ヴァイキング
「親父、俺はローマに行くぞ」
半裸の大男が、…カンッ、カンッと無表情で薪を割っている。割っては、側に置き、側に置き。
そんな彼の目の前に来て、息子らしき人物が、痩せ馬を横に置き、撫でつつ、唐突に語った。
「ローマに行って……今、俺たちのような蛮族であっても、向こうでは重宝されるらしい」
「それで」
男は、息子の顔をみないまま、薪割りを一時中断しながら「それで」と遮ると
「重宝されて、なんだ、まさか将軍になって陛下を支えるなど、しょうもない夢を語る訳では無いのだろう?」
「ああ、そのまさか、だ」
すると、薪割りの斧を片手に男はガッハッハ、と大笑いしながら
「我が子よ、俺はお前を、そんな軟弱にした覚えは無いぞ」
「目指すのであれば…皇帝だな」
「……親父!…俺には、そんな不忠は出来ん」
「義が無いではないか、俺は、あくまで王の兵士となり、いつしか将軍となり、今危機に瀕しているローマを救いたいのだ」
「……そうか」
だが、息子の決意は固い様で。
皇帝を救うという行動に、少し酔っている節さえある。
「それならば、せめて剣でも持っていかねばな」
「ソレ(斧)に獣皮の服だけでは、馬鹿にされよう」
「要らん」
息子は高々とのたまう。
「陛下を救うという大義と…意志さえあれば、馬鹿にはされぬ、剣や立派な装備などでは"その意志"は示せぬわ!」
「意志……か、どうせ薄れる」
「いや、薄れぬ、忠誠心は薄れぬモノだ」
すると、大男は残念そうな顔で
「お前は歴史を知らんのか、今まで、絶大な権力と地位を持ちつつ、王を裏切らなかった者があろうか」
「そいつらも、最初はお前と同じように清純な気持ちで王に仕えていたのだろうよ」
「……何を…俺が、その最初の人になる」
「いや、なれぬ」
特に、お前では。と大男は締めくくると、またカコーン、カコン、と薪割りの作業へと戻る。
「ふんっ、親父には分からぬさ」
息子はそう怒りながら痩せ馬に跨ると、フラフラ…と南へ……ローマへと立った。
素早い別れである。
「……あぁ、神よ…どうか、我が子に加護が有らんことを」
その、後姿を見つつ男は祈る。
哀れな息子が、その意思を貫けるようにと。