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転換するユーカリ

作者: YB

『バンダナコミック01』応募用シナリオです。

○どこかの美術館


 厳重なケースの中で展示されているモナリザの絵画の前

 10歳のユーカリは息を呑み動けなくなっている

ユーカリM「盗みたいぐらい欲しいな」

 ユーカリが幼い手を伸ばす

 するとモナリザはウィンクをして微笑みかけてきた

ユーカリ「くれるの?」

 その瞬間、モナリザの絵画から逆さラテン語のテキストが溢れ出し

 ユーカリの頭に吸い込まれていった

ユーカリ「これは‥‥‥ダヴィンチテキスト?」



○ヴェンダル日本支部・ロッカールーム


 ニホンローマ市にある摩天楼宮殿

 とことん無機質無味な超高層宮殿の地下にあるヴェンダル日本支部

 そのロッカールームにいる裸の少年

 耳を隠したボブショート、二重瞼の大きな瞳

 男にしては細く、女にしては厚みのある体

 高校二年、16歳のユーカリがロッカーからパイロットスーツを取り出す

ユーカリ「メンドクサイ、メンドクサイ、メンドクサイ」

 呪文のように唱えながら、伸縮性のあるスーツを着用する

ユーカリ「メンドクサイ!」



○ヴェンダル日本支部・スケール格納庫


 ヴェンダル所属造形師たちが人工知能粘土で対芸戦闘ロボ『スケール』を製作している

 その横をパイロットスーツ姿のユーカリがズカズカと不機嫌に歩いてくる

造形師A「いよいよ初出撃か〜。ユーカリ、俺たちの作った『スケール』壊すなよ」

 造形師の男が茶化すように声をあげる

ユーカリ「だったら自分で乗りなよ」

造形師B「ビルドアンドスクラップ、壊れたらまた作ればいいのさ」

 造形師の女が続けて声をあげる

ユーカリ「ボクだって壊さないように立ち回るつもり」

 ユーカリが適当に返事をして足を止める

 目の前にあるのは『スケールバーミナ』ユーカリの専用機だ

リオ「ユーカリ、こちらも安全は尽くすつもりだけど嫌なら‥‥‥」

 ユーカリの父親であるリオは細身の長身、丸メガネに無精髭の男でヴェンガル造形師の主任である

 リオは声を震わせて泣きそうな顔で声をかけた

ユーカリ「パパ、やめてよ。乗らなかったらまた家族会議でママの講釈を延々と聞く羽目になるんだから」

 リオは自らの泣き顔を隠すようにユーカリを抱きしめる

リオ「俺は心配で心配で」

ユーカリ「もう分かってるって」

 ユーカリもリオを抱きしめる、それは親子の儀式だった

 儀式を終えて離れる二人、ユーカリが照れくさそうにする

ユーカリ「バーミナはボクしか乗れないもんね」



○同・スケールバーミナコクピット内


 ユーカリが全長6メートルのスケールバーミナのコクピットに乗り込む

 慣れた手つきでコントロールパネルを操作する

 やや前傾姿勢で、下腹部と胸部に固定具が装着される

ユーカリ「ミックスシグナル正常、バーミナ起動」

 バーミナの頭部モニターが作動し、コクピット内部に周囲の光景が映し出される

ユーカリ「‥‥‥めんどくさい、けどやらなきゃ」

 固定具が装着された箇所からチクリとした疼きを感じる

ユーカリ「痛っ‥‥‥バーミナ、加減してよ」

 ユーカリが衝撃に備えるため上唇を結び、両目を強く閉じる

 ドクンッ! と体内に熱が駆け巡る

ユーカリ「んんっ‥‥‥だ、だめ‥‥そんなの‥‥」

 熱は下腹部と胸部に集中し堪えきれない疼きに声が漏れてしまう

ユーカリ「ふあぁ‥‥‥」

 そしてユーカリの胸部と臀部は大きく膨らみ、骨格すらも変形する

ユーカリ「転換するうぅぅぅぅぅぅっ!」

 甘ったるい叫びと共にユーカリの体が男から女へ変身する

 ゆっくりとまぶたを開き首を振って前髪をかきあげる

ユーカリ「心踊らせるよ、バーミナっ!」

 女になったユーカリは自信に満ちた表情でアクセルレバーを押し倒した



○ニホンローマ市街地(夕方)


