塹壕を掘る
ザクッ…ザクッ……と、ひたすらに土を掘る。
意味など無い。というか、分からない。
上官に命じられたから。それが、軍の規則であるから。
爆弾が落とされ、長年連れ添った相棒が、傍らで、敵の機銃掃射により、体が破壊され、肉塊にされ、宙を舞い、その破片がビチャビチャ…と、私に降り注ごうとも、ザクッ……ザクッ……と、土を掘る手を休めない。決して、休めてはならぬ。
だって、それが命令なのだから。
生き物は、いつか死ぬのである。私の場合は、その時が来るまで、土を掘る…と言うのが、産まれて来た意味であり、責任なのだろう。
そして、私もいつか…他の兵士の様に、敵の銃撃により斃れ、死体となり、骨となる。
きっと、誰かは讃えてくれる。
「勇敢な兵士である」と。
それで、有名になるのは…最終的な、名声を得るのは、塹壕を掘った張本人達ではなく、命令を出した上官である。
だけれども、ひたすらに、土を掘る。敵が攻め辛くなるように。
敵も、土を掘る。私達の猛攻を、食い止める為に。
塹壕は、そうして出来上がる。
塹壕…という形で、有名となる。だって、掘った人達の名前を、一々覚えるだろうか。
エンドロールのようにして流れる功労者達の名前を、視聴者は全て把握するだろうか。いや、しないだろう。
最後に…バンッ、と出てくる、大きな文字の責任者に、目が行く。
責任者になれるのは、ごく僅かである。私も……この広い世界に生まれたというのに……名も無き人として、エンドロールの一部で、終わるのだろうか。
__土は、掘るべきである。それは、絶対だ。
掘った先で、生き残れれば、何かに成れるのだろうか。この先も、あと何十年努力すれば、何かを残せるのだろう。
見えない、作業である。だが、今日も掘らねばなるまい。
ザクッ……ザクッ……と。なにせ、未だ、堀は浅いのだから。