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城塞都市ケルニヒベルグ⑪

 ヴェルナーに連れられた先は療養院ではなく、兵舎の一角だった。聞けば今回の攻城戦に参加した兵士の一人が頭痛を訴えているようだ。初日の戦闘で猪頭鬼(オーク)の怪力で派手に吹っ飛ばされたが、外からわかる外傷もなく歩いて城塞都市オストプロシアに帰還したらしい。翌朝から起き上がると頭痛を覚えるようになり、徐々にめまいを伴うようになって立てなくなり、心配した仲間の兵士が小夜たちを連れてきた。


「頭痛はどんな感じですか?」


 小夜の問いに頭痛に苦しむ兵士は重苦しい鈍痛を訴えた。そして伴うめまいについても話した。


 ヴィルヘルムが小夜の指示通り兵舎の自室で仰向けになっている兵士の頭を持ち上げた。顎が胸に付くほど首を前屈させても、兵士は頭痛を訴えない。その後ヴィルヘルムは片足ずつ伸ばしたまま持ち上げたり、膝を曲げさせながら股関節を屈曲させたが兵士は痛がらなかった。


≪髄膜刺激症状は無しか。脳内出血やくも膜下出血の可能性は低そうだな。≫


 その後小夜の指示にてヴィルヘルムは仰向けのままの兵士に手足の運動性や巧緻性(こうちせい)(手足を器用に使う機能)を診ていたが、明らかな異常は見られないようだ。


≪うーん、脳内に異常もなさそうだなぁ。≫


 一見すると異常の無さそうな兵士ではあるが、試しにベッド上で上半身を起こさせると途端に強い頭痛を訴え始めた。


 続ていてヴィルヘルムの『診断術』、その真骨頂とも言える体表から内部を見る力をヴィルヘルムの右手が発揮し始めた。頭痛を訴えていた兵士の頭部を隈なく『診察』するヴィルヘルム、しかし彼は首を横に振った。


「頭皮と頭骨の間、頭骨と脳髄の間に血の塊は見られません。脳髄を取り巻く水の形状に左右差は無さそうです。」


≪あれ?≫


 小夜は頭皮の下か頭蓋骨の内側に血種ができる、帽状腱膜下血腫や硬膜下血腫を疑っていたのだがどうやら見込み違いだったようだ。


 この日小夜たちは鎮痛効果のある柳の樹皮を煮た薬湯をこの兵士に渡し、経過観察をするように話した。帰り道にて無言の小夜を(おもんばか)るように、ヴィルヘルムは快活に語り始めた。


「きっとあの兵士には体にけががないのですよ。柳の煮出し湯で良くなりますよ。大丈夫。」


 そんなヴィルヘルムを押しやるようにして、

「小夜を癒すのは私の仕事!」

とばかりに小夜の右腕に抱きつき、もふもふの尻尾を擦りつけながら、宴会会場で腸詰肉とともに待っていたエルフェリンが抱き着いてきた。小夜は皆の気遣いをうれしく思いつつも、一抹の不安が拭い去れないまま宴会会場に戻ってきた。


 

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