 スケールバーミナがアンダーローマのヴェンダル格納施設からカタパルト発射される

 宙に浮かぶとバーミナは背中に装備されたジェットを噴射させて市街地に着地する

ユーカリ「ママ? 敵は?」

 女になったユーカリは軽口で目をキラキラさせる

 コクピットのパノラマモニターに白衣姿の女が映る

ヨーコ「問題なく地表に出たようだね、我が息子よ‥‥‥いや、今は『娘』か? むむむ?」

 ヨーコはボサボサの髪にメガネをかけた巨乳で、典型的な博士タイプの女だ

ユーカリ「どっちだっていいよ! それよりも作戦は? ボク、突然呼び出されたから何も聞いてないんだけど」

ヨーコ「ソーリーソーリ♪ ほいじゃ、サクっとブリーフィングしちゃおう!」

 パノラマモニターに墨汁のような液体にまみれたスペインマドリードの風景が映し出される

ヨーコ「クラス・プライマル、『ゲルニカ』が先日スペインマドリードで夢現象化。残っていたヴェンダルユーロ支部の精鋭が対処にあたったんだけど、二週間でマドリードのチープ化進行率は85%越え、街の防衛の放棄決定。この時点でユーロ圏内の主要都市が全てアートモンスターによってチープにされてしまった」

 ユーカリがバーミナを操作し、腰に装着されたナノマシンウォーターで満たされたペイントカートリッジを取り出し、アサルトライフルタイプのマーカー自動小銃にセットした

 スケールバーミナは全長6メートルのメカとは思えない人間のような動きで機動している

ヨーコ「ゲルニカはマドリードをチープ化したのち突如として姿を消した。ヴェンダル本部の『真珠の耳飾りの少女』は次にゲルニカが再出現する候補地を中国と日本に予測‥‥‥残念ながらニホンローマ市がババ引いちゃった♪」

ユーカリ「世界を守る為なら戦うけど‥‥‥ゲルニカってピカソでしょ? 人間がピカソに勝てるの?」

ヨーコ「むむむ? そりゃあ、勝てないでしょうね」

 二人の通信に割って入ってオペレーターの女の声が響く

オペレーター『ルネサンス反応増大‥‥‥この数はっ‥‥‥プライマル級ピカソ『ゲルニカ』オーバーラップまで5秒前、3、2、アートモンスターが現れます!」

 ユーカリの乗るバーミナから数百メートル先で黒い霧が渦を巻き、そこからゲルニカの兵隊が大量に湧き出してくる

 ピカソ特有のキュビスムで描かれた『兵隊』は次々出現して周囲に鉄砲を撃ち始める

ヨーコ「ユーカリ、回避して。チープアタックは生物や建造物に被害を与えないけどチープになってしまう。モナリザの御心を受けて開発された『スケールバーミナ』でもチープ化が進めばいずれ飽きて動けなくなるわ」

