城塞都市ケルニヒベルグ①
「我がプロイゼ帝国の興廃、この一戦にあり。各員一層奮闘努力せよ。」
領主兼最高司令官の訓示は非常にシンプルに締めくくられた。雪にすっぽりと包み込まれた城塞都市オストプロシアにて、ケルニヒベルグ攻略戦の出陣式が早朝に執り行われていた。
≪猪頭鬼たちの自滅を待つって選択肢はないのかな?≫
出陣式を遠目に眺めながら小夜は思案に耽っていた。ここのところ猪頭鬼の城塞都市オストプロシアに対する襲撃は無い。おそらく前回の遠征にて相当数の猪頭鬼が失われたのだろう。兵士やゲオルグたち、つまりは前線で戦ったことのある者たちは、猪頭鬼が人間に怯え始めたからと言う。確かにそうかも知れない、少し前までは一方的に駆逐するだけの存在であった人間が、その知恵と武器を以て今や猪頭鬼たちの脅威となり始めている。
≪攻めてこない相手を攻める必要あるのだろうか?≫
小夜は猪頭鬼に同情しているわけではない。猪頭鬼は殲滅すべき人類の敵であることは、猪頭鬼を見たこともない小夜にとっても共通認識だ。ただ城外戦にて怪我人や死人が出るのが小夜にとってなにより嫌だった。作戦の詳細を小夜は知らなかったが、今回は猪頭鬼の牙城と成り果てた城塞都市ケルニヒベルグの殲滅が目的らしい。そうなれば城門を活かした戦い方も、平野での木柵を用いた戦いもできない。小夜は城塞都市ケルニヒベルグがどんなところかは知らないが、オストプロシアと同じような街ならばそこで行われるのは市街戦である。身を隠すところのない平野に比べ、建物に潜んで攻め手の不意を衝く、そんな戦い方もあるだろう。今までは警戒することなく突っ込んできたと聞く猪頭鬼たち、彼らは人間に対する恐怖を知ったわけだからそれなりに慎重になるだろう。だからあの遠征以来攻めてこないのだと小夜は考察する。
「和平は・・・・・・、有り得ないか。」
小夜は無理とわかっていながらもつぶやきを漏らさずにはいられなかった。小夜のいた世界でも人間同士の争いは続いているのに、言葉の通じない猪頭鬼と人間、捕食者と被食者、簒奪者と被害者では分かり合えるはずもない。言いようのない虚しさを抱えながら、城塞都市ケルニヒベルグへ向かう兵士たちを小夜は見送った。




