表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
102/148

101-6-6_妖精王国の女王(挿絵あり)

 カリスは、「直ぐに箱を取ってまいります」と言って転移すると、ものの三分も掛からない内に、箱を抱えて現れた。そして、カリスは、濡れた箱を金属製の白い丸テーブルの上に置いた。


「早かったね」


「はい。レピ湖の湖底は庭ですから」


「確かに」


 カリスが持ってきた箱は、片方の手で持つことができる程度の大きさだ。ニンフに映像で見せられた時は、単に黒い箱にしか見えていなかったけれど、実物を見ると、かなり上等の箱のようだ。箱の角には金属の飾りがあり、鍵穴も装飾された金属でできている。


「宝石箱のようだね」


 装飾は金で出来ているんだろうか? 小さな箱だから、見た目は簡単に開いてしまいそうな箱だけど……。


 しかし、その箱からは、触られる事を拒んでいるようなエネルギーが滲み出ている。


「力ずくでは開く気配がしないな。鍵が無いと開けれないんじゃないの? カリス、これカニバサミで何とかなりそう?」


「私には手に負えません」


「ヴィースは?」


「無理でしょう」


「じゃぁ……」


 アムには聞くまでもないか。


 そう思ったら、アムが蓋の隙間に爪を入れて箱と格闘し出した。しかし、アムは、それでは無理だとわかったようだ。そして……。


「アム、箱をかじらないのっ!」


 やっぱり山犬だ。最後の手段は口のようだ。ニンフは、みんなが箱を力ずくでは箱を開ける事が出来ないと分かるまで、ひとしきり間を取ってくれると、改めて言った。


「女神様。お願いでございます。この箱の呪いを解き、王女の魂を解放してもらえないでしょうか?」


「そういうことだね」


 言いたい事は分かる。でも、ちょっと心に引っ掛かるところもある。


「う~ん、でも、もし、解呪できたとしても、この中に入っている秘宝は、また王族の跡目争いの道具になるかもしれないんでしょ……」


 そんな事になれば、自らの命を掛けてまで封印しようとした王女の思いを、蔑ろにしてしまう事になってしまう。


 前を見ると、箱の向こうにはウィルがいる。彼女は、手を膝の上に乗せて肩を寄せ、おとなしく座っている。彼女の小さな体が、なおさら小さく見えた。虚ろな目つきで黙り込んでいるウィルを見ていると、何だかせつない気持ちになってくる。


 自らの魂とともに永遠の封印を願うとは、よっぽど辛かったんだろうね……。


 まだ、少女だったのに自ら命を絶ってしまった王女。妖精ニンフと融合したとは言え、王女は、ウィル・オ・ウィスプになって、誰にも発見されず、一人、彷徨いつづけていたのかもしれない。ニンフはそんな王女をずっと見守ってきたようだ。


 何とかやってみるか。わざわざ僕に会いたいと言ってくれたのだから。


「分かったよ。とりあえず、この箱の封印を解呪してみよう」


 そう言うと、ニンフから感謝の念が伝わってきた。


 うわぁっ! 何、この色気! ちょっと、裸のヴィーナスを想像しちゃった……。ニンフって、どんな恰好してるの? 早く、妖精ニンフに会ってみたい! よし、何んとしても箱を開けるぞ!


 とにかく箱と向き合ってみる。箱を上から眺めたり、手に取ってひっくり返したりした。箱を動かすと、中に何か入っているような音がする。しかし、なかなかやっかいな箱だ。箱を見つめていると、細い糸がごちゃごちゃと絡んでいるようなイメージが見えて、どこから手を付ければいいのか取っ掛かりが掴めない。


「難解だね、この呪いは」


 箱を睨んで悩んでいると、カリスがサラッと言った。


「ウィルにキスをしていただくというのはいかがでしょう?」


「えっ、女神の祝福をするって言うの? ウィルに? 何で?」


 カリスの思い付きがいまいちピンと来ない。すると、カリスはまたサラリと言った。


「はい。王女の呪いは心の傷ですから」


 はっ! 


「なるほど、心の傷か……」


 確かにそうだ。これは、王女の心の傷がもたらしたものだ。ニンフは、王女の気持ちに寄り添うあまり王女の魂と融合してしまった。


 やってみる価値はありそうだな。


「試してみるか」


 ウィルの側に寄ると、ウィルが僕を見た。彼女は寂しそうな眼をしている。 


「ウィル。ちょっといいかな?」


 そう言って、ウィルの頬を両手で持って顔を近づけた。彼女は体温が低いのかして、肌に触ると少し冷たい。そして、ウィルの唇に、自分の唇を寄せていく……。

 

「チュッ!」


「んっ!」


 ウィルが、ちょっと驚いたように声を上げたが、彼女は何をされたのか分かっていないように、キョトンとした顔をしている。


 ゴメンね。大丈夫だから。


 彼女の唇も冷たく、そして……柔らかい。十秒ほどキスをして、その後、ウィルから離れた。すると、ウィルは、目を閉じて眠り始めてしまった。


「これで、様子を見てみよう」


 ウィルをそっとソファに横にして、彼女の顔色を見ていると、カリスとアムも側に寄ってきて、ウィルの顔を覗き込んだ。三人で、ウィルを覗いていると、突然、彼女に変化が現われ出した!