 ユーカリはバーミナを後退させる、先までいた場所に黒い墨が弾け飛ぶ

ユーカリ「分かってるけどもっ!」

ヨーコ「その墨汁みたいなのには触らないで」

ユーカリ「だったらもう前進できない!」

 ゲルニカの兵隊たちが鉄砲を乱射しゆっくりと迫ってきている

ヨーコ「ナノマシンウォーターで中和させてみて」

 ユーカリが「ふぅ、ふぅ」と息を整え、ビル陰から飛び出し、墨に向かってマーカー小銃を撃つ

 パープルカラーのマーカーが墨に当たると蒸発すると同時にシャボン玉を発生させて墨は消える

ユーカリ「これでいいの?」

ヨーコ「上出来、上出来♪ そうやって中和させながら相手に陣地を盗られないようにして」

ユーカリ「ママはいつも簡単に言うね!」

ヨーコ「今度はアートモンスターに向けて撃ってみて」

ユーカリ「はいはい、やればいいんでしょ!」

 バーミナがビル陰から飛び出し、今度は走りながらマーカー小銃を連射する

 発射されたナノマシンウォーターがゲルニカの兵隊に命中する

ヨーコ「やるじゃん♪」

ユーカリ「たくさん練習したからね」

 ナノマシンウォーターを浴びたゲルニカの兵隊が活動を停止させ蒸発すると同時にシャボン玉になって消える

ヨーコ「よし、なら平気だ! あとはゲルニカをなんとかしてちょうだい」

ユーカリ「行き当たりばったり!?」

ヨーコ「むむむ? 勝算はあるのよ。ゲルニカはユーロの精鋭たちとの激戦でかなり消耗してるし、それに‥‥‥あ、きたきた。ユーロ支部からの援軍よ」

ユーカリ「え?」

 ユーカリが空を見上げると最新鋭偵察機フネリックから一台のスケールが降下してくるところだった

ユーカリ「白とオレンジのスケール‥‥‥?」

 スケールが膝立ちで着地すると頭部を上げてビシッとポーズをとる

エリーゼ「スケールカーネーションよ! よろしくね、ニホンジン」

 公開通信で気の強そうな女の子の声が周囲に響く

ヨーコ「ユーロ支部のエース、エリーゼよ。ユーロ支部が凍結しちゃったから本日付でニホンローマ市に派遣されてきたの。所属はユーロのままだからよろしく」

 ユーカリの目の前、パノラマモニターがエリーゼの姿を映す

 金髪ロングの気の強そうな少女は歴戦の猛者の出立ちでニヤリと笑う

エリーゼ「へえ、同世代のスケール乗りに初めて会った。あなた、名前は?」

 モニター越しに二人の視線が重なった

ユーカリM「ボクが転換することは機密にしないといけないんだよね」

 ユーカリがチラッとヨーコを盗み見るが彼女は特に気にしていない

ユーカリ「‥‥‥ボクはユーコ、よろしくね」

エリーゼ「ユーコね。覚えた。仲良くなれそう。早速で悪いんだけど背中守ってくれる? リリーとローズが修理中で、さっ!」

 言い終える前にカーネーションは走り出していた

ユーカリ「え? え? 援護すればいいの? みんな生き急ぎすぎだよ」

 ゲルニカの兵隊の群れにカーネーションが単機突撃する

 カーネーションの手に持つ武器は長身の剣だった

 剣に刃はついておらず、刀身に沿ってナノマシンウォーターを纏っている

 スケールカーネションを操るエリーゼが叫ぶ

エリーゼ「わたしの恋わずらいを喰らいな! ダムールベルジェ!」

 カーネーションが長身の剣『ダムールベルジェ』を自由自在に振るう

 その間合いに入った全ての兵隊が次から次へと蒸発しシャボン玉へと姿を変える

ユーカリ「これが‥‥‥エースの実力。ってフォローしなくちゃ」

 カーネーションの間合いに入ってこない兵隊に向けて狙撃する

 一匹、二匹、三匹、と確実に敵を仕留めていく

エリーゼ「わたしたち気が合うわね、やりやすいっ!」

ユーカリ「エリーゼさんがすごいから、敵が射線に吸い込まれていく」

 戦況が一気に逆転し、最後の兵隊にカーネーションがトドメを刺す

