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第二話:目覚め、新たな人

 

 誰かがドアを開ける音で目を覚ました。

 私はまた眠ってしまったらしい。どうにも眠気が取れず、出来ることならば二度寝してしまいたかった。

 それにしても、ここはどこなのだろう。少なくともここは室内であの草原ではないようだ。

 羽毛の布団は温かく洗い立てのような綿のシーツは肌に心地好い。

 

 

「起きていますか?」

 

 

 あの青年の声ではない、鈴のような少女の声。

 咄嗟に狸寝入りをしてしまう私に軽い足音が近付いた。

 

 

「寝てるふりなんてなさらないでください」

 

 

 クスクスと笑いをまぜながら言われて、モゾモゾとベッドから顔を出した。

 

 

「おはようございます、アリスさん」

 

 

 ―――可愛い人。

 パッチリ二重の茶色の瞳、背中までかかるふわふわとカールのかかった髪の毛、上品で清楚なワンピースで包まれている華奢な体。歳は私と同じくらいだろうか。

 

 

「初めまして。私は三月兎のアンジェリーナ・バラティエと言います。アンジェとお呼びください」

 

「三月兎……?」

 

「ええ」

 

 

 首を傾げて笑う彼女に見とれて、私ははしたなくベッドに座ったまま顔を赤らめた。

 

 

「……ここどこ……?」

 

 

 思わず小声になってしまう。

 

 

「ここはリナの家です」

 

「あっ、アリス起きたんですね」

 

 

 アンジェの言葉を遮るようにして聞こえたのは、彼の声。

 彼の自宅だけあって、堅苦しそうだったベストは脱がれ、ネクタイとワイシャツだけになっている。

 弾んだ声をあげて部屋に入ってきた彼に対して心なしか、顔が紅潮した気がする。

 ……誰でもこんな美青年が自分の近くにしたらドキドキするだろうな。

 

 

「リナ! いいところに来たわ。貴方、アリスさんにまだお名前を言ってないのね?」

 

「ええ。自己紹介のタイミングを逃してしまって。それよりリナって呼ばないでくださいよ。女の子みたいでしょう?」

 

「アリス、改めて自己紹介を。僕は白兎のリナルド・カヴールと言います」

 

「白兎……」

 

 

 よくわからない単語も気になったが、それよりも気になったのは彼らの耳だった。

 触ったらどんな感触がするんだろう……。

 純粋な好奇心をそのままに私はベッドから降りてリナルドと名乗った彼に近づく。

 

 むぎゅ

 

 頭をたれていた彼の頭に生えた耳に触れる。

 あ、意外と柔らかくて肌さわりもいい。

 

 

「あ、アリス?」

 

「え?」

 

 

 夢中になって触っていると、面食らったような声が聞こえた。

 

 

「あの、顔が近いです」

 

「あああ! ごめんなさい!」

 

 

 慌て後ずさる。

 彼は苦笑いを浮かべて耳を確認するように触れた。

 申し訳なくて頭を上げられないでいると、彼が少しトーンを落とした声で言葉を紡いだ。

 

 

「ところで……貴女は何も聞かないんですね」

 

「え?」

 

「普通は何故耳が生えてるのか、ここはどこか、どうやってここに来たのか。そんなことを矢継ぎ早に聞くアリスが多いのですが……。どうやら貴女は違うみたいです」

 

「……え、と。聞きたいことならいっぱいあるけど、2人は悪い人じゃなさそうだから……」

 

 

 と言うよりは聞くのを忘れていただけ、と小さく付け足すと2人は口元に手を当てて目を細める。

 そして、近くにあった椅子をベッドに近付けアンジェにも座るように促すと彼自身も豪奢な作りの椅子に深く腰掛け、緩やかな動作で足を組んだ。

 

 私はそんな2人に目を向け、そして周りをじっくりと観察してみる。

 漫画とか映画に出てくる貴族が住んでいるような部屋のつくりだった。

 ベッドには天井がついていて、絢爛で高級そうな家具の数々。床にはカーペットが敷いてある。

 広さは私の部屋の2倍はあるだろうか。

 

 何で私、こんなに優遇されているんだろう。

 彼らにしてみれば、ただの迷子としか認識されていないはずだ。

 ……それにしてみれば、私の名前を知っていたりよく分からない点も多い。

 

 聞くしかないのかなあ。

 でも、すごく嫌な予感を感じるのだ。このまま全てを聞いてしまったら取り返しのつかなくなるような、そんな感じがする。できることなら、もう帰ってしまいたい。

 そして普通の生活に戻ってしまいたい。

 

 だけど、後にはもう引けないのだろう。

 彼らが私を見つめる、その瞳がそれを証明しているように見えた。

 ベッドに戻り、再び腰を落ち着かせた私は、ばくばする心臓に胸を当てて落ち着かせるように深呼吸を繰り返し、彼らをようやっと見つめ返した。

 私の準備ができるのを待っていたのだろうか。

 彼は見計らったように、口火を切りだす。

 

 

「さあ、説明しましょうか。僕らのこと。貴女のことを」

 

 

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