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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クールな幼馴染は、俺と2人きりになるとデレが隠せない

俺の名前は秋月優真あきづき ゆうま。蘆花学園高等部の二年生。見た目も性格も平均点な“普通”の俺だが、幼馴染みだけは規格外だ。


 小田切沙耶――長身、しなやかな手足、白い肌に腰まで届く艶やかな黒髪。制服のジャケットをきちんと着ていても胸の輪郭が隠しきれず、その存在感は男子のみならず女子からも視線を集める。だけど態度は徹底したクール。俺にも敬語のまま、感情は表に滅多に出さない。昔からちょっと不思議なやつだった。




-----




 四月、新学期の空気はどこかまだ冷たく、校門で白い息を吐きながら通学路を歩く。


 角を曲がると、いつものように沙耶が立っていた。

 制服のネクタイは隙なく整えられている。凛とした立ち姿に、陽射しが反射している。


「おはようございます、秋月くん」


 毎朝、一秒たりとも遅れず挨拶をくれるその声。切れ長の瞳がこちらに小さく揺れる。


「お、おう、おはよう。今日も早いな」


「当然です。……登校は余裕をもって行動するべきです」


 俺が顔をこすると、沙耶はため息混じりにこちらへ歩み寄ってくる。そして、無表情のまま俺のシャツの裾をそっと直す。細い指先で軽く胸元をなぞるように服を直されると、なぜか変に意識してしまう。


「……ありがとうございます。沙耶って、オカン気質だな」


「勘違いなさらないでください。私が落ち着かないだけです」


「え? なにが?」


「制服の乱れが。秋月くんの、です」


 少しだけ左の眉を上げて俺を見るその表情――ツンけど妙に優しさを感じる。

 今ひとつ落ち着かない気持ちで、二人並んで学校への坂道を登る。




 途中、クラスメイトの杉原響が合流した。響は細見で小柄、ショートカットの明るい色の髪が活発そうに揺れる。元バスケ部らしく、太腿やふくらはぎは引き締まり、動作も元気そのもの。