ユーカリ「‥‥‥終わったの?」

エリーゼ「んにゃ、わたしらはここからやられた‥‥‥ゲルニカのミノタウロスによって。相棒、引き続き背中は任せた!」

 通信回線にオペレーターの女の声が割って入る

オペレーター『超高密度のルネサンス反応確認‥‥‥来ます、ゲルニカの『ミノタウロス』です!」

 現実と夢がオーバーラップする

 そこから現れたのはかつてピカソが描いた巨大な牡牛だった

ミノタウロス「モォォォォォン!」

 咆哮と同時にカーネションは駆け出し、ダムールベルジェをミノタウロスに振り落とす

エリーゼ「チッ、学習したか!?」

 ミノタウロスは長身の剣を二本の角で受け止めた

 剣と角が前後へ押し合う

オペレーター女「まだ来ます!」

 ユーカリはその言葉を聞き周囲を警戒する

 ミノタウロスの周辺から黒いモヤが漂いゲルニカの『灯火を持つ女』が一、二と増えていき、あっという間に五、十、三十、百と増殖していく

 ユーカリはバーミナを操作し、マーカー小銃を連射するが灯火を持つ女の増殖スピードには勝てない

ヨーコ「ユーカリ、ゲルニカはミノタウロスと灯火を持つ女で最後よ」

 母親であるヨーコの声にユーカリは覚悟を決める

ユーカリ「これで最後なら‥‥‥エリーゼさん、もう少しだけ堪えてください!」

エリーゼ「そのつもりっ、だっ!」

 エリーゼの剣撃とミノタウロスの拳がぶつかり合う

 ユーカリはトリガーを握ったまま祈りを込める

 そして、モナリザからもらったダヴィンチテキストを頭の中で解放する

ユーカリ「ダヴィンチテキスト───ウィンザー手稿より、より正確な位置と距離を把握する!」

 ユーカリからカラフルな粒子が溢れて、逆さラテン語のテキストがコクピット内部で浮遊する

ユーカリ「ママ! システム『最後の晩餐』発動! 座標は全てこちらで指定する!」

ヨーコ「あいあいさー!」

 ニホンローマ市の建造物の殆ど全てに設置された固定式圧縮マーカー砲が同時に作動する

 その数、優に百を超える

 ユーカリは瞬時に砲台全てに座標を送り込み、敵を殲滅させるために一番効率の良い地点を絞り出す

 スーパーコンピュータでも数時間を要す計算をダヴィンチテキストを解放したユーカリは三秒足らずで達成した

ユーカリ「神の子羊よ! この世の罪をとり除かん!」

 ユーカリの叫びと同時にマーカー砲が一斉に発射

 一瞬にしてニホンローマ市がシャボン玉で溢れ返った

エリーゼ「油断したな! もらったぁぁぁぁぁっ!」

 エリーゼが長身の剣を振り抜くとミノタウロスの首と胴体はバラバラになった

 そしてミノタウロスもまたシャボン玉になって存在をなくす

エリーゼ「‥‥‥みんな、仇はとったよ」


○ニホンローマ市街地(夕方)


 ユーカリは状況を確認するためにスケールバーミナのコクピットから地面に降りた

 すると、先ほどまであった根拠なき自信や正義感が脱力していき恥ずかしさに襲われる

ユーカリM「ボクのアホアホ! 女になったらいつも調子に乗って‥‥‥」

 冷静さを取り戻していく過程は同時に男に戻る合図でもあった

ユーカリ「あ‥‥‥も、戻っちゃう‥‥‥」

 そんなユーカリの元にエリーゼが手を振って駆け寄ってくる

エリーゼ「おーい、ユーコ! 最後のあれすごかった! どうやったか教えてよ!」

 ユーカリはハッとエリーゼの方を見つめるが、もうすでに転換反応は始まっていた

ユーカリ「ご、ご、ごめん! また今度ね!」

 ユーカリはエリーゼとは反対の方へ走り去っていった

 取り残されたエリーゼは「恥ずかしがり屋さんなのかしら」と呟き

エリーゼ「ユーコか‥‥‥うん、絶対に面白い奴!」

 エリーゼは英雄の素質の思わせる大きな瞳を輝かせた


○アンダーローマにあるユーカリの家(夜)


