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8.大ウケしてしまった青年

 煉斗は、新葉が振ったという野島圭亮(のじまけいすけ)なる男子生徒について少しばかり思うところがあり、改めて調べてみた。

 圭亮はR高校三年E組の17歳。

 スクールカースト最上位に君臨する校内三大イケメンのひとりで、女癖が相当に悪いらしい。

 過去には麗菜とも付き合っていたこともあるらしいが、その当時圭亮は三股をかけた浮気状態だったとのことで、それが原因で麗菜とも破局している。

 この破局が去年の暮れの話だった様だが、圭亮はその後も何人かの女子生徒をとっかえひっかえしながら次々と食い物にしていた様だ。

 そして今年の春先、彼は新葉にも手を出そうとしたものの、彼女ははっきりと拒絶したとのこと。

 圭亮としては初めて自分になびかなかった女子だった為か相当しつこく付き纏ったらしいが、最後は頑として受け入れない新葉の鉄壁の意思に屈して、結局諦めたとか。


(中々強烈なキャラクターやな)


 自宅のワンルームマンション内で作業用ノートPC上に圭亮のプロフィールを表示しながら、煉斗は何ともいえぬ苦笑を滲ませていた。

 これだけ女癖が悪いにも関わらず、多くの女子生徒が彼の追っかけをしているというのだから、その美麗な顔立ちは品行の悪さを補って余りある程に秀逸なのだろう。

 ところがこの圭亮が最近、妙な動きを見せている。

 煉斗がRソーシャルのメッセージデータベースを軽く漁ってみたところ、どうやら彼は麗菜とよりを戻そうとしているらしい。


(ふ~ん……まぁ、元気なこって)


 データベースから吸い上げたメッセージデータをつらつらと眺めていた煉斗だったが、そのうち飽きてきてしまった為、圭亮個人に対する調査は一旦打ち切ることにした。

 しかしここ最近、麗菜がところ構わずやたらと声をかけてくるから、もしかすると火の粉が降りかかってくる可能性もある。

 が、その時はその時だ。

 そもそも自分と圭亮とでは住んでいる世界が違うから、両者のベクトルが交差することなど、まずあり得ないだろう。


(まぁ、何かあるとしたら上月さん絡みかな……)


 ふとそんな気がした煉斗。

 新葉はその髪型や化粧っけの無さ、そして黒縁眼鏡などが災いして恐ろしい程に地味な印象を与えるが、その顔立ちは非常に整っており、本気で美容や外観に気を遣えば相当な美少女として注目されるに違いない。

 そんな彼女に目を付けたのだから、圭亮という男も案外見る目があるのだろう。

 それ故、再び圭亮が新葉に絡む様になれば、必然的に煉斗周辺も騒がしくなる様な気がした。


(念の為やし、網だけ張っとこか……)


 少しばかり嫌な予感が脳裏を過った煉斗は、幾つかのバッチファイルを組んでネットワーク上に流した。

 これが杞憂に終わってくれれば良いが、もしもそうでなかったなら、後から手を廻そうとしても間に合わなくなる。

 その時に備えての、攻めの一手だった。


◆ ◇ ◆


 そして、翌日。

 この日は特に何事も無く、穏やかな時間を過ごすことが出来た。六限目を終えて帰り支度を整えている段になっても、いつもの日常に変化はない。

 以前と少し違う点があるとすれば、麗菜と新葉が揃って煉斗に声をかけてきて、一緒に帰ろうと申し入れてきたことぐらいであろう。

 尤も、校内きっての美少女と、陰キャを装った隠れ美人が同時に声をかけてきたのだから、ちょっと普通ではないともいえるのだが。

 ところがここで、昨晩の嫌な予感が的中した。

 教室の出入り口が俄かに騒がしくなってきたのだが、幾つもの黄色い歓声を浴びながら、ひとりの男子上級生がずかずかと当たり前の様に足を踏み入れてきたのである。

 野島圭亮だった。

 彼の後ろには数人の取り巻きらしき男子が、ぞろぞろと続いている。

 何となく、面倒臭い雰囲気が漂って来た。

 その圭亮は麗菜の姿を認めると、端正な顔立ちに嫌らしい笑みを浮かべながら一直線に彼女の前へと歩を寄せてきた。


「え……野島さん……?」


 麗菜は驚きと困惑の色をその美貌に乗せて、愕然と凍り付いている。

 一方、新葉も露骨な程に険しい感情を浮かべて、その場に立ち尽くしてしまっていた。


「よぉ麗菜ァ。オマエ、こないだオトコと別れたんだってなぁ……丁度オレも、今ァ手頃なオンナが居ねぇんだよなぁ……なぁ、どうだ? またオレが遊んでやっからさぁ、戻って来いよ」

「え……な、何いってんですか! あんなに酷いことしておいて、今更どういうつもりなんですか!」


 麗菜は僅かに気圧されながらも、強い調子でいい返した。

 ところが圭亮はそんな麗菜の抗議などまるで聞こえていない様子で、今度はすぐ近くで凍り付いている新葉にも端正な顔を向けて嬉しそうな笑みを浮かべた。


「お……何だよ、オマエも居たのかよ。こいつぁ丁度イイな……オマエら、纏めて遊んでやるからさ、オレのいうこと聞きなって。イイ思い、させてやっからさ」


 圭亮の流れる様な軽々しい台詞の連続に、煉斗は内心で笑いを堪えるのに必死だった。


(うわぁ……今どき、こんなオモロイこという奴()るんやぁ……最高やなぁ。いつの時代やねん)


 煉斗にいわせれば、圭亮の如きチャラ過ぎる軽薄男は、最早天然記念物級の骨董品だった。

 もう平成の時代にすっかり絶滅したかと思っていたが、まさか目の前でこんな風に披露してくれるとは、思ってもみなかった。

 しかし麗菜と新葉は心底迷惑そうに、ただひたすらその美貌を強張らせている。

 当人達にとっては、堪ったものではないのだろう。


(まぁ……あんまり酷過ぎるんなら、助けてやらんこともないけど……)


 しかしまずは、当人達のお手並み拝見だ。

 煉斗は敢えて他人を装い、粛々と帰り支度を進めた。

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