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第一話:始まりの足音

こんにちは。初めまして。珱弥と言います。

3人の共同作品となっていますが、文章構成は大体私が担当です∀

“常闇の国のアリス”、頑張って更新するのでよろしくお願いします!

 

 ここは永遠の闇の中。

 青々しい草も透明な川も清々しい空も。

 全てが全て闇色に染まる。

 

 

 

 アリスだけを希望の糧に。

 アリスだけが光だと強く信じて。

 

 

 

 今日も住民たちは暗闇の中でじっと身を潜め、待っているのです。

 15回目のアリスの生まれ変わりがこの地へ来ることを。

 

 

 

 

 闇に塗れたこの国を人々はこう言います。

 

 

 

 常闇の国、と───。

 

 

 

 

 

 *†*†*†*†*

 

 

「……んぅ」

 

 

 寝起き気分で目を開けると、そこには知らない土地が広がっていた。

 背の高い青々とした草に囲まれ、草で肌を切らないようにと誰かが気を遣ってくれたのか、身体の下には柔らかな布が敷いてある。

 

 

(ここどこ……?)

 

 

 パジャマ代わりの着古したワンピースに足は素足のまま。私はいつも通りに自分のベッドで安らかな眠りについていたはずだ。

 夢遊病患者になった覚えはないが、自分でここまできたのだろうか。

 たらり、と冷や汗が頬を伝って、猛烈な不安感が襲う。ただでさえ、方向音痴なのにこんな意味のわからない場所に来たら家に帰れなくなってしまう。

 

 

「……それでも、いいか」

 

 

 目を伏せて小さく呟くと、明るかった日差しの下にふっと影が差した。

 

 

「何が、“それでもいい”なんでしょう? 僕に教えてくれませんか?」

 

 

 穏やかな、声。

 それにつられて顔をあげると爽やかな笑顔を端正な顔に灯した青年がいた。

 艶があるストレートな黒髪。真っ白な糊のきいたワイシャツ、黒いネクタイ、ベスト、スラックス。

 何よりも私の目を引いたのは頭から生えた真っ白な兎の耳と、鮮やかな緑色と深い赤色のオッドアイだった。

 

 

「だれ?」

 

 

 人間じゃない。それは見ればわかる。

 私の問いかけに青年は曖昧に笑う。それは自分をどう表わせば良いのか思いあぐねているようにも見えた。

 

 

「真っ白なきれいな肌。透き通るような碧色の瞳。噂通りですね、三条有栖。貴女は、僕たちのアリスですか?」

 

 

 彼は結局、私の質問には答えてくれなかった。

 その変わり投げかけられたのは、赤面してしまうような言葉と甘い、甘い声。

 言葉の意味を理解するよりも早く、その声音に魅せられて私は一瞬くらりと眩暈を起こした。

 倒れそうな私の背中を腕で支え、彼は手元の手帳に目を落とす。

 

 

「うぶで恥ずかしがり屋。うん、性格も一致しています。さあ、行きましょうかアリス」

 

 

 ぐい、とゆっくり立たされその流れで当然のように姫だっこをする彼。

 もう抵抗するとかしないとかいうよりも強引な彼の勢いにただ流されているだけの私。

 これからどうなるのだろう。正体のわからない青年に自分の身を任せてもいいのか、と考えていたら鬱々とした気分になってしまった。

 

 

「や、怖い。行きたくない」

 

 

 やっとの思いで吐き出した声は細々とした何とも頼りないものだった。

 ただでさえ、迷子のような状況なのに耳を生やした青年、噛み合わない会話。そんな異次元のような事態に私はいよいよ泣きたくなって顔を下に向ける。

 

 

「アリス泣いているんですか?」

 

 

 さくさくと小気味良い音を立てて歩いていた青年は私の異変に気がついたようだ。

 戸惑い気味の声が上から降ってくる。

 

 

「……困りましたね。泣かせるつもりはなかったのですが」

 

「おろして……」

 

「でもそうしてしまうと、貴女の足が草で切れてしまいますよ。素足で森を歩くのは危険です」

 

 

 青年の声は本当に怪我の心配をしているように聞こえた。

 

 

「それに、ここで貴女を離してしまったら道に迷ってしまうかもしれませんから。どうか安全な場所につくまで我慢してもらえませんか?」

 

「安全?」

 

「ええ、僕は安全なところへ届けるために今こうして歩いているんですよ。まだ着くまで時間がかかります」

 

 

 嘘かもしれないとわかっていても私は妙な安心感を得られずにはいられなかった。

 彼の声はそう感じさせるだけの真摯さがあって、それに同調してしまうのだ。

 それに、怪しい人かもしれないけれど悪い人ではなさそうだ。とりあえず安全なところまで連れて行ってもらってから、帰る道を教えてもらおう。

 

 

「アリス、疲れたでしょう? 少し眠っていてください。貴女が自分の運命を悟ってしまえば心地よい眠りはそう訪れませんから」

 

 

 彼は私が寝やすいように、お姫様だっこからおんぶに抱え直して再度足規則正しく動かし始める。

 その音と周りの木々のざわめきにつられるようにして、私は無防備に眠りへと落ちて行った。

 

 

 

 

 

 後に、この時のことを強く後悔することになるとは知らずに。

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