 ニホンローマ市の地下に広がるアンダーローマ

 その住宅密集地にあるユーカリ家族の暮らす家

 男に戻ったユーカリは重い足取りで自分の部屋のドアを開ける

ユーカリ「ハイロウ? また勝手にあがって‥‥‥いくら幼なじみでもいつか通報するよ」

 部屋ではハイロウがユーカリの机で漫画を読んでいた

ハイロウ「‥‥‥遅えぞ」

 ハイロウが立ち上がりユーカリに迫ってくる

ユーカリ「ずっと待ってたの?」

 ハイロウがユーカリの腕を掴んでそのまま廊下の壁に押しつけた

 小柄なユーカリに比べてハイロウは長身の筋肉質で一重まぶたのまつ毛は長い

ハイロウ「授業中に警報鳴って避難してたら突然お前がいなくなったんだぞ。心配するに決まってるだろ」

 ユーカリはカッと顔が熱くなるのを感じて目線をそらす

ユーカリ「ご、ごめんって。えっと、その‥‥ママの研究所に避難していて。家族の決まりで」

 ユーカリがスケールパイロットであることはヴェンダル組織内部だけの機密だった

ハイロウ「‥‥‥」

 ハイロウがユーカリを睨みつけ、さらに顔を近づける

ユーカリ「ハイロウ‥‥‥手、痛いよ」

 ユーカリが涙目でそう訴えかけると、ハイロウはユーカリの首元に鼻をつける

ハイロウ「‥‥‥お前からメスの匂いするけど、どういうこと?」

ユーカリ「えっ、知らないよ! いやっ、もしかしたら避難先にいたママの匂いかもなー。ほら、あの人距離感バグってるし」

 ユーカリは冷や汗をたらしながら『スケールバーミナに乗るために女になった』ことを隠す

ハイロウ「ふーん‥‥‥相変わらず嘘つくの下手だな」

 ハイロウはユーカリの手を離して背中を向ける

ハイロウ「まだまだ子供なんだから、あんま心配させんな」

ユーカリ「ほんっとにそういうんじゃないから!」

 ハイロウはそのまま振り返らなかった

 ユーカリは一人になった廊下で「‥‥‥ハイロウのバカ」と呟いた


○ローマ高校・二年生の教室(朝)


