城塞都市ケルニヒベルグ③
先遣隊の陣形は慎重に慎重を重ねて練り上げられていた。配備された槍を構えた兵士が円を描き、その内円にもう一列同じ槍を携えた兵士が並ぶ。その内部には数人の弓兵がいて、中心には『爆炎術師』ゲオルグと先ほど吠えた先遣隊の隊長がいた。隊長はゲオルグ考案の燃える水差し、アルコールが詰められた火炎瓶を数本持ち、種火が消えぬよう、燃える水差しを使うタイミングを誤らぬようその歩みを進めていた。木柵や城門のない戦い、それは兵士達を恐怖させていた。しかしそれ以上に兵士たちは、今まで蹂躙された命に報いる復讐を欲していたのだ。
先遣隊は城塞都市ケルニヒベルグの入り口を抜け、廃墟と化した街に足を踏み入れた。長い間人間の手入れが為されていないこの都市は、文字通りボロボロになっていた。しかし建物はその形を維持し、それが地形を複雑化させ、人間に対する恐れを覚えた猪頭鬼に隠れる場所を提供していた。
入り口を抜けた先遣隊の目の前には街の中でも一際大きく目立ち存在、当時は迎賓館と呼ばれていたが実際には入ってきた人間を監査する館、関所とも言うべき横に長い建物がその行く手を阻んでいた。建物の中は人間が一人ずつしか通る余裕はなく、かつてこの街が人間の物であった頃はここで入ってくる人間の検疫や選別を行っていた。そんな建物も猪頭鬼の侵入を阻むことが出来ず、いまや廃墟と化している。先遣隊指揮官は迷わずその建物に火をつけた燃える水差しを投げ込んだ。
ボワッ
その建物は上部を雪に覆われてはいたものの、内部は乾燥しており炎はあっという間にその建物を嘗め尽くした。
ギャワー
猪頭鬼だ。炎と煙に巻かれ、這う這うの体で逃げ出した先、そこには先遣隊の槍が待ち受けていた。己が体を焼く炎を払うのに夢中な猪頭鬼が多方向からの槍を防げるはずもなく、一体目の猪頭鬼はあちこち焦げた死体を晒すこととなった。すでに猪頭鬼たちの巣窟となり果てた城塞都市ケルニヒベルグ、今回の作戦は城塞都市ケルニヒベルグの奪還ではなく、猪頭鬼ごと焦土と化すことであった。
「次出てくるぞ。」
先遣隊長の叫びが業火の中響いた。