「優真ーっ、沙耶は今日も“鉄壁”だね!今朝も門番みたいに待ち構えてた?」


「そういう言い方はやめてください、杉原さん」


 皮肉っぽくも響に優しい沙耶。俺にも敬語のままだが、響や他人にも礼儀は絶対に崩さない。


「はいはい、朝から美人に囲まれて幸せそうだな、秋月」


「いや、そんなこと……」


「否定しないんだ?」


「うるさい」


 沙耶は俺の前を少し早足で歩き、見えない微笑みを隠すように軽く首を振った。

 その後ろ姿、制服越しでも腰から胸へのラインが無駄に色気を感じさせる。



----




 昇降口で、もうひとりが手を振った。

 藤堂詩帆。少しぽっちゃりめで、控えめな丸顔と安らかな笑顔が特徴。長いミルクティ色の髪、ふっくらとしたバストと柔らかそうなウエストは同性にも親しまれている。


「おはようございます、みなさん!」


「詩帆さん、おはようございます」


「秋月くん、きょうは忘れ物なし?」


「……カバンも靴も大丈夫、だ多分」


「おっと、チェック抜き打ち! ……あー、優真、上履き逆だよ」


 響が爆笑し、沙耶は呆れ顔で、ほら――と俺の履き替えを手伝う。


「秋月くん、不注意なままでは、いずれ大きな怪我につながりますよ」


「あはは……気を付ける」


 今考えると、この何気ないやりとりこそ、俺の特権だった気がする。




----




 授業が始まり、沙耶は常に最前列。俺たちは並んで座ることが多い。


「秋月くん、この問題、先にノートに準備しておいてください」


 授業中も、沙耶は俺が困っていれば当たり前の顔でノートを差し出す。その手の甲は白く、指は長くきれいだ。


「えっと……これ、合ってる?」


「正解です。珍しいですね」


「なんだよ、“珍しい”って」


 しれっと告げられる皮肉。でも悪い気はしない。


 昼休みには響と詩帆が寄ってきて、話題は昨日のTVか昼ごはんの奪い合いになる。


「沙耶は絶対パン譲らないよなー」


「必要分しか持参していません。……秋月くん、食べますか?」


「いや、俺こそもらいっぱなしだし……」


「いいえ、多いので。どうぞ」


 ポーカーフェイスのまま、俺にパンを差し出す。指先が触れ合いそうな距離――ドキドキするのは俺だけか。


「こういうとこ、沙耶だけずるい」


「あら、それは嫉妬ですか?響さん」


「ちょ、詩帆まで……」


 柔らかい女子とのじゃれ合いと、鉄壁クールな沙耶。俺はその狭間でどこか誇らしくも居心地の良い昼の時間を過ごす。




 放課後。掃除当番を沙耶と響が担当。


「秋月くん、床を拭く時に脚を高く上げすぎです。見えそうです」


「いや、男子は……あ、ごめん」


 沙耶は意外と面倒見が良い。俺が雑巾を上手く絞れなければ、無言でサポートに入る。そのたびに彼女の豊かな胸元がちらっと俺の目の端をかすめ、顔が赤くなる。


「……顔が熱いですね。大丈夫ですか?」


「な、なんでもない。水、冷たいからじゃないか、たぶん」


「……そうですか」


 沙耶の声は少し和む。


 響が「秋月、顔テッカテカだぞ!」と茶化し、詩帆が「男子高生って可愛い」と笑う。


 いつもどおりの日常。明日もあさっても当然に続くはずの、ありふれた放課後。



 教室を出て、文房具を買い足そうと一階の購買を目指す俺。

 スマホに家族からの着信――つい画面を覗いて、足が止まる。


 階段の手前で、響と詩帆がまだ教室に戻っていくのが見えた。


「秋月くん?」


 すぐ後ろ、沙耶が静かに声をかけてきていた。


「ああ、すぐ行く。……沙耶も、この後用事?」


「……いえ。ご一緒します。危なっかしいので」


「そんな心配性な沙耶が――うわっ!」


 言いかけた瞬間、足もとで床がツルリと滑った。手にした紙袋が宙に浮き、俺の身体がバランスを失う。


「優真――っ!!」


 沙耶の叫び。

 その声と同時に、視界が真っ白に飛んだ。




-----




目を覚ましたら、白い天井が俺を見下ろしていた。どこか静かで、清潔な匂いがする。


 腕には点滴の管。頭がガンガン痛む。


 ぼんやり見回すと、病室の椅子に沙耶がいた。制服のまま、姿勢を崩さず、艶やかな黒髪をきれいにまとめている。瞳の奥に赤くにじむもの――多分、眠れていないのだろう。


「秋月くん……ご気分はいかがですか」


「……沙耶? あ、これ、俺……やっちゃった感じ?」


「……はい。階段から落ちて、頭を打たれました。もう二日、眠りっぱなしだったんですよ。」


「マジか……ごめん、心配かけて」


 その瞬間、沙耶の顔が「きっ」と引き締まるかと思いきや、すぐに緩んだ。今まで見たこともない、ふんわりとした表情で僕を見る。


「……本当に。……目が覚めてくださって、よかったです。」


 敬語なのに、声がやたら優しい。何より、すぐそばまで椅子を引き寄せ、俺の手首をそっと包む。その手があたたかい。


「沙耶、近い……」


「近くにいても、よろしいですか」


「……え、いや、嫌じゃないけど」


 沙耶はかすかに嬉しそうに微笑む。普段なら絶対にしない表情。


「これからは、私の目の届くところで生活してください」


「……え、ええと?」


「何かあった時、私がすぐに対応できるように……。それ以外は、不安です」


 瞳が俺にじっと向けられる。さっきまでのクールがどこかに消えていた。大きな胸が制服の上から分かるほど上下し、それだけで俺の心臓も上下する。


「ご飯は召し上がりましたか?」


「いや、まだだけど」


「……あたため直してきます。少し、待っていてくださいね」


 すぐに立ち上がり、病院食をそっと手早く温めてくれる。皿を手に戻ってきて、手の甲を拭いてから「はい、あーんしてください」と言う。


「ちょ、そこまでしなくても」


「遠慮なさらないで。……私があげたいんです」


 まるで恋人みたいな声色。響や詩帆が見たら腰を抜かすかもしれない。




----



 

「おい優真、大丈夫かっ!?お、沙耶……うわなんか空気違う!?」


 響が駆け込む。スポーティな短パンに引き締まった脚。詩帆も続く、柔らかなニットワンピースのラインが優しげで、ふんわりとしたボディライン。


「秋月くん、安心しました。本当によかった……沙耶さん、顔が、すごく……」


「なんでしょうか?」


「……柔らかいです」


 響が苦笑い。「俺んちの姉よりもデレてるよ、ねぇ詩帆!」


「ですね~……秋月くん、幸せ者ですね」


 沙耶は恥ずかしそうに俯くが、手はきっちり俺の枕元から離れない。




-----




 夜。友人が帰り、病室に二人だけ。

 静かなカーテンの向こう、沙耶がベッドのそばに寄り添う。制服から私服に着替えた彼女は薄手のカーディガンで胸元がやや強調され、髪も珍しく軽く垂らしている。


「秋月くん……本当に、今日だけ、甘えても……いいですか?」


「……え?」


 沙耶はためらいなく俺の手を握った。ぬくもりが、じんわり伝わる。


「怪我をしたと聞いたとき……胸が、潰れそうで。……秋月く――じゃない、ごめんなさい、癖です。優真くんが、いなくなったら、わたし……私……」


 涙がこぼれそうな微笑。でも声はまだ、ぎりぎり敬語のまま。


「う、うん!絶対どこにも行かないから!」


「……約束ですよ?」


 沙耶は目尻を湿らせて、俺の額にそっと手を当てる。すっと体が近づき、俺の頬に柔らかな髪とその大きな胸の温もりがふんわり伝わってくる。


「好きです、優真くん。……前から、ずっと」


「え……」


「敬語しかできません。でも、好きな気持ちは……敬語では隠しきれないんです」


 俺まで変な汗が浮かんだ。

 気が付くと、沙耶はずっとベッドに寄り添い、俺の髪や頬を撫でてくれる。


「これから、毎日お見舞いに来ます。離れていたくありません」


「ありがとう。……うれしいよ、マジで」


 沙耶は微笑んだまま、俺の隣に腰掛け、朝までそっと手を握っていてくれた。



「もう、絶対無理はさせません」


「ま、任せるよ……」


「……秋月くんが無事なら、それでいいんです」


 大きな胸に顔を預けたら、彼女は何も言わずに頭を撫でてくれる。


「次、どこにも行かないでくださいね。独りにしないでください、お願いです」


「絶対、約束する俺も」


 それからしばらく、沙耶は、キリリとした敬語のまま、俺を溺れるほど甘やかしてくれた――。

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