、首元からは、透けるような肌が見えている。そして、たっぷりとしたバストは、下着を着けていないのかして、衣装の上からでもその柔らかさが伝わってくる。
お腹の下が熱くなってきそう。
彼女の柔らかな雰囲気と、衣装のゆったりとしたひだがとても調和していて、本当にヴィーナスのようだ。それにしても、ヴィースは、さっきから何も言わない。
「ちょっと、ヴィース。彼女のお尻が目の前にあったと思うけど」
するとヴィースが言った。
「妖精の尻など、興味はありません」
まったく、ヴィースめ。僕の裸には恥ずかしそうにしていたくせに。
ニンフに促されてもう一度さっきの位置に座ると、彼女はウィルの横に腰かけた。
「どうやら、女神様のおかげで、私と王女の魂は適切に分離できました。私も、元の姿にもどることができたようです」
「じゃぁ、ウィルは、王女ってこと?」
彼女に尋ねると、彼女は言った。
「はい。ですが、王女の魂は、一度、妖精のエネルギーと交わったために、元の純粋な魂ではございません……」
ニンフの話では、王女の魂は、長年に渡ってニンフと同化していたために、妖精のエネルギーを帯びていると言った。さらに……。
「……たった今、女神様のエネルギーを頂戴し、私は元の妖精に、そして、彼女は、私と同じニンフへと進化いたしましたわ」
「えぇ~~~っ! ど、どうしよう? それなら、王女の魂はどうなちゃうの!?」
目の前のニンフは、「フフフッ」と笑っている。すると、ウィルが目を覚まして起き上がった。
「ウィル、大丈夫?」
ウィルは、頭をぐるっと回し、辺りの様子を確認してから、僕を見た。そして、一言だけ呟くように言った。
「女神様……」
「ウィル、僕が分かるの?」
ウィルに尋ねると、彼女は、「はい」と言ったところで、横に座っているニンフと目が合い、ハッとなった。
「誰……?」
すると、ニンフが言った。
「あなたが呼び出した妖精ですよ。王女。ようやく目が覚めましたね」
「王女?」
ウィルは、ニンフの言ったことに首を傾げてニンフの顔を見つめた。ニンフもしばらくウィルを見つめると、「なるほど」と言って姿勢を正し、こちらに向き直った。
「女神様、申し遅れましたが……私、妖精国の代表を務めておりまして、マブと申します」
ーーーー
妖精女王マブ
AI生成画像