 ユーカリが筆箱についた小さな鏡を見つめ前髪を気にしている

 大人に近づくほど前髪は決まらなくて困る

ハイロウ「おはよう」

 ユーカリの隣の席に腰を下ろしたハイロウが欠伸をする

ユーカリ「うん、おはよう」

 ユーカリはいつものようにハイロウの横顔を見つめるが

 昨日のことを思い出して顔に熱を感じてしまう

ユーカリ「今日もARシュートの朝練?」

 ユーカリは誤魔化すように筆箱の鏡を閉じる

ハイロウ「おう、若手はいびられるのが仕事だからな」

ユーカリ「高校生で初のプロシューター、昨シーズン得点王含め五冠のハイロウ選手がいびられるって嘘でしょ」

 ハイロウは鼻息を捨てる

ハイロウ「フンッ‥‥‥昨シーズンは俺のデータもなかったしまわりも油断してた。本当の勝負は今年からだ」

ユーカリ「うん、ボクも去年よりもっと応援するから‥‥‥頑張って!」

ハイロウ「俺が昨シーズンよりも成績残したらお前に褒美を要求するから考えとけよ」

ユーカリ「えー、何それ‥‥‥でも、分かった。ボクにできることなら何でもする」

ハイロウ「約束だからな」

 ハイロウがまつ毛の長い眼差しを向けてくる

ユーカリ「うん‥‥‥って、ボクあまりお金ないし、安い物にしてよ!」

ハイロウ「どうしよっかな♪」

ユーカリ「無茶振りは駄目だよ!」

 教室のドアが開く

 それを合図に二人は黒板へ目を向ける

 担任の女性教師が教壇に手をつく

教師「突然だけどうちに転校生がきました‥‥‥彼女、ちょっと変わった仕事をしているけど仲良くしてあげてね」

 女性教師がそう説明すると、教室内がザワザワとする

 ユーカリはハイロウの反応が気になって隣の席を盗み見する

 ハイロウは早速、机に突っ伏して眠っていた

教師「じゃあ、入ってきて」

 教室に一人の少女がやってくる

 少女は制服ではなく、体のアウトラインがはっきりとでるスケールのパイロットスーツ姿だった

エリーゼ「シャンゼリゼ通りからやってきたエリーゼよ、みんなよろしくね」

 エリーゼは胸を寄せウィンクをする

 ユーカリは声を上げそうになるがぐっと堪える

ユーカリM「エリーゼさんはこっちのボクのことは知らないんだ。知らないふりしないと‥‥‥」

教師「ところでエリーゼ、制服は?」

エリーゼ「わがまま言って転入させてもらったからまだ準備ができてないの。来週には届くと思うから、それまではわたしの職場の制服ってことで」

 エリーゼは自分のスタイルの良さを見せびらかすように胸を張る

教師「‥‥‥あとで貸すから。その格好はやめなさい」

エリーゼ「別にわたしはかまわないけど‥‥‥ん? ちょっと待って」

 唐突にエリーゼが目を閉じて鼻を「フンフン」鳴らして匂いを嗅ぐ

教師「エリーゼ?」

 教師の問いかけを無視して、エリーゼは警察犬ように匂いを嗅ぎながら教室をねり歩く

 そして、立ち止まったのはユーカリの前だった

エリーゼ「あなたから面白い匂いがするわっ!」

ユーカリ「えっ!」

 エリーゼがキラキラした瞳でユーカリをのぞき込む

ユーカリ「‥‥‥たぶん、初めまして、だと」

エリーゼ「うん、そうね。あなたみたいな可愛い子は知らない」

ユーカリ「可愛い? ボクが?」

エリーゼ「あら、あなた男の子だったの。ごめん、紳士に可愛いは失礼だったわね」

ユーカリ「‥‥‥謝らなくてもいいけど」

 エリーゼがユーカリの髪に触れる

エリーゼ「うふふ、気にいちゃった。わたしとお友達になりましょう」

 ユーカリは返答に困る

ユーカリM「同じスケールパイロットとはいえ、別支部の人と仲良くしていいのかな」

 突然、ユーカリの目先をゴツゴツした手がよぎった

 それはハイロウの手がエリーゼの腕を掴んだものだった

ハイロウ「勝手に触んじゃねえよ」

 ハイロウが立ち上がりエリーゼを見下ろす

 エリーゼも女の子にしては背の高い方だが、ハイロウは男子の中で一番背が高い

エリーゼ「へえ、いい動きするじゃん♪  素人にし・て・はっ!」

 エリーゼが腰を旋回させてその力を掴まれた腕に伝達する

 瞬間、大柄なハイロウの体が空中で回転した

ハイロウ「うおっ‥‥‥あぶねーな」

 ハイロウは宙に浮いた状態から体勢を立て直し綺麗に着地をする

 特筆すべきはハイロウは上半身をほとんど使わず下半身のパワーだけでエリーゼの力の伝達をいなしたことだ

エリーゼ「目立つなって言われてるけど、あんたムカつくから殺ってあげる!」

 エリーゼが腰元のファスナーから小型のインクガンを取り出す

ハイロウ「おかしな格好してなんだこいつは、一回死んどけ」

 ハイロウが腰元のホルダーからARシュートハンドガンを取り出す

 そして、ユーカリを挟んで二人の銃口が互いに向き合う

 状況に追いつけないユーカリは頭を抱えて涙目になる

ユーカリM「なんで二人が喧嘩してんの!? メンドクサイ!」


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