「あっ! 光り始めましたっ!」


 アムがそう言って驚いた! ウィルの進化が始まったのかもしれない。彼女の胸からは、いつもの進化のように青白い光が放たれ、光は大きくなると、辺り一帯が光に包まれてしまった。しかし、直ぐに、光が収まってくると、その光はウィルの胸に吸収されていく。そして……。


「あれ? ウィル?」


 どういうことだろう?


 ウィルは、さっきと同じく眠っている。しかも、ウィルの様子は、キスをする前と、全然、変わっていないように見える。


「おかしいな?」


 女神の祝福が効かなかったのか?


 しかし、その時、突然、背後から声がした!


「初めまして、女神様。先ほどのニンフでございます」


 三人とも驚いて振り返る。すると、そこには……。


 び、ヴィーナス!? で、でも、ちょっと……。


「あ、あ、あ、あのさ……」


 本当に……裸だ! しかも、全裸!


「み、見えちゃってるんだけど……ぜ、全部」


 目のやり場に困る……。


 アムが手で顔を抑えながら、指の間からニンフの姿を覗いていた。すると、ニンフは、「フフフっ」と笑って言った。


「女神様、これが、ニンフの自然な姿なのですよ。お見苦しければ、服を着ましょうか?」


「お、お見苦しいなんて、と、とんでもないっ!」


 し、しかし、やっぱ、何処を見て話せばいいか迷っちゃう。


「ちょっとだけ、その……おっぱいと……下の……恥ずかしいところだけ、隠してもらえれば……」


「はい。そのように」


 ニンフは、そう言うと、ニコッと笑った。次の瞬間、彼女の姿が服を着た姿に変わった。これで、ニンフをよく観察することができる。


 ちょっと、残念……。


 しかし、やっぱり、よく見ると、本当に美しい女性だ。彼女の髪は艶のあるピンク色で艶があり、背中まで長く、サラサラと揺れて、頭には緑の葉っぱの冠を乗せている。瞳はブルーで、目鼻立ちがはっきりとし、唇は艶のあるピンク色。豊満な身体つきの正統派美人で慈愛に満ちた大人の女性だ。


 歳は、二十くらいに見えるね?


 服装は、薄水色のギリシャ風の衣装を着ており、ノースリーブになった肩から腕、そして、首元からは、透けるような肌が見えている。そして、たっぷりとしたバストは、下着を着けていないのかして、衣装の上からでもその柔らかさが伝わってくる。


 お腹の下が熱くなってきそう。


 彼女の柔らかな雰囲気と、衣装のゆったりとしたひだがとても調和していて、本当にヴィーナスのようだ。それにしても、ヴィースは、さっきから何も言わない。


「ちょっと、ヴィース。彼女のお尻が目の前にあったと思うけど」


 するとヴィースが言った。


「妖精の尻など、興味はありません」


 まったく、ヴィースめ。僕の裸には恥ずかしそうにしていたくせに。

 

 ニンフに促されてもう一度さっきの位置に座ると、彼女はウィルの横に腰かけた。 


「どうやら、女神様のおかげで、私と王女の魂は適切に分離できました。私も、元の姿にもどることができたようです」


「じゃぁ、ウィルは、王女ってこと?」


 彼女に尋ねると、彼女は言った。


「はい。ですが、王女の魂は、一度、妖精のエネルギーと交わったために、元の純粋な魂ではございません……」


 ニンフの話では、王女の魂は、長年に渡ってニンフと同化していたために、妖精のエネルギーを帯びていると言った。さらに……。


「……たった今、女神様のエネルギーを頂戴し、私は元の妖精に、そして、彼女は、私と同じニンフへと進化いたしましたわ」


「えぇ~~~っ! ど、どうしよう? それなら、王女の魂はどうなちゃうの!?」


 目の前のニンフは、「フフフッ」と笑っている。すると、ウィルが目を覚まして起き上がった。


「ウィル、大丈夫?」


 ウィルは、頭をぐるっと回し、辺りの様子を確認してから、僕を見た。そして、一言だけ呟くように言った。


「女神様……」


「ウィル、僕が分かるの?」


 ウィルに尋ねると、彼女は、「はい」と言ったところで、横に座っているニンフと目が合い、ハッとなった。


「誰……?」


 すると、ニンフが言った。


「あなたが呼び出した妖精ですよ。王女。ようやく目が覚めましたね」


「王女?」


 ウィルは、ニンフの言ったことに首を傾げてニンフの顔を見つめた。ニンフもしばらくウィルを見つめると、「なるほど」と言って姿勢を正し、こちらに向き直った。


「女神様、申し遅れましたが……私、妖精国の代表を務めておりまして、マブと申します」


ーーーー

挿絵(By みてみん)

妖精女王マブ

AI生成画像

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