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10.通いたい女子

 結局、麗菜と新葉がどうしてもお礼に何か奢りたいといって聞かなかった為、駅前のカフェチェーン店へと足を運んだ。

 流石にこの店舗ではプロテインドリンクなど扱っている筈もない為、煉斗は無難に安価なアイスコーヒーを一杯オーダーするにとどめた。


「天笠くん、ホントにそんなのでイイの? もっとお高めなの、イっちゃってくれても大丈夫だよ?」

「いやー、全然これで十分です。有り難く頂戴します」


 四人掛けのテーブルに腰を落ち着けながら、煉斗は不安げな表情で覗き込んでくる麗菜にかぶりを振った。

 煉斗としては、こういうのは価格ではなく気持ちだと思っている。

 ふたりの美女は煉斗の為に何かしたい、と思ってくれた。煉斗としては、その想いだけで十分だった。

 と、ここで新葉が自身のミルクティーを受け取ってきたところで、少し席を外した。恐らく化粧室だろう。

 その間に麗菜が、周囲を幾らか警戒する素振りを見せながら声をひそめて問いかけてきた。


「ところで天笠くん……さっき野島さん追い返した時に、ほら、情報戦どうのこうのっていってたじゃない? あれって、皆の前でいっちゃって大丈夫だったの?」

「あー、あれですか」


 煉斗は別段気にする素振りも見せず、小さく肩を竦めた。


「あれぐらいなら全然大丈夫です。要は俺がハッキングしたってことさえ、周りに知られんかったらね」


 後半は同じく、声のトーンを落とした煉斗。

 ハッカーと情報屋は、似て非なるものである。

 今回の一件で煉斗はクラスメイトらに対して相当な情報通であるという印象を持たれたであろうが、まさか自らハッキングしてそれらの情報を仕入れたとは思われていないだろう。

 仮にその様に推測されたとしても、何の証拠もない。

 煉斗自身、ネットワーク上に一切の痕跡を残していないと自負している為、今日の様な一件程度ではまるでびくともしないといい切ることが出来た。


「そうなんだ……やっぱ、凄いひとだったんだねー……わたしてっきり、Rソーシャルだけかと思ってたから……」


 そこへ、新葉が戻ってきた。

 彼女は煉斗と麗菜が顔を寄せて声をひそめ合っていることに、幾らか不思議そうな面持ちを見せている。

 そんな新葉に対し、麗菜は若干ぎこちない笑みを返した。


「うーんとね……天笠くんが物凄い情報通だってことをね、改めて教えて貰ってたとこ」

「……それ、アタシも凄く気になってたの。天笠クンって、どこからあんな情報仕入れてくるの?」


 流石にこれ以上、秘密を拡散する訳にはいかない。

 煉斗は内心で申し訳無いと思いつつ、少しばかり脚色することにした。


「AI使ってます。ネットワーク上に散らばってる特定の情報を仕入れるには、自力でせこせこ検索するよりもよっぽど手早いんで」

「あー、成程……」


 ひとまず新葉は、それで納得してくれた様だ。

 実際、今のAIは非常に優秀で、圭亮の父親がインサイダー取引疑惑で危ない目に遭っているという程度の情報は、ハッカーでなくとも辛うじて収集可能なレベルだ。

 後は掻き集めた情報をデータとしてどの様に紐づけるかという部分であり、煉斗はそれらの紐づけテクニックを日頃から磨き続けているという意味の説明で事無きを得た。


「え……じゃあもしかして、定期考査とか実力テストの予想問題とかも、それで作れる訳?」

「あー、過去問からの傾向分析だけなら、ちょろいモンですよ」


 すると、麗菜と新葉は揃って目を輝かせた。

 その余りの食いつきっぷりに、要らんこといわんかったら良かった、と若干後悔した煉斗。


(まぁ……予想問題ぐらいは別にエエか……)


 必要以上に秘密主義に徹し過ぎると、却って妙な疑いを抱かれることになるかも知れないから、或る程度の譲歩は必要だろう。

 煉斗はこのふたりに対してだけは、割り切ってしまおうと腹を括った。


◆ ◇ ◆


 そしてその帰り道。

 新葉はふたつ隣の駅から通っている為、まず彼女を改札口で見送った。

 次いで麗菜だが、彼女はどういう訳か美柄家の自宅方面には向かわず、煉斗のワンルームマンションについてくる構えを見せていた。


「何で、こっちなんです?」

「んー……今日も何か、晩御飯作ってあげよっかな、なんて……」


 さも当然の様にいってのけた麗菜。

 煉斗は思わず眉間に皺を寄せた。


「いや……そこまでやって貰う道理が分からんのですけど」

「道理とか、そんな難しい話じゃないんだけど……フツーにわたしが、そうしたいだけ、かな」


 ますますもって意味が分からない。

 一日だけならば兎も角、二度目ともなると状況が大いに変わってくる。煉斗は、咄嗟に断る為の理由を頭の中に幾つか並べ立てた。


「あ、御免なさい。俺、今日は道場に行くんで」

「道場? 何か、お稽古事?」


 煉斗は、自身がシュートボクシングを学んでいることを説明した。

 シュートボクシングとは、立ち技系の総合格闘技と解釈すれば大体正しい。

 通常のキックボクシングに加えて、投げ技や立った状態での関節技を取り込んだ格闘技術である。

 煉斗は筋トレを始めた直後からこのシュートボクシングも学ぶ様になっていたのだが、そこまで入れ込んでいる訳でもなく、大体週に二日か三日程度、通っているのみだった。

 そして実をいえばこの日は道場に通う予定は無かったのだが、麗菜の通い妻状態を躱す為に、敢えてスケジュールを変えることにした訳である。


「帰りは道場の皆と飯食って帰るんで」

「あ、そうなんだ……じゃ、また今度ね」


 煉斗は天を仰ぎたい気分だった。

 また今度というひと言――麗菜は、今後もワンルームマンションに押しかけるつもりなのだろうか。

 ちょっと真剣に、対策を考えなければならない